指揮官の休日 No.085 里の秋
2018/07/13 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、No.093 防災に関する情報 を掲載しています。
台風や豪雨の際に気象庁や自治体から出される情報について考えています。
詳しくは、https://aegis-cms.co.jp/1209 をご覧ください。
No.085 里の秋
これから本格的な夏が始まるのに「里の秋」とは何事かと思っておられる方が多いかと思います。
言わずと知れた斉藤信夫作詞、海沼實作曲になる童謡の名曲です。
私の中ではこの曲が恐ろしく暑い夏とみつ豆の想い出と密接に結びついているのですが、読んでいる方はますます訳が分からんというところでしょう。
しばらく我慢してお付き合いください。
私は中学に入るまでみつ豆というものを食べたことがありませんでした。
全寮制の中学に入学し、夏休みを目前にしたある日の寮の夕食のデザートに冷たいみつ豆が出て来て、こんなに美味しいものがあるのかとびっくりしたのです。周りの連中に聞くと、それほど珍しいものでもなく、むしろ初めて食べたという私にびっくりしていました。
夏休みで帰省する際、家で食べようと思ってデパートで箱入りの贈答用と思しきみつ豆を買って帰りました。
さて、家に戻った日の夕食、母に頼んで冷やしてもらっておいたみつ豆がデザートに出てきました。
その席で、私がそれまでみつ豆を食べたことが無かった理由が分かりました。
私の父は旧制神戸商船学校を戦時中に卒業しました。クラスの半分が商船隊へ、半分が海軍に行き、父は海軍士官として太平洋戦争を戦いました。
昭和19年の後半から20年に米軍が同島に上陸してくる直前まで、父は小笠原派遣の海防艦の先任将校として同島への作戦輸送に従事していました。
海防艦というのは駆逐艦の後ろを輸送艦にしたような船で、対空火器を多数積み個艦防空能力の高い船でした。
当時の硫黄島にとっては父たちが決死の思いで運んで来る物資が唯一の頼みだったようです。
何度も米海軍の潜水艦や艦載機に襲われながらも同島への輸送を続けていたのですが、ある日ついに米空母機動部隊の艦載機による波状攻撃を受けて硫黄島のすぐ沖で撃沈され、父は負傷した多くの部下とともに硫黄島へ流れつきました。
父も背中に負傷しており、上陸した時は自分では動くこともできない状況だったそうで、島に設営されていた病院壕へ収容されました。
同島への補給は完全に断たれ、米軍の上陸を待って玉砕するだけが残された道であり、父も覚悟を決めていたそうですが、武器も持たず、負傷してろくに身動きも取れない状態では迷惑をかけるだけなので、米軍が上陸してきたら自決するしかないと思っていたそうです。
しかし、硫黄島の陸軍の兵士たちは、それまで父の船が万難を排して様々な物資を運んできたことをよく知っていたため、病院壕にいてもとても手厚く扱ってくれ、よく見舞いに来てくれたそうです。
退院して部下の乗員が暮らしている壕に移った日、陸軍部隊が退院のお祝いに現れ、なんとみつ豆を一缶持ってきてくれたのだそうです。
ろくに食べるものもなくなっていた情勢下、甘いものなどは超々高級品だったに違いありません。
父はとんでもないと必死に辞退したのだそうですが、陸軍も今まで持久できたのはあなたの海防艦のお陰だとしてどうしても食べてくれと言って引き下がらないのだそうです。
そこで父はみんなで食べようと提案し、そこにいた父の船の乗員も含めた30人近くの兵士たちとみつ豆の缶詰一缶を分け合ったのだそうです。
一人スプーンに半分くらいの量だったそうです。
父はしばらくして奇跡的現れた潜水艦に部下の乗員と共に収容されて佐世保に帰還し、硫黄島での玉砕を免れました。この潜水艦が現れなかったら私もこの世に存在しなかったことになります。
父に言わせると、その時みつ豆を一緒に食べた陸軍の兵士たちにとっては最後の甘いものだったに違いなく、それがスプーン半分でしかないみつ豆の汁だったのです。
父曰く「それが冷やしたみつ豆じゃなくて、生暖かいみつ豆なんだ。」
硫黄島中に掘られた壕の中は気温が50度を超えるところが珍しくないのです。
母はこのことを知っていて、みつ豆を見ると父が辛そうな顔をするので買ったことが無かったのでした。
さて、時は移り、硫黄島で半煮えになったみつ豆を陸軍の兵士たちと分け合った海軍予備士官の息子が海上自衛隊の若い幹部となり、その乗った船がある日、硫黄島の沖に投錨しました。
その日は硫黄島で慰霊祭が行われる日であり、訓練航海の途次、日程を合わせて硫黄島沖に向かい、前日に艦上で洋上慰霊祭を行い、その翌日、硫黄島での慰霊祭に参加するために到着したのでした。
私は慰霊祭に参加する儀じょう隊指揮官として船の乗員で編成した儀じょう隊を連れて硫黄島に上陸しました。
慰霊祭には硫黄島で戦死した兵士のご遺族なども招かれていました。
