メールマガジン「指揮官の休日」 No.449 1990年8月2日
2026/07/31 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」第471回 コロナ禍に学ぶ危機管理の発想法 その5 を掲載いたしました。
危機管理の考え方の原点に立ち返る試みの続きです。
https://aegis-cms.co.jp/3743
No.449 1990年8月2日
また8月2日がやってきます。
多くの方にとっては、暑いだけの意味しかない夏の一日かもしれません。
しかし、筆者にとっては、大きな意味を持つ日です。
1990年8月2日、筆者はペンシルバニア州メカニスバーグという米国東部の田舎にいました。
その年の三月、筆者は連絡官として米国へ派遣され、その田舎町に着任していました。
海上自衛隊は米国海軍と同じ装備品を数多く持っていますので、その整備や修理に使う部品を米国から買っています。多くは商社が納入しますが、秘密で民間に任せることができないもの、緊急の所要に応じて米海軍の在庫から緊急に出庫してもらわなければならない重要部品などが多くあり、そのための連絡調整に3か所に連絡官が派遣されています。FMS調達方式と呼ばれています。
ペンシルバニア州フィラデルフィアには、米海軍のFMSの公式な窓口があり、そこに同じような国々がオフィスを持っていました。海上自衛隊もそこに二人の連絡官を派遣していました。
カリフォルニア州のオークランドには、それらの部品が出荷されると、日本向けにパッケージとして包み、必要な場所に送るための集積所があり、契約のある日本の代行業者がいました。そして、その連絡調整に当たる連絡官が派遣されていました。通常は、それらだけで業務が行われます。
ところが、海上自衛隊は米海軍と共通の装備品が極めて多く、それらの補用部品の重要性が極めて高かったので、その艦船用部品の需給統制を行う司令部機能を持った部隊に連絡官を派遣していました。それが筆者でした。
フィラデルフィアは各国の連絡官がおり、海上自衛隊も二人派遣されていましたし、オークランドは、相手が日本の輸入代行業者でした。
しかし、筆者は米海軍の艦船部品を扱う司令部に一人だけ放り込まれ仕事をしなければなりませんでした。
特に当時、海上自衛隊はイージス一番艦の「こんごう」の建造の最終段階で、船体は概ね出来上がり、システムの構築に入っていたところで、その出荷調整が大きな使命でした。
イージス艦は、船体は日本で建造し、システムは米国のものをインストールするという方式で建造が進められており、数万点の部品を工程に合わせてタイムリーに建造所である三菱重工長崎造船所に輸送しないと、造船所が大混乱になります。
通常は、そのような作業は商社が行うのですが、イージスシステムは秘密の度合いが高すぎて民間企業を入れることができないという判断で、その商社機能を果たすことができなければなりませんでした。
連日送られれてくる膨大な出荷リストを見て、発注した部品が予定通り納入されているかを確認し、遅れているものは問い合わせと促進を行い、出荷されたものは、オークランドの連絡官に通知し、予定通り長崎へ送られるようにしなければなりませんでした。
連日、出勤すると机の上に、昨日中に出荷されて部品のリストがコンピュータの出力のファンロール紙に記録され、それが机の上に置いてありました。毎日、その厚さ10センチほどのデータと戦っていました。
海軍基地の中に官舎が準備され、連絡官として社交生活も重要でしたので、家族を連れていくことを命じられていました。
航空券も筆者の分しか買ってもらえないのに、家族を同伴しなければならないのです。
そして着任したのが、1990年3月中旬でした。筆者は30代半ば、1等海尉で、息子は3歳でした。
息子は初めての海外旅行でしたが、筆者は高校時代に研修旅行で米国に行ったのと、任官後の遠洋航海でパールハーバーに入港した経験がありました。また、連絡官として派遣される前に、米海軍の補給制度に慣れておくようにという意味で、横須賀の米海軍の補給部隊で約半年間研修をしていました。
したがって、米海軍の補給の実務や士官室での社交生活は経験積みでした。
