メールマガジン「指揮官の休日」 No.403 棄民
2024/12/06 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第416回 税は財源ではない を掲載いたしました。
当コラムを読んでいただくための最低限のマクロ経済に関する説明を続けています。
今回はその第ニ回です。経済の基本をご承知の方は読み飛ばしてください。
https://aegis-cms.co.jp/3439
No.403 棄民
今回取り上げるのは、能登半島の方々のことです。
本来、どうでもいい話をして、呆れてサッサと専門コラムに跳んでいただくことを目論んでいる当メールマガジンが、どう考えてもどうでもいい話ではない能登半島について当メールマガジンで取り上げるのには理由があります。
現在の政権の能登半島に対する思いに呆れ果て、専門コラムで取り上げる価値なしと判断したのが理由です。
この政権の方針をまともに取り上げる価値はほとんどありません。前言を翻すことに何の躊躇もない恥知らずな総裁に率いられる政党の話など、真摯な議論には値しないということです。
さて、その政権の態度を見てみましょう。
自民党の支持率の限界までの低下を受けて岸田前首相が辞任し、後任の総裁選で選出されたのが、マクロ経済をまったく理解しない石破茂氏でした。それが9月27日です。
10月1日は、臨時国会が召集され、石破氏が首相に指名され、同日内閣が発足しました。
そして、新たな内閣では、能登半島復興のための補正予算の審議も行わず、「国民の信を問う。」という名目で衆議院が解散されました。
石破氏は、かつて、衆議院の解散は憲法69条の場合以外はありえないと発言していたことを筆者は記憶しています。
憲法69条は次のように規定しています。「第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。」
つまり、内閣不信任案が可決された場合に、総辞職するか、衆議院が解散するかの選択をしなければならず、その場合のみ、衆議院を解散できるという解釈です。
筆者は法学の専門家ではありませんが、この解釈に賛成です。
衆議院の解散は、国会議員やマスコミは首相の専権事項だと言ってはばかりませんが、憲法をよく読めば、衆議院の解散は天皇の国事行為であり、天皇は国政に関する権能を有しないため、内閣が助言と承認の責任を負っているにすぎません。
もちろん、内閣が責任を負うのですから、その責任を全うするための権限は内閣にあることは言うまでもありません。
そこで出てくるのが69条の規定です。内閣が不信任とされたのですから、天皇に対して、このままでは責任を全うできませんので、衆議院を解散すべきです、という助言をすることが内閣の権限でしょう。
したがって、総選挙を戦って勝てる支持率のうちに解散して選挙に打って出ようというのは、天皇の政治利用以外の何物でもありません。
いずれにせよ、総裁が前言を翻して衆議院を解散し、総選挙で与党が大きく議席を失い、過議席の過半数を獲得できない状態で召集された特別国会で新たに第2次石破内閣が成立したのが11月11日です。そして、その特別国会では、能登半島のための補正予算の審議はなされず、11月28日に召集された臨時国会でも、補正予算案の上程は1 2月9日になるということです。
少数与党となったため、キャスティングボードを握ることになった国民民主党が、協力の条件としたのが、いわゆる103万円の壁の引き上げでした。一日も早い能登半島復興のための補正予算の審議ではありませんでした。
総選挙で争点となったのは、裏金問題であり、政治資金規正法をどうするのかという議論でした。これは、国民生活には何の関係もない世界の話です。
議員たちは二言目には「政治への信頼を取り戻す。」と言いますが、金や権力に関心のない政治家を望んでいる国民がどの程度いるのでしょうか。
筆者が政治家を嫌う最大の理由が、連中の最大の関心事がそれらだからです。筆者が制服を着て過ごした30年間は、その二つとは全く縁のない世界でした。それでも、その世界には使命感や生きがいを見出していた先輩や同僚、後輩たちがたくさんいました。
だからこそ、陸上自衛隊が災害派遣から引き上げる際、誰に強制されるでもないのに、沿道にお年寄りや子供たちが見送りに来て、「ありがとう」と言ってくれるのです。
そもそも政治家などを信頼などだれもしていないから、やるべきことをサッサとやって欲しいと国民の多くは考えているのではないかと思っています。
信頼を取り戻すということは、信頼されていた人々が言う言葉であって、政治家が口にすべき言葉ではありません。
政治家たちはテレビなどでは、「能登半島の一日でも早い復興が急務である。」で述べますが、実際の彼らの国会の日程を見るとこの有様です。
能登半島を地震が襲ったのは1月1日です。震度7の激震に襲われ、被害の全容もよく分からない日々が続きました。
そのような災害に襲われたのに、補正予算が組まれなかった前例を知りません。
岸田内閣もやる気はなかったし、石破内閣も最初の内閣発足から2か月以上たって、補正予算案を上程するという始末です。
野党も、裏金問題を主要争点として議論する構えを崩しておらず、能登半島の復興に真剣に取り組む国会にしようという意思が見えません。
しかも、9月21日から翌日にかけて、同地方は記録的な豪雨に見舞われ、被災者が生活する仮設住宅すら床上浸水するという事態になっています。
