メールマガジン「指揮官の休日」No.396 海上自衛隊の活動
2024/09/20 (Fri) 12:00
XXXX 様
-------------------------------------------------------------------
指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
-------------------------------------------------------------------
危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第408回 組織文化 を掲載いたしました。
以前、組織風土に降れたことがあります。今回は組織文化についての紹介です。
詳しくは、こちらをお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/3393
No.396 海上自衛隊の活動
知っていても知らなくてもどうでもいい話を綴るのを本旨とする当メールマガジンですが、執筆担当者の真面目な気質が災いして、時々、おそろしく役に立つ話が配信されることがあります。今回もそのような例外となります。
どうでもいい話を楽しみにされている方には申し訳ありませんが、もう一週間お待ちください。
海上自衛隊が現在も常続的に海外に部隊を派遣している場所があること、海上自衛隊が海外に基地を持っていることをご存じない方が多いかと存じます。
南極観測支援に当たっている砕氷艦「しらせ」が海上自衛隊の船だよ、と言うとびっくりされる方もいらっしゃるのですが、その動かぬ証拠に、出港時や帰国時の「しらせ」の写真を見ると、船の一番後ろにたなびいているのは日章旗ではなく自衛艦旗なのです。
あの船は文部科学省が予算を取って、海上自衛隊の艦船として建造され、海上自衛隊員によって運航されています。つまり、国際法上の「軍艦」なのです。(国際法における軍艦の定義は、一国の海軍に所属することを示す旗を掲げていること、規律ある海軍軍人によって運航されていること、海軍士官名簿に名前を記載されている海軍士官によって指揮されていること、です。)
ただ、海上自衛隊が部隊を常続的に海外派遣しているのは南極だけではありません。インド洋に派遣しています。具体的にはアデン湾・ソマリア沖の海域です。
ここはアジアとヨーロッパを結ぶ海上交通の要衝であり、年間2万隻の船舶の往来があります。我が国に原油やその他の物資を運ぶ船も年間2千隻が通航しています。
そのアデン湾において、2007年ころから海賊行為が頻繁に行われるようになっていました。そして2008年9月、ウクライナの貨物船が襲撃されたことをきっかけとして、各国の関心の的となり、対策を強化しなければならないという機運が醸成されていきました。
我が国の生命線ともいえるこの海上交通路の安全を確保するため、日本政府も対策を検討し始めたのがこの年の10月頃でした。
この頃、筆者は海上自衛隊呉地方隊所属の呉造修補給所長という配置にありました。これは山口から大阪に至る四国沖を含む海上自衛隊の呉警備区に所在する部隊や艦艇に対する補給及び艦船の整備を担当する部隊であり、所長だった筆者は、呉地方総監部の技術補給管理監という配置を兼務していました。これは呉地方総監に技術・補給に関し助言をする職責を負っています。
忘れもしませんが、2008年12月22日、天皇誕生日(当時)の前日の昼頃、ある一つのニュースが飛び込んできました。
政府が海上自衛隊の護衛艦2隻の派遣を決めるようだということです。自衛隊は公務員の集まりですが、年末年始の休暇は御用納めから御用始めまでということではありません。海上幕僚監部などはそのような休みを取るのですが、部隊はそうはいきません。少なくとも半数の隊員を残して即応態勢を維持しなければならないので、休暇は年末年始の期間を二つに分け、前半に休暇を取る隊員はクリスマス頃から休暇に入り、1月2日に後半の隊員と交代するのです。つまり、22日というのは、明日から造修補給所の隊員の半数が休暇に入る直前の日ということになります。
筆者は、このニュースを聞いて次の瞬間、副長室に飛び込み、驚いている副長に各部長を所長室に集めるよう指示し、幹部は許可があるまで退庁してはならんと伝えよと言いつけました。造修補給所には計画調整部、需品部、艦船部、武器部、工作部、資材部などの部門があり、その他に呉造修補給所には輸送艦搭載のホーバークラフト(LCAC)の整備場や海上自衛隊が保管する燃料の約半分を貯蔵する貯油所などの隷下部隊がありました。
そのうち各部の部長を参集させたのです。
筆者は聞いたばかりのニュースを各部長に伝え、「2隻ということは、あの2隻か、この2隻しかないと思う。」と述べ、「この2隻だとすれば、我々が万全の準備をして送り出さねばならない。その2隻が出るとしたら、万全の準備に最短でどの程度の日数が必要か、造船所と武器メーカーと調整してくれ。」と指示しました。また、政府の正式決定前であるから、他言しないよう念を押しておくことも忘れず、また、急いで調整するよう命じました。
造船所や武器メーカーも忘年会シーズンたけなわの祝日の前日とあって、早く調整をかけないと担当者がいなくなることを危惧したのです。
各会社は大騒ぎになりました。しかし、各造船所、武器メーカーとも、該当する艦艇の整備状況はしっかりと把握していたらしく、必要な準備にかかる工数などが迅速に計算され、午後3時くらいには概ね75日あれば万全の準備ができると分かりました。