また、我が家の司令長官は、私の小学校の同級生ですが、彼女は結婚した当時、航空会社の羽田支店の支店長秘書をしており、社員に毎年付与されるポイントを生かして海外旅行は何度も経験していました。ただし、ヨーロッパや香港が多く、ハワイ以外の米国本土は初めてだったようです。、
ということで、息子も米国の生活に慣れ、筆者も英語が分からないのが苦にならなくなってきていた5月頃、大事件が持ち上がりました。
日本から海上自衛隊の補給の最先任者である海将が出張してくるというのです。我々連絡官の業務を視察するとともに、イージス艦建造に関する様々な調整を米海軍と行うためだったようです。
筆者が駐在していた基地は海軍少将が指揮官でした。そこへ日本から中将がやってくるということになり、基地は大騒ぎになりました。その指揮官の東欧系の厳しい少将が会議で、海軍作戦部長が当基地に来られるとしたらするであろう準備を要求するとスタッフに言い渡したので、基地が大騒ぎになったのです。
その基地は、海軍の後方基地としてはかなり大きな基地で、倉庫がたくさんあり、当時7千人くらいが勤務していましたが、ほとんどは倉庫の従業員たちで、軍人は三百人程度であり、その中で士官は八十人程度でした。
その八十人が、役割を分担して接遇の準備に入りましたが、筆者の元に問い合わせが殺到しました。
来られる提督は、珈琲にミルクを入れれるかとか、ゴルフのハンディはいくつだとかいうレベルです。業務に関しては彼らはプロですから、特に筆者に聞かねばならないことはなかったようです。
一番大変だったのは、その海将がご夫妻で来米されるということで、夫人対応の責任者が司令官夫人になったことでした。当然、筆者の司令長官も対応しなければなりません。
筆者が駐在していた地方は本当に何もない場所で、近くの観光地と言えば、リンカーンのスピーチで有名になったゲティスバーグの古戦場があるだけでした。
ただ、チョコレートのハーシーがきれいなホテルを持っており、その庭がきれいだったので、そこに行って庭を見て、昼ご飯を食べてくるということにし、奥様は我が家の司令長官が私たちの車でお連れし、午前中のミーティングを終わったご主人が基地の公用車に同乗してホテルの昼食会に臨むということにし、我が家の司令長官に対する特訓を始めました。彼女は国内では運転はしていたのですが、米国で筆者たちが持っていた車は国内の乗用車に比べると大きく、道路の右側を走らなければならないので、米国での運転は、その時点ではまだ筆者が行っていました。
フィラデルフィアにいた先任の連絡官が米国内を随行したので、筆者はメカニスバーグの勤務地だけを考えればよかったのですが、それでも夫人プログラムや、最終日の夜に行われる地元ホテルでのバンケットなど、調整しなければならない業務が多く、またバンケットの招待状も出さなければならず、大変な思いをしました。
それが7月30日までかかり、御夫妻はハワイに移り、先任連絡官が随行していきました。
筆者たちはハワイから日本に向けて飛びったという知らせを聞いて夏休みに入ろうと計画していました。つまり、8月1日からが筆者にとって着任以来初めて取る休暇ということになっていました。
7月31日、ハワイまで随行した連絡官から、「予定通り帰国された」という連絡が入りました。
8月1日の朝は、それから1週間ほど休みを取るため、最後の調整や海幕からの連絡が着ていないかなどの確認のため、いつものとおり出勤しました。
ところが、びっくりしたことに、筆者がいたオフィスのスタッフが全員出勤していたのです。聞くと「クウェートがレイプされた。これから戦争を始めるための準備をしなければならない」ということでした。
その日に限って、朝出勤前にテレビのニュースを見ていなかったのです。
特に筆者のデスクの反対側のデスクにいる女性は、クウェートが担当だったので、蒼白な顔をしていました。
休み中だった士官たちも帰ってきていて、司令官を囲んで会議をしているようでした。
筆者は、腹を括りました。
自分がいる部隊が戦争に突入していく有様を経験することなど、海上自衛隊にいたらまずできない。あるとすれば、本当の戦争が始まるときだ、そのためにも、この経験は役に立つはず、これはしっかりと見ておかなければならない。