にもかかわらず、10月1日に発足した石破内閣は、補正予算を審議せず、衆議院の解散を行い、1か月の空白を作りだしたのです。
つまり、能登半島の人々はこの国の政治から捨てられたのでしょう。
この災害を巡っては、メディアもでたらめでした。
まず彼らがやり玉にあげたのが、陸上自衛隊の「兵力の逐次投入」でした。
防衛省は、翌朝に陸上自衛隊中部方面総監を指揮官とする陸海空3自衛隊部隊の指揮系統を一本化した1万人態勢の統合任務部隊を編成し、1月9日には6000人規模を現地に動員しています。
ところが、初日に動員したのが1000人規模であったため、野党は「逐次投入になっている」(立憲民主党の泉健太代表)と批判しています。
同じ震度7を記録した2016年の熊本地震や18年の北海道胆振東部地震では、3~4日目で2万人を超える部隊が動員されたことと比較しているのです。
これだから、「素人は黙れ!」と言いたくなるのです。
熊本地震は4月14日の夜でした。しかも、陸上自衛隊西部方面総監部のお膝元で生起しています。
一方の能登半島の災害は1月1日です。部隊は半数を残して休暇に入っています。
その部隊も北陸には金沢駐屯地など3か所しかありません。
熊本地震の場合は、お膝元であったため、駐屯地から現場に出向き、補給はその都度駐屯地に戻るか、駐屯地から運べばよかったのですが、能登半島ではそうはいきません。
大きな部隊が移動するために必要となる資材などをどこに集積するか、どのルートを使うか、そもそもどこで捜索救難活動をすべきなのかをまず決めなければなりません。
能登半島への陸路のアクセスも南からの一方向しかなく、道路網が寸断され、海と山に挟まれた地形は大規模に展開しにくい事情もありました。
寸断された道路網に数千名が一挙に入り込むと、すさまじい数の車両が行き来することになり、大混乱が起こります。救急車や消防車も通れなくなります。
したがって、最初に入った部隊は、捜索救難の重点はどこか、そのために必要な部隊の規模はどの程度か、その部隊のための資材はどこからどのように運び、どこに集積するかを計画するのに必要な情報を収集するのが主な任務になります。その途上で被災者を発見すると救助活動に入るという手順だったはずです。
無暗に最初から数万人を投入すると現地では混乱が起こるだけなのです。
「兵力の逐次投入」という普段使わない言葉を覚えて、それを使いたくてしょうがない連中がいろいろな機会に使ってみたということでしょう。
まるで幼児のようですね。
ちなみに、兵力の逐次投入が戒められたのは大昔からであり、筆者たちも戦術の基礎知識として「初度全力」という言葉で叩き込まれてきました。
当初は全力で当たる構えを作り、必要に応じて逐次引いていく、という考え方です。
この考え方の正しさを数学的に証明したのが、ランチェスターであり、多くの経営コンサルタントは、ランチェスターを小兵力で大兵力に勝つ方法を考案したと考えていますが、彼の論文を詠んだことのないコンサルタントばかりのようです。
能登半島を巡っては、別の言葉も流行りました。
「プッシュ支援」という言葉です。
これは元来、被災地が必要とするものを要求してくるのを待たず、必要とされるであろう物をパッケージにして、早急に送り込むという考え方です。
これは、非常に重要な考え方であり、そのパッケージの充実が望まれます。
ただ、その本来の意味を理解せずに使いたがる幼児発想の政治家や評論家が多く目につきました。
5月くらいになってもまだ能登半島への継続的なプッシュ支援が必要と訴える政治家やメディアが多いのです。
プッシュ支援が重要なのは、発災当初に、地元自治体が被害規模も分からず、何が必要なのかもまとめきれない段階で、済々と要求が上がってくることなど期待できないから、とにかく必要と思われるものを送り込む、ということだからです。
したがって、お年寄りだけが避難している避難所に子供用品が送られることもあるでしょう。
人数が分からないので、トイレットペーパーが足りないということもあるでしょう。
しかし、経験的な確かさの物資は届くはずなので、とりあえず何もないよりは遥かにいいのであって、暫定的な対策でしかありません。
それを5月になって、まだプッシュ支援を続けると、現地には必要のないものの山ができ、本当に必要なものの受け入れが滞るという事態を招きます。
プッシュ支援など、地元自治体が現状を把握するせいぜい半月に留めるべきで、ダラダラ続けていいものではありません。
そのような態勢を地元自治体が速やかに取ることができないのであれば、支援すべきはそのような自治体職員のほうです。
とにかく政治家やマスコミは、新たに覚えた言葉を使いたがる幼児性からはやく脱却してほしいと思います。
読売新聞が長くコンプライアンスという言葉にかっこ書きで(法令順守)という誤った説明をつけてきましたが、最近はやらないようです。おかげで社会にはコンプライアンスが法令順守だと思っている輩がやたらと増えたのですが、言葉の扱いは注意していかなければなりません。
臨時国会で安住予算委員長の下で集中審議がまず始まったのは、政治と金の問題でした。能登半島の救済については週明けに予算が上程されるまでお預けです。
このことに政治家は疑問を持たないようですし、メディアも触れません。
能登半島の人々は棄てられたのです。