筆者はすぐに総監の副官室に電話をして、総監に報告すべき事項があるので、時間を取ってくれと伝えると、電話口に出た副官付きの女性自衛官が「ただ今、幕僚長がお見えになって、造修補給所長が総監に報告に来るはずだから、アポが入ったら最優先で通せ、と言われました。」と言ってきました。
これを要するに、総監は造修補給所長が来るのをイライラしながら待っているということなのです。そこで筆者は、通常であれば説明資料などを作って持って行くのですが、何も持たず総監室に飛び込み、呉地方総監に「75日ください。万全の準備をして送り出します。」とだけ報告しました。
総監は「分かった。」と一言だけ言い、陪席していた総監部幕僚長がすぐに席を立って自室に戻り、海幕に電話を始めました。
多分、75日の根拠を求められるであろうと考えた筆者は幕僚長室に入り、幕僚長が海幕と電話をするのを聞いていました。二つくらい質問がありましたが、その75日と言う数字が内局に伝えられ、それが政府の決定となり、翌年の3月13日、ソマリア沖・アデン湾における海賊行為対処のための海上における警備行動が発令され、翌14日護衛艦2隻がソマリアに向けて出航していきました。
その海賊対処行動が現在も続いているのです。当時、総監はこのオペレーションは10年では終わらないくらい続く気の長いオペレーションになると呟いていましたが、15年経った現在、海賊行為はかなり少なくなり、航路は徐々に安全なものになっています。
始まってしばらくは2隻の艦艇と2機の哨戒機により海賊対処行動が行われていましたが、2013年以降は、ソマリア沖の海賊に対する多国籍部隊として第151合同任務部隊(CTF151)が編成され、海上自衛隊はこの部隊に護衛艦1隻を参加させています。
この合同任務部隊の司令官は参加各国が持ち回りで担当しており、海上自衛隊も2015年に派遣水上部隊指揮官の伊藤弘海将補が司令官としてバーレーンに着任しています。
自衛官が訓練ではない実動の多国籍部隊の司令官に就いたのは初めてでした。
また、この海域で哨戒に当たる海上自衛隊の航空機を常続的に現場で運用するため、海上自衛隊は自衛隊としては初めて海外に基地を作ったのです。
場所はジブチであり、搭乗員や整備員など50名が常駐しています。
当初は、自衛隊法における海上における警備行動を根拠としていましたが、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」が成立し、根拠法を自衛隊法の海上における警備行動ではなく海賊対処法に切り替えて警備を継続しています。
海上自衛隊が常続的に海外に部隊を派遣していたり、海外に基地を持っていたり、多国籍海軍の司令官を海上自衛官が務めていたりということは意外にご存じない方が多いかと思います。
また、この海上自衛隊から派遣されている護衛艦に海上保安官が乗り組んでいることもご存じない方がいらっしゃいます。
自衛隊は防衛出動や治安出動に際しては警察権を持ちますが、平時には警察権を持っていません。したがって、現地で海賊を捕まえても現行犯として逮捕は出来るものの、捜査権などがないので、尋問等ができず、調書の作成もできません。そこで、常時警察権をもっている海上保安官が乗っているのです。
たまにはちょっとはためになる話もします。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
専門コラム「指揮官の決断」第408回 組織文化
かつて当コラムにおいて「組織風土」という概念を取り上げたことがあります。
今回取り上げるのは「組織文化」です。
この両者は組織論研究者にとっては大きなテーマであり、それらを巡る論文の数は膨大な量になりますが、その違いを明確に説明するのは簡単なことではありません。
一方で、経営学研究者にとっては厳密にその違いを明らかにする必要はないらしく、論文を読んでいて、この研究者は勘違いしているなと思うと、大抵は経営学の研究者の論文であるのが興味深いところです。
確かに、組織論と経営学とはちょうど基礎生理学と臨床医学のような関係にあり、臨床医としては細かい議論よりも、現れてくる症状とその対処法に関心があるのでしょう。
したがって、経営学の研究者には、組織文化と組織風土には明確な違いはないと断言する方もおられます。
この問題について書き始めると一つの論文ができてしまいます。
筆者は大学院の研究科の頃から一貫して組織論を勉強してきましたが、学者ではありませんし、当コラムは組織論の専門コラムでもありませんので、これらの議論に深入りすることはとりあえず避けておきます。
https://aegis-cms.co.jp/3393
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
メールマガジンのバックナンバーは弊社Facebookページからもお読みいただけます。
Facebookページ 「指揮官の決断/休日」 https://www.facebook.com/aegis.cm
Facebookページでは、当メールマガジンでは見ることのできない写真もご覧頂くこ
とが出来ます。
是非Facebookページをご訪問ください。
Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
https://twitter.com/CaptainHayashi です。
---------------------------------------------------------------------------------------
弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
