指揮官の休日 No.363 Youtuber
2023/11/10 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第371回 イスラエルにおけるテロ事件について を掲載いたしました。
自衛隊記念日に際し、思うところを綴っています。
https://aegis-cms.co.jp/3147
No.363 Youtuber
最近発見したのですが、元自衛官のYoutuberが非常に多いのにびっくりです。
筆者は海上自衛隊に30年勤務して勧奨による退官後、商社マンや米国企業のCEOなどを経験してコンサルタントとなり、その後に大学の非常勤講師として仕方なくYoutuberとなりました。コロナ禍のオンラインの講義で、リアルタイムオンラインではなくオンデマンドの授業を選んだため、動画を作ってYoutubeにアップし、URLを学生に示して観てもらったのです。
しかし、元自衛官のYoutuberのほとんどは自衛隊を中途退職した人たちです。
一口に自衛官と言っても、階級で大きく分けると三種類の自衛官がいます。
2等陸士とか1等空士、海士長などの階級は旧軍で言うと、所謂「兵隊さん」です。海上自衛隊で言うならセーラー服を着ている隊員たちを指し、彼らは任期制隊員と呼ばれます。
つまり、入隊して最初の教育を受けて部隊に配属されると3年程度ごとに再任用されて勤務する隊員です。概ね30歳になる前に昇任試験に合格して「曹」の階級(旧軍の下士官)にならない限りは退職して社会に戻っていきます。
一般の会社では非常勤のアルバイト職員のような扱いです。
昇任試験に合格して三曹に昇任すると定年まで勤務することができます。彼らは現場のスペシャリストとして育てられます。
メーカーなら工場のラインにいる中堅の職人さんという扱いでしょう。
古参の「曹」クラスになると若い幹部の教育にも当たることになります。昔、「コンバット」という第2次大戦のヨーロッパ戦線における米陸軍を舞台にしたテレビドラマがあり、サンダース軍曹というベテランの軍曹が主人公でしたが、部隊を本当に支えているのは彼等かもしれません。
そして最後に出てくるのが士官です。自衛隊では「士官」と呼ばず「幹部自衛官」という呼び方をします。
防衛大学校や一般大学から幹部候補生学校を経て、最初から幹部自衛官になる者もいれば、「曹」クラスから選抜されて幹部になる者もいます。
Youtuberで多いのがこの「曹」クラスで退職してYoutubeで動画をアップしている元自衛官です。海上自衛隊出身の元幹部のYoutuberも何人かいます。
彼らのチャンネルにはビックリするほどの登録者がいて、人気の高いYoutuberのようです。
たしかに一般の方々には知りえない様々な裏話などがアップされるので、興味のある方々にとっては面白いかもしれません。
このメールマガジンをお読みの方々には自衛隊に関心をお持ちの方も少なくないかと拝察いたしますし、すでにそれらのYoutuberの動画を楽しんでいらっしゃる方もおられるかと存じます。
ただの暇つぶしでご覧になるのであれば問題ないのですが、最近、ちょっと感じていることがありますので、ご覧になるについての注意点を申し上げておきます。
まず、Youtubeで配信している人たちについてですが、普通の隊員たちは定年まで勤務します。筆者は勧奨退職でしたが、1佐までの幹部及び曹の自衛官は定年退職となります。つまり、元自衛官Youtuberは何らかの事情があって途中で退職した人たちだということです。筆者が見た限り、任期制隊員であった元自衛官のYoutuberは見当たりません。
つまり、陸・海・空のそれぞれ「曹」の階級にあったか、あるいは幹部自衛官だった人で、同期のほとんどが定年まで勤務するのにもかかわらず、途中でドロップアウトした人たちです。個別にはいろいろな事情があったはずですが、自衛隊を任期を全うせずに退職した人たちだということです。しかし、自衛隊が懐かしいのか、あるいはその特殊な経歴が売り物になると判断したのかは分かりませんが、自衛隊を題材に、元自衛官であることを売りにしてYoutuberとなったのでしょう。
元「曹」であった元自衛官Youtuberの多くの動画は観ていても面白いです。自衛隊を知らない方々にとっては興味深い内容も少なくないでしょう。
それらを配信しているのは主として元「曹」自衛官たちで、自分たちの経験を面白おかしく語っていますし、これから入隊しようと思っている若い人たちにとっては参考となるものもあるでしょう。
やはり何も知らないとどれだけきつい生活が待っているのか不安になるかもしれませんが、幹部候補生はともかくとして、一般隊員の入隊教育はそれほどきついものでもありません。同期同士の絆が強く結ばれるので、入隊教育が終わって部隊に赴任するときには寂しくて泣きだす隊員もいるくらいです。そんなことも語られる動画サイトもあり、自衛隊という社会を知らない方々にとっては面白いかもしれません。
何せ、自衛隊とか自衛官というのは特殊な社会、特殊な人間と見做されているらしく、筆者もある時、「自衛隊の方でも冗談など言うんですね。」と感心されたことがあってびっくりしたことがあります。