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専門コラム 第415回 税は財源ではない
退屈な経済論を続けるのには理由があります。
現在、衆議院の解散による総選挙後の国会が召集されていますが、年が明けると予算を審議する国会が始まります。
現首相はマクロ経済を理解していないので、解散前の所信表明演説に続く代表質問で、消費減税を行うつもりはないのかを問われ、「消費税は、社会福祉予算の重要な財源であるので、その減税は考えていない。」と答えています。
つまり、緊縮財政を続けて、この国を滅ぼしかねないので、当危機管理専門コラムとしても関心を持たざるを得ず、 この論点をマクロ経済に普段関心をお持ちでない方々にもしっかりとご理解いただける程度の説明はしておきたいという思いがあります。
何度も申し上げますが、筆者はマクロ経済学の専門家ではなく、また、経済学の入門書を書こうと考えているわけでもありません。
ただ、財務省の嘘を見破り、大方の国会議員よりはマクロ経済に関する議論が見えてくる程度の入門的な解説をしてまいります。
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Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
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『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
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1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
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かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
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は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
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いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
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5 指揮所演習コンサルティング
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つまり、内閣不信任案が可決された場合に、総辞職するか、衆議院が解散するかの選択をしなければならず、その場合のみ、衆議院を解散できるという解釈です。
筆者は法学の専門家ではありませんが、この解釈に賛成です。
衆議院の解散は、国会議員やマスコミは首相の専権事項だと言ってはばかりませんが、憲法をよく読めば、衆議院の解散は天皇の国事行為であり、天皇は国政に関する権能を有しないため、内閣が助言と承認の責任を負っているにすぎません。
もちろん、内閣が責任を負うのですから、その責任を全うするための権限は内閣にあることは言うまでもありません。
そこで出てくるのが69条の規定です。内閣が不信任とされたのですから、天皇に対して、このままでは責任を全うできませんので、衆議院を解散すべきです、という助言をすることが内閣の権限でしょう。
したがって、総選挙を戦って勝てる支持率のうちに解散して選挙に打って出ようというのは、天皇の政治利用以外の何物でもありません。
いずれにせよ、総裁が前言を翻して衆議院を解散し、総選挙で与党が大きく議席を失い、過議席の過半数を獲得できない状態で召集された特別国会で新たに第2次石破内閣が成立したのが11月11日です。そして、その特別国会では、能登半島のための補正予算の審議はなされず、11月28日に召集された臨時国会でも、補正予算案の上程は1 2月9日になるということです。
少数与党となったため、キャスティングボードを握ることになった国民民主党が、協力の条件としたのが、いわゆる103万円の壁の引き上げでした。一日も早い能登半島復興のための補正予算の審議ではありませんでした。
総選挙で争点となったのは、裏金問題であり、政治資金規正法をどうするのかという議論でした。これは、国民生活には何の関係もない世界の話です。
議員たちは二言目には「政治への信頼を取り戻す。」と言いますが、金や権力に関心のない政治家を望んでいる国民がどの程度いるのでしょうか。
筆者が政治家を嫌う最大の理由が、連中の最大の関心事がそれらだからです。筆者が制服を着て過ごした30年間は、その二つとは全く縁のない世界でした。それでも、その世界には使命感や生きがいを見出していた先輩や同僚、後輩たちがたくさんいました。
だからこそ、陸上自衛隊が災害派遣から引き上げる際、誰に強制されるでもないのに、沿道にお年寄りや子供たちが見送りに来て、「ありがとう」と言ってくれるのです。