https://aegis-cms.co.jp/book1
---------------------------------------------------------------------------------------
Facebookページを公開しています。
メールマガジン及び専門コラムのバックナンバーをお読みいただけます。
Facebookページ「指揮官の決断/休日」
https://www.facebook.com/aegis.cm
----------------------------------------------------------------------------------------
教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
----------------------------------------------------------------------------------------
コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
----------------------------------------------------------------------------------------
図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
----------------------------------------------------------------------------------------
バックナンバーを公開しています。
こちらからご覧ください。https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
メールアドレスの変更はこちらからお手続きください。
http://aetis-cms.co.jp/mailmag
メールマガジンがご不要の場合はこちらから解除をして頂くことができます。
http://q.bmd.jp/bm/p/f/s.php?id=aegismm&mail=uhayashi%40jcom.zaq.ne.jp&no=2
----------------------------------------------------------------------------------------
メールマガジン「指揮官の休日」
発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
email: yhayashi@aegis-cms.co.jp
Web : http://aegis-cms.co.jp
-------------------------------------------------------------------
指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
-------------------------------------------------------------------
危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第408回 組織文化 を掲載いたしました。
以前、組織風土に降れたことがあります。今回は組織文化についての紹介です。
詳しくは、こちらをお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/3393
No.396 海上自衛隊の活動
知っていても知らなくてもどうでもいい話を綴るのを本旨とする当メールマガジンですが、執筆担当者の真面目な気質が災いして、時々、おそろしく役に立つ話が配信されることがあります。今回もそのような例外となります。
どうでもいい話を楽しみにされている方には申し訳ありませんが、もう一週間お待ちください。
海上自衛隊が現在も常続的に海外に部隊を派遣している場所があること、海上自衛隊が海外に基地を持っていることをご存じない方が多いかと存じます。
南極観測支援に当たっている砕氷艦「しらせ」が海上自衛隊の船だよ、と言うとびっくりされる方もいらっしゃるのですが、その動かぬ証拠に、出港時や帰国時の「しらせ」の写真を見ると、船の一番後ろにたなびいているのは日章旗ではなく自衛艦旗なのです。
あの船は文部科学省が予算を取って、海上自衛隊の艦船として建造され、海上自衛隊員によって運航されています。つまり、国際法上の「軍艦」なのです。(国際法における軍艦の定義は、一国の海軍に所属することを示す旗を掲げていること、規律ある海軍軍人によって運航されていること、海軍士官名簿に名前を記載されている海軍士官によって指揮されていること、です。)
ただ、海上自衛隊が部隊を常続的に海外派遣しているのは南極だけではありません。インド洋に派遣しています。具体的にはアデン湾・ソマリア沖の海域です。
ここはアジアとヨーロッパを結ぶ海上交通の要衝であり、年間2万隻の船舶の往来があります。我が国に原油やその他の物資を運ぶ船も年間2千隻が通航しています。
そのアデン湾において、2007年ころから海賊行為が頻繁に行われるようになっていました。そして2008年9月、ウクライナの貨物船が襲撃されたことをきっかけとして、各国の関心の的となり、対策を強化しなければならないという機運が醸成されていきました。