すぐに官舎に帰り、我が家の司令長官に休暇をキャンセルすることを伝えました。
ブッシュ大統領は、明確なメッセージを出しました。
イラクは無条件で、完全にクウェートから撤退せよ、期限は半年、それが行われなければ、イラクに対しては制裁を行う。
米国は世界中のあらゆるところで起こり得る紛争についての基本的な作戦計画を立案しており、実際にそのような事態が生起した場合には、それを取り出して現状と照らし合わせて修正するだけなので、翌日には作戦計画ができるのでしょう。
イラク相手に戦う準備に半年を要すると計算したのも、その基本計画があったからだと考えます。
いずれにせよ、筆者は連絡官として、『こんごう』を予定通り就役させること、米国の湾岸におけるビルドアップの状況を海幕に通報すること、自分が所属する部隊が戦争の準備をどのように行うのかをしっかり学ぶことを主題としていくことを決めました。
筆者とその家族の壮絶な半年が始まろうとしていました。
日本では8月2日だったのでしょうが、筆者は米国時間で生活していたので、それが8月1日でした。
次回は、米国がイラクに対して戦いを挑み決着するまでの大騒ぎをお伝えします。
在米連絡官がどのような行動をしていたのかをお伝えしたことは多分今までなかったと思いますが、興味を持って頂ければ幸いです。
ということで、今回と次回は、いつもの「知っていても何の役にも立たない、どうでもいい話」ではありませんが、お付き合いください。
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第472回 コロナ禍に学ぶ危機管理の発想法 その5 を掲載いたしました。
前回お約束したとおり、今回もコロナ禍を題材として、私たち感染症の基礎知識を持たない一般人が、メディアのデマにごまかされて、騒ぎが大きくなった現象について考えます。
なぜ、このような考察に拘るかと言えば、危機管理というものが、決して専門家や政治家のものではなく、逆に、彼らがいざという時に、いかに出鱈目であるかを認識し、自分たちである程度の判断をしていくことが重要だと考えるからです。
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Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
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弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
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No.449 1990年8月2日
また8月2日がやってきます。
多くの方にとっては、暑いだけの意味しかない夏の一日かもしれません。
しかし、筆者にとっては、大きな意味を持つ日です。
1990年8月2日、筆者はペンシルバニア州メカニスバーグという米国東部の田舎にいました。
その年の三月、筆者は連絡官として米国へ派遣され、その田舎町に着任していました。
海上自衛隊は米国海軍と同じ装備品を数多く持っていますので、その整備や修理に使う部品を米国から買っています。多くは商社が納入しますが、秘密で民間に任せることができないもの、緊急の所要に応じて米海軍の在庫から緊急に出庫してもらわなければならない重要部品などが多くあり、そのための連絡調整に3か所に連絡官が派遣されています。FMS調達方式と呼ばれています。
ペンシルバニア州フィラデルフィアには、米海軍のFMSの公式な窓口があり、そこに同じような国々がオフィスを持っていました。海上自衛隊もそこに二人の連絡官を派遣していました。
カリフォルニア州のオークランドには、それらの部品が出荷されると、日本向けにパッケージとして包み、必要な場所に送るための集積所があり、契約のある日本の代行業者がいました。そして、その連絡調整に当たる連絡官が派遣されていました。通常は、それらだけで業務が行われます。