儀じょう隊の出番は、儀式の冒頭に行われる英霊に対する捧げ銃の礼及び弔銃の発射であり、滞りなく役目を果たし、参列者の一番後ろに回ってその後の儀式を見ていました。
そこで東京からやってきた海上自衛隊東京音楽隊の演奏が披露され、その中で歌われたのが「里の秋」でした。
この「里の秋」という歌は、昭和20年の12月、「外地引揚同胞激励の午后」というラジオ番組の中で歌われたもので、外地に残され復員を待つ兵士などを激励するために作られた曲でした。一番はふるさとで母親と共に過ごす秋の様子、二番は出征中の父を思う様子、三番は父の無事な復員を願う母子の思いが綴られています。
この曲を東京音楽隊の女性隊員が歌ったのです。
硫黄島に特別な思いを持つ父を持った私としても硫黄島という島は特別な島で、この島の陸軍の兵士たちが父たちを暖かく迎えてくれなかったら、私は存在していなかったかもしれないのです。
私は慰霊祭でそんなことを考えながらこの歌を聴いているうちに不覚にも眼が見えなくなりました。音楽を聴いて涙が出るという初めての経験でした。
季節は3月で夏ではありませんでしたが、南方の硫黄島の凄まじい熱気の中、流れてくる「里の秋」に鳥肌の立つ思いを一人味わっていました。
硫黄島という島は本当に小さな絶海の孤島です。東西8km南北4kmしかない小さな島で、生きて帰ることのできない運命を知っていた守備隊員がどのような思いで故郷の方を眺めていたのかを思うと、制服を着た私にとって身につまされる想いが突き上げて来ました。
志願して制服を着ているのではなく、徴兵で連れてこられた兵士たちにとって、本土との間にある1000kmの海がどう見えたのかと考えると、押さえきれないものがありました。
それ以降、私は何度か硫黄島へ行っていますし、近くを航行したこともあります。
行くときには必ずペットボトルの水を持って、直前まで冷蔵庫で冷やし、あるいは冷凍室で凍らせておき、着くとまず摺鉢山の上に作られた慰霊塔に向かい、献水をすることを習いとしていました。
近くを航行する時は、硫黄島が水平線の向こうに見えなくなるまで艦橋のさらに上にある上部指揮所に上って眺めているのが常でした。
その都度、不思議な夢を見たり、真夏に寒気に襲われたりという経験をする不思議な島です。
硫黄島は規則により民間人の立ち入りは制限されていますので、私が上陸する機会はもうありませんが、いずれ自分の海洋調査船を作って硫黄島の近くまで行って、洋上から慰霊をしたいと思っています。
YouTubeに私が参加した慰霊祭ではありませんが、同島で行われた慰霊祭で「里の秋」が歌われているものがありましたので、URLを記載しておきます。是非、ご覧ください。
また、海上自衛隊の歌姫三宅由佳莉さんが歌っている「里の秋」も見つけましたので合わせてご鑑賞下さい。
さらに、私が指揮官を勤めていた儀じょう隊の弔銃発射の模様がどういうものであるのかご理解ただける動画も発見しました。ご参考までに。
https://www.youtube.com/watch?v=_z986sZVAwI
https://www.youtube.com/watch?v=ZAwapfnoexs
https://www.youtube.com/watch?v=UtouMZiY05Q
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No.093 防災に関する情報 を掲載しています。
中国・四国地方を襲った大雨のために多くの方々が亡くなり、行方不明の方も多数発生しています。
このような自然災害の発生に際し、避難所が設けられ、適切な誘導が行われると財産はともかくとして貴重な人命が損なわれるという悲劇を防ぐことができます。
よくニュースを観ていると避難指示や避難勧告などという言葉が聞かれます。
本コラムでは、本格的な台風シーズンを前にあらためてこれらの言葉について考えてみます。
続きはこちらからお読みください。
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『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
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スペシャルセミナー
――危機管理が人を育て、事業を伸ばす!――
「危機を機会に変えるクライシスマネジメントの5大戦略」
どうすれば危機に陥りにくい組織を作ることができるのか、危機的な状況に陥った場合に、毅然として対応できるようになるためにはどのような組織を作っておけばいいのかを、イージスクライシスマネジメントシステムを体系化した講師が語ります。
経営トップの皆様、役員、各部門の長の方々のご参加をお勧めします。
開催場所:ホテルグランドヒル市ヶ谷
東京都新宿区市ヶ谷本村町4-1