我が国の生命線ともいえるこの海上交通路の安全を確保するため、日本政府も対策を検討し始めたのがこの年の10月頃でした。
この頃、筆者は海上自衛隊呉地方隊所属の呉造修補給所長という配置にありました。これは山口から大阪に至る四国沖を含む海上自衛隊の呉警備区に所在する部隊や艦艇に対する補給及び艦船の整備を担当する部隊であり、所長だった筆者は、呉地方総監部の技術補給管理監という配置を兼務していました。これは呉地方総監に技術・補給に関し助言をする職責を負っています。
忘れもしませんが、2008年12月22日、天皇誕生日(当時)の前日の昼頃、ある一つのニュースが飛び込んできました。
政府が海上自衛隊の護衛艦2隻の派遣を決めるようだということです。自衛隊は公務員の集まりですが、年末年始の休暇は御用納めから御用始めまでということではありません。海上幕僚監部などはそのような休みを取るのですが、部隊はそうはいきません。少なくとも半数の隊員を残して即応態勢を維持しなければならないので、休暇は年末年始の期間を二つに分け、前半に休暇を取る隊員はクリスマス頃から休暇に入り、1月2日に後半の隊員と交代するのです。つまり、22日というのは、明日から造修補給所の隊員の半数が休暇に入る直前の日ということになります。
筆者は、このニュースを聞いて次の瞬間、副長室に飛び込み、驚いている副長に各部長を所長室に集めるよう指示し、幹部は許可があるまで退庁してはならんと伝えよと言いつけました。造修補給所には計画調整部、需品部、艦船部、武器部、工作部、資材部などの部門があり、その他に呉造修補給所には輸送艦搭載のホーバークラフト(LCAC)の整備場や海上自衛隊が保管する燃料の約半分を貯蔵する貯油所などの隷下部隊がありました。
そのうち各部の部長を参集させたのです。
筆者は聞いたばかりのニュースを各部長に伝え、「2隻ということは、あの2隻か、この2隻しかないと思う。」と述べ、「この2隻だとすれば、我々が万全の準備をして送り出さねばならない。その2隻が出るとしたら、万全の準備に最短でどの程度の日数が必要か、造船所と武器メーカーと調整してくれ。」と指示しました。また、政府の正式決定前であるから、他言しないよう念を押しておくことも忘れず、また、急いで調整するよう命じました。
造船所や武器メーカーも忘年会シーズンたけなわの祝日の前日とあって、早く調整をかけないと担当者がいなくなることを危惧したのです。
各会社は大騒ぎになりました。しかし、各造船所、武器メーカーとも、該当する艦艇の整備状況はしっかりと把握していたらしく、必要な準備にかかる工数などが迅速に計算され、午後3時くらいには概ね75日あれば万全の準備ができると分かりました。
筆者はすぐに総監の副官室に電話をして、総監に報告すべき事項があるので、時間を取ってくれと伝えると、電話口に出た副官付きの女性自衛官が「ただ今、幕僚長がお見えになって、造修補給所長が総監に報告に来るはずだから、アポが入ったら最優先で通せ、と言われました。」と言ってきました。
これを要するに、総監は造修補給所長が来るのをイライラしながら待っているということなのです。そこで筆者は、通常であれば説明資料などを作って持って行くのですが、何も持たず総監室に飛び込み、呉地方総監に「75日ください。万全の準備をして送り出します。」とだけ報告しました。
総監は「分かった。」と一言だけ言い、陪席していた総監部幕僚長がすぐに席を立って自室に戻り、海幕に電話を始めました。
多分、75日の根拠を求められるであろうと考えた筆者は幕僚長室に入り、幕僚長が海幕と電話をするのを聞いていました。二つくらい質問がありましたが、その75日と言う数字が内局に伝えられ、それが政府の決定となり、翌年の3月13日、ソマリア沖・アデン湾における海賊行為対処のための海上における警備行動が発令され、翌14日護衛艦2隻がソマリアに向けて出航していきました。
その海賊対処行動が現在も続いているのです。当時、総監はこのオペレーションは10年では終わらないくらい続く気の長いオペレーションになると呟いていましたが、15年経った現在、海賊行為はかなり少なくなり、航路は徐々に安全なものになっています。
始まってしばらくは2隻の艦艇と2機の哨戒機により海賊対処行動が行われていましたが、2013年以降は、ソマリア沖の海賊に対する多国籍部隊として第151合同任務部隊(CTF151)が編成され、海上自衛隊はこの部隊に護衛艦1隻を参加させています。
この合同任務部隊の司令官は参加各国が持ち回りで担当しており、海上自衛隊も2015年に派遣水上部隊指揮官の伊藤弘海将補が司令官としてバーレーンに着任しています。
自衛官が訓練ではない実動の多国籍部隊の司令官に就いたのは初めてでした。
また、この海域で哨戒に当たる海上自衛隊の航空機を常続的に現場で運用するため、海上自衛隊は自衛隊としては初めて海外に基地を作ったのです。
場所はジブチであり、搭乗員や整備員など50名が常駐しています。
当初は、自衛隊法における海上における警備行動を根拠としていましたが、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」が成立し、根拠法を自衛隊法の海上における警備行動ではなく海賊対処法に切り替えて警備を継続しています。
海上自衛隊が常続的に海外に部隊を派遣していたり、海外に基地を持っていたり、多国籍海軍の司令官を海上自衛官が務めていたりということは意外にご存じない方が多いかと思います。
また、この海上自衛隊から派遣されている護衛艦に海上保安官が乗り組んでいることもご存じない方がいらっしゃいます。