ところが、海上自衛隊は米海軍と共通の装備品が極めて多く、それらの補用部品の重要性が極めて高かったので、その艦船用部品の需給統制を行う司令部機能を持った部隊に連絡官を派遣していました。それが筆者でした。
フィラデルフィアは各国の連絡官がおり、海上自衛隊も二人派遣されていましたし、オークランドは、相手が日本の輸入代行業者でした。
しかし、筆者は米海軍の艦船部品を扱う司令部に一人だけ放り込まれ仕事をしなければなりませんでした。
特に当時、海上自衛隊はイージス一番艦の「こんごう」の建造の最終段階で、船体は概ね出来上がり、システムの構築に入っていたところで、その出荷調整が大きな使命でした。
イージス艦は、船体は日本で建造し、システムは米国のものをインストールするという方式で建造が進められており、数万点の部品を工程に合わせてタイムリーに建造所である三菱重工長崎造船所に輸送しないと、造船所が大混乱になります。
通常は、そのような作業は商社が行うのですが、イージスシステムは秘密の度合いが高すぎて民間企業を入れることができないという判断で、その商社機能を果たすことができなければなりませんでした。
連日送られれてくる膨大な出荷リストを見て、発注した部品が予定通り納入されているかを確認し、遅れているものは問い合わせと促進を行い、出荷されたものは、オークランドの連絡官に通知し、予定通り長崎へ送られるようにしなければなりませんでした。
連日、出勤すると机の上に、昨日中に出荷されて部品のリストがコンピュータの出力のファンロール紙に記録され、それが机の上に置いてありました。毎日、その厚さ10センチほどのデータと戦っていました。
海軍基地の中に官舎が準備され、連絡官として社交生活も重要でしたので、家族を連れていくことを命じられていました。
航空券も筆者の分しか買ってもらえないのに、家族を同伴しなければならないのです。
そして着任したのが、1990年3月中旬でした。筆者は30代半ば、1等海尉で、息子は3歳でした。
息子は初めての海外旅行でしたが、筆者は高校時代に研修旅行で米国に行ったのと、任官後の遠洋航海でパールハーバーに入港した経験がありました。また、連絡官として派遣される前に、米海軍の補給制度に慣れておくようにという意味で、横須賀の米海軍の補給部隊で約半年間研修をしていました。
したがって、米海軍の補給の実務や士官室での社交生活は経験積みでした。
また、我が家の司令長官は、私の小学校の同級生ですが、彼女は結婚した当時、航空会社の羽田支店の支店長秘書をしており、社員に毎年付与されるポイントを生かして海外旅行は何度も経験していました。ただし、ヨーロッパや香港が多く、ハワイ以外の米国本土は初めてだったようです。、
ということで、息子も米国の生活に慣れ、筆者も英語が分からないのが苦にならなくなってきていた5月頃、大事件が持ち上がりました。
日本から海上自衛隊の補給の最先任者である海将が出張してくるというのです。我々連絡官の業務を視察するとともに、イージス艦建造に関する様々な調整を米海軍と行うためだったようです。
筆者が駐在していた基地は海軍少将が指揮官でした。そこへ日本から中将がやってくるということになり、基地は大騒ぎになりました。その指揮官の東欧系の厳しい少将が会議で、海軍作戦部長が当基地に来られるとしたらするであろう準備を要求するとスタッフに言い渡したので、基地が大騒ぎになったのです。
その基地は、海軍の後方基地としてはかなり大きな基地で、倉庫がたくさんあり、当時7千人くらいが勤務していましたが、ほとんどは倉庫の従業員たちで、軍人は三百人程度であり、その中で士官は八十人程度でした。
その八十人が、役割を分担して接遇の準備に入りましたが、筆者の元に問い合わせが殺到しました。
来られる提督は、珈琲にミルクを入れれるかとか、ゴルフのハンディはいくつだとかいうレベルです。業務に関しては彼らはプロですから、特に筆者に聞かねばならないことはなかったようです。
一番大変だったのは、その海将がご夫妻で来米されるということで、夫人対応の責任者が司令官夫人になったことでした。当然、筆者の司令長官も対応しなければなりません。