開催時期:決定次第お知らせします。
セミナー料金: ¥38,000 (返金保証)
内容にご不満の場合は、理由の如何を問わず全額を返金させていただきます。
エクゼクティブセミナー
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「危機を機会に変える経営トップのための5大戦略」
どうすれば危機に陥りにくい組織を作ることができるのか、危機的な状況に陥った場合に、毅然として対応できるようになるためにはどのような組織を作っておけばいいのかを、イージスクライシスマネジメントシステムを体系化した講師が語ります。
スペシャルセミナーの内容を踏襲しつつ、特に経営トップのために企画されたセミナーです。部隊指揮官、企業の役員、経営者を経験している講師が、経営トップの皆様に特に伝えたい思いを語ります。
経営トップ、役員等の方々限定のセミナーです。
開催場所: 当社鎌倉極楽寺セミナーハウス
リゾート感覚溢れる湘南鎌倉の隠れ家的セミナーハウスです。
限定少人数で開催いたします。
(住所は公開しておりません。参加の方に個別にお知らせします。)
開催時期: 決定次第お知らせします。
セミナー料金: ¥38,000 (返金保証)
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その他
特別開催: 経営トップの皆様が役員や担当者をお連れになり、チームで受講したいとお考えの場合は、上記の当社鎌倉極楽寺セミナーハウスのエクゼクティブセミナーをご利用ください。当社開催日以外であっても、日程の調整を承ります。
セミナーについて、詳しくはこちらをご覧ください。
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるのかどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたいと考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がないので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂きます。
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No.085 里の秋
これから本格的な夏が始まるのに「里の秋」とは何事かと思っておられる方が多いかと思います。
言わずと知れた斉藤信夫作詞、海沼實作曲になる童謡の名曲です。
私の中ではこの曲が恐ろしく暑い夏とみつ豆の想い出と密接に結びついているのですが、読んでいる方はますます訳が分からんというところでしょう。
しばらく我慢してお付き合いください。
私は中学に入るまでみつ豆というものを食べたことがありませんでした。
全寮制の中学に入学し、夏休みを目前にしたある日の寮の夕食のデザートに冷たいみつ豆が出て来て、こんなに美味しいものがあるのかとびっくりしたのです。周りの連中に聞くと、それほど珍しいものでもなく、むしろ初めて食べたという私にびっくりしていました。
夏休みで帰省する際、家で食べようと思ってデパートで箱入りの贈答用と思しきみつ豆を買って帰りました。
さて、家に戻った日の夕食、母に頼んで冷やしてもらっておいたみつ豆がデザートに出てきました。
その席で、私がそれまでみつ豆を食べたことが無かった理由が分かりました。
私の父は旧制神戸商船学校を戦時中に卒業しました。クラスの半分が商船隊へ、半分が海軍に行き、父は海軍士官として太平洋戦争を戦いました。
昭和19年の後半から20年に米軍が同島に上陸してくる直前まで、父は小笠原派遣の海防艦の先任将校として同島への作戦輸送に従事していました。
海防艦というのは駆逐艦の後ろを輸送艦にしたような船で、対空火器を多数積み個艦防空能力の高い船でした。
当時の硫黄島にとっては父たちが決死の思いで運んで来る物資が唯一の頼みだったようです。
何度も米海軍の潜水艦や艦載機に襲われながらも同島への輸送を続けていたのですが、ある日ついに米空母機動部隊の艦載機による波状攻撃を受けて硫黄島のすぐ沖で撃沈され、父は負傷した多くの部下とともに硫黄島へ流れつきました。
父も背中に負傷しており、上陸した時は自分では動くこともできない状況だったそうで、島に設営されていた病院壕へ収容されました。
同島への補給は完全に断たれ、米軍の上陸を待って玉砕するだけが残された道であり、父も覚悟を決めていたそうですが、武器も持たず、負傷してろくに身動きも取れない状態では迷惑をかけるだけなので、米軍が上陸してきたら自決するしかないと思っていたそうです。
しかし、硫黄島の陸軍の兵士たちは、それまで父の船が万難を排して様々な物資を運んできたことをよく知っていたため、病院壕にいてもとても手厚く扱ってくれ、よく見舞いに来てくれたそうです。