自衛隊は防衛出動や治安出動に際しては警察権を持ちますが、平時には警察権を持っていません。したがって、現地で海賊を捕まえても現行犯として逮捕は出来るものの、捜査権などがないので、尋問等ができず、調書の作成もできません。そこで、常時警察権をもっている海上保安官が乗っているのです。
たまにはちょっとはためになる話もします。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
専門コラム「指揮官の決断」第408回 組織文化
かつて当コラムにおいて「組織風土」という概念を取り上げたことがあります。
今回取り上げるのは「組織文化」です。
この両者は組織論研究者にとっては大きなテーマであり、それらを巡る論文の数は膨大な量になりますが、その違いを明確に説明するのは簡単なことではありません。
一方で、経営学研究者にとっては厳密にその違いを明らかにする必要はないらしく、論文を読んでいて、この研究者は勘違いしているなと思うと、大抵は経営学の研究者の論文であるのが興味深いところです。
確かに、組織論と経営学とはちょうど基礎生理学と臨床医学のような関係にあり、臨床医としては細かい議論よりも、現れてくる症状とその対処法に関心があるのでしょう。
したがって、経営学の研究者には、組織文化と組織風土には明確な違いはないと断言する方もおられます。
この問題について書き始めると一つの論文ができてしまいます。
筆者は大学院の研究科の頃から一貫して組織論を勉強してきましたが、学者ではありませんし、当コラムは組織論の専門コラムでもありませんので、これらの議論に深入りすることはとりあえず避けておきます。
https://aegis-cms.co.jp/3393
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
メールマガジンのバックナンバーは弊社Facebookページからもお読みいただけます。
Facebookページ 「指揮官の決断/休日」 https://www.facebook.com/aegis.cm
Facebookページでは、当メールマガジンでは見ることのできない写真もご覧頂くこ
とが出来ます。
是非Facebookページをご訪問ください。
Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
https://twitter.com/CaptainHayashi です。
---------------------------------------------------------------------------------------
弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
https://aegis-cms.co.jp/book1
---------------------------------------------------------------------------------------
Facebookページを公開しています。
メールマガジン及び専門コラムのバックナンバーをお読みいただけます。
Facebookページ「指揮官の決断/休日」
https://www.facebook.com/aegis.cm
----------------------------------------------------------------------------------------
教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
----------------------------------------------------------------------------------------
コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
----------------------------------------------------------------------------------------
図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
----------------------------------------------------------------------------------------
バックナンバーを公開しています。
こちらからご覧ください。https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
メールアドレスの変更はこちらからお手続きください。
http://aetis-cms.co.jp/mailmag
メールマガジンがご不要の場合はこちらから解除をして頂くことができます。
http://q.bmd.jp/bm/p/f/s.php?id=aegismm&mail=uhayashi%40jcom.zaq.ne.jp&no=2
----------------------------------------------------------------------------------------
メールマガジン「指揮官の休日」
発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
email: yhayashi@aegis-cms.co.jp
Web : http://aegis-cms.co.jp