筆者が駐在していた地方は本当に何もない場所で、近くの観光地と言えば、リンカーンのスピーチで有名になったゲティスバーグの古戦場があるだけでした。
ただ、チョコレートのハーシーがきれいなホテルを持っており、その庭がきれいだったので、そこに行って庭を見て、昼ご飯を食べてくるということにし、奥様は我が家の司令長官が私たちの車でお連れし、午前中のミーティングを終わったご主人が基地の公用車に同乗してホテルの昼食会に臨むということにし、我が家の司令長官に対する特訓を始めました。彼女は国内では運転はしていたのですが、米国で筆者たちが持っていた車は国内の乗用車に比べると大きく、道路の右側を走らなければならないので、米国での運転は、その時点ではまだ筆者が行っていました。
フィラデルフィアにいた先任の連絡官が米国内を随行したので、筆者はメカニスバーグの勤務地だけを考えればよかったのですが、それでも夫人プログラムや、最終日の夜に行われる地元ホテルでのバンケットなど、調整しなければならない業務が多く、またバンケットの招待状も出さなければならず、大変な思いをしました。
それが7月30日までかかり、御夫妻はハワイに移り、先任連絡官が随行していきました。
筆者たちはハワイから日本に向けて飛びったという知らせを聞いて夏休みに入ろうと計画していました。つまり、8月1日からが筆者にとって着任以来初めて取る休暇ということになっていました。
7月31日、ハワイまで随行した連絡官から、「予定通り帰国された」という連絡が入りました。
8月1日の朝は、それから1週間ほど休みを取るため、最後の調整や海幕からの連絡が着ていないかなどの確認のため、いつものとおり出勤しました。
ところが、びっくりしたことに、筆者がいたオフィスのスタッフが全員出勤していたのです。聞くと「クウェートがレイプされた。これから戦争を始めるための準備をしなければならない」ということでした。
その日に限って、朝出勤前にテレビのニュースを見ていなかったのです。
特に筆者のデスクの反対側のデスクにいる女性は、クウェートが担当だったので、蒼白な顔をしていました。
休み中だった士官たちも帰ってきていて、司令官を囲んで会議をしているようでした。
筆者は、腹を括りました。
自分がいる部隊が戦争に突入していく有様を経験することなど、海上自衛隊にいたらまずできない。あるとすれば、本当の戦争が始まるときだ、そのためにも、この経験は役に立つはず、これはしっかりと見ておかなければならない。
すぐに官舎に帰り、我が家の司令長官に休暇をキャンセルすることを伝えました。
ブッシュ大統領は、明確なメッセージを出しました。
イラクは無条件で、完全にクウェートから撤退せよ、期限は半年、それが行われなければ、イラクに対しては制裁を行う。
米国は世界中のあらゆるところで起こり得る紛争についての基本的な作戦計画を立案しており、実際にそのような事態が生起した場合には、それを取り出して現状と照らし合わせて修正するだけなので、翌日には作戦計画ができるのでしょう。
イラク相手に戦う準備に半年を要すると計算したのも、その基本計画があったからだと考えます。
いずれにせよ、筆者は連絡官として、『こんごう』を予定通り就役させること、米国の湾岸におけるビルドアップの状況を海幕に通報すること、自分が所属する部隊が戦争の準備をどのように行うのかをしっかり学ぶことを主題としていくことを決めました。
筆者とその家族の壮絶な半年が始まろうとしていました。
日本では8月2日だったのでしょうが、筆者は米国時間で生活していたので、それが8月1日でした。
次回は、米国がイラクに対して戦いを挑み決着するまでの大騒ぎをお伝えします。
在米連絡官がどのような行動をしていたのかをお伝えしたことは多分今までなかったと思いますが、興味を持って頂ければ幸いです。
ということで、今回と次回は、いつもの「知っていても何の役にも立たない、どうでもいい話」ではありませんが、お付き合いください。
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