退院して部下の乗員が暮らしている壕に移った日、陸軍部隊が退院のお祝いに現れ、なんとみつ豆を一缶持ってきてくれたのだそうです。
ろくに食べるものもなくなっていた情勢下、甘いものなどは超々高級品だったに違いありません。
父はとんでもないと必死に辞退したのだそうですが、陸軍も今まで持久できたのはあなたの海防艦のお陰だとしてどうしても食べてくれと言って引き下がらないのだそうです。
そこで父はみんなで食べようと提案し、そこにいた父の船の乗員も含めた30人近くの兵士たちとみつ豆の缶詰一缶を分け合ったのだそうです。
一人スプーンに半分くらいの量だったそうです。
父はしばらくして奇跡的現れた潜水艦に部下の乗員と共に収容されて佐世保に帰還し、硫黄島での玉砕を免れました。この潜水艦が現れなかったら私もこの世に存在しなかったことになります。
父に言わせると、その時みつ豆を一緒に食べた陸軍の兵士たちにとっては最後の甘いものだったに違いなく、それがスプーン半分でしかないみつ豆の汁だったのです。
父曰く「それが冷やしたみつ豆じゃなくて、生暖かいみつ豆なんだ。」
硫黄島中に掘られた壕の中は気温が50度を超えるところが珍しくないのです。
母はこのことを知っていて、みつ豆を見ると父が辛そうな顔をするので買ったことが無かったのでした。
さて、時は移り、硫黄島で半煮えになったみつ豆を陸軍の兵士たちと分け合った海軍予備士官の息子が海上自衛隊の若い幹部となり、その乗った船がある日、硫黄島の沖に投錨しました。
その日は硫黄島で慰霊祭が行われる日であり、訓練航海の途次、日程を合わせて硫黄島沖に向かい、前日に艦上で洋上慰霊祭を行い、その翌日、硫黄島での慰霊祭に参加するために到着したのでした。
私は慰霊祭に参加する儀じょう隊指揮官として船の乗員で編成した儀じょう隊を連れて硫黄島に上陸しました。
慰霊祭には硫黄島で戦死した兵士のご遺族なども招かれていました。
儀じょう隊の出番は、儀式の冒頭に行われる英霊に対する捧げ銃の礼及び弔銃の発射であり、滞りなく役目を果たし、参列者の一番後ろに回ってその後の儀式を見ていました。
そこで東京からやってきた海上自衛隊東京音楽隊の演奏が披露され、その中で歌われたのが「里の秋」でした。
この「里の秋」という歌は、昭和20年の12月、「外地引揚同胞激励の午后」というラジオ番組の中で歌われたもので、外地に残され復員を待つ兵士などを激励するために作られた曲でした。一番はふるさとで母親と共に過ごす秋の様子、二番は出征中の父を思う様子、三番は父の無事な復員を願う母子の思いが綴られています。
この曲を東京音楽隊の女性隊員が歌ったのです。
硫黄島に特別な思いを持つ父を持った私としても硫黄島という島は特別な島で、この島の陸軍の兵士たちが父たちを暖かく迎えてくれなかったら、私は存在していなかったかもしれないのです。
私は慰霊祭でそんなことを考えながらこの歌を聴いているうちに不覚にも眼が見えなくなりました。音楽を聴いて涙が出るという初めての経験でした。
季節は3月で夏ではありませんでしたが、南方の硫黄島の凄まじい熱気の中、流れてくる「里の秋」に鳥肌の立つ思いを一人味わっていました。
硫黄島という島は本当に小さな絶海の孤島です。東西8km南北4kmしかない小さな島で、生きて帰ることのできない運命を知っていた守備隊員がどのような思いで故郷の方を眺めていたのかを思うと、制服を着た私にとって身につまされる想いが突き上げて来ました。
志願して制服を着ているのではなく、徴兵で連れてこられた兵士たちにとって、本土との間にある1000kmの海がどう見えたのかと考えると、押さえきれないものがありました。
それ以降、私は何度か硫黄島へ行っていますし、近くを航行したこともあります。
行くときには必ずペットボトルの水を持って、直前まで冷蔵庫で冷やし、あるいは冷凍室で凍らせておき、着くとまず摺鉢山の上に作られた慰霊塔に向かい、献水をすることを習いとしていました。
近くを航行する時は、硫黄島が水平線の向こうに見えなくなるまで艦橋のさらに上にある上部指揮所に上って眺めているのが常でした。
その都度、不思議な夢を見たり、真夏に寒気に襲われたりという経験をする不思議な島です。
硫黄島は規則により民間人の立ち入りは制限されていますので、私が上陸する機会はもうありませんが、いずれ自分の海洋調査船を作って硫黄島の近くまで行って、洋上から慰霊をしたいと思っています。
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さらに、私が指揮官を勤めていた儀じょう隊の弔銃発射の模様がどういうものであるのかご理解ただける動画も発見しました。ご参考までに。
https://www.youtube.com/watch?v=_z986sZVAwI
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