そもそも政治家などを信頼などだれもしていないから、やるべきことをサッサとやって欲しいと国民の多くは考えているのではないかと思っています。
信頼を取り戻すということは、信頼されていた人々が言う言葉であって、政治家が口にすべき言葉ではありません。
政治家たちはテレビなどでは、「能登半島の一日でも早い復興が急務である。」で述べますが、実際の彼らの国会の日程を見るとこの有様です。
能登半島を地震が襲ったのは1月1日です。震度7の激震に襲われ、被害の全容もよく分からない日々が続きました。
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岸田内閣もやる気はなかったし、石破内閣も最初の内閣発足から2か月以上たって、補正予算案を上程するという始末です。
野党も、裏金問題を主要争点として議論する構えを崩しておらず、能登半島の復興に真剣に取り組む国会にしようという意思が見えません。
しかも、9月21日から翌日にかけて、同地方は記録的な豪雨に見舞われ、被災者が生活する仮設住宅すら床上浸水するという事態になっています。
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つまり、能登半島の人々はこの国の政治から捨てられたのでしょう。
この災害を巡っては、メディアもでたらめでした。
まず彼らがやり玉にあげたのが、陸上自衛隊の「兵力の逐次投入」でした。
防衛省は、翌朝に陸上自衛隊中部方面総監を指揮官とする陸海空3自衛隊部隊の指揮系統を一本化した1万人態勢の統合任務部隊を編成し、1月9日には6000人規模を現地に動員しています。
ところが、初日に動員したのが1000人規模であったため、野党は「逐次投入になっている」(立憲民主党の泉健太代表)と批判しています。
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これだから、「素人は黙れ!」と言いたくなるのです。
熊本地震は4月14日の夜でした。しかも、陸上自衛隊西部方面総監部のお膝元で生起しています。
一方の能登半島の災害は1月1日です。部隊は半数を残して休暇に入っています。
その部隊も北陸には金沢駐屯地など3か所しかありません。
熊本地震の場合は、お膝元であったため、駐屯地から現場に出向き、補給はその都度駐屯地に戻るか、駐屯地から運べばよかったのですが、能登半島ではそうはいきません。
大きな部隊が移動するために必要となる資材などをどこに集積するか、どのルートを使うか、そもそもどこで捜索救難活動をすべきなのかをまず決めなければなりません。
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まるで幼児のようですね。
ちなみに、兵力の逐次投入が戒められたのは大昔からであり、筆者たちも戦術の基礎知識として「初度全力」という言葉で叩き込まれてきました。
当初は全力で当たる構えを作り、必要に応じて逐次引いていく、という考え方です。
この考え方の正しさを数学的に証明したのが、ランチェスターであり、多くの経営コンサルタントは、ランチェスターを小兵力で大兵力に勝つ方法を考案したと考えていますが、彼の論文を詠んだことのないコンサルタントばかりのようです。
能登半島を巡っては、別の言葉も流行りました。
「プッシュ支援」という言葉です。
これは元来、被災地が必要とするものを要求してくるのを待たず、必要とされるであろう物をパッケージにして、早急に送り込むという考え方です。
これは、非常に重要な考え方であり、そのパッケージの充実が望まれます。
ただ、その本来の意味を理解せずに使いたがる幼児発想の政治家や評論家が多く目につきました。
5月くらいになってもまだ能登半島への継続的なプッシュ支援が必要と訴える政治家やメディアが多いのです。
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とにかく政治家やマスコミは、新たに覚えた言葉を使いたがる幼児性からはやく脱却してほしいと思います。
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つまり、緊縮財政を続けて、この国を滅ぼしかねないので、当危機管理専門コラムとしても関心を持たざるを得ず、 この論点をマクロ経済に普段関心をお持ちでない方々にもしっかりとご理解いただける程度の説明はしておきたいという思いがあります。
何度も申し上げますが、筆者はマクロ経済学の専門家ではなく、また、経済学の入門書を書こうと考えているわけでもありません。
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2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
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メールマガジン「指揮官の休日」
発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
email: yhayashi@aegis-cms.co.jp
Web : http://aegis-cms.co.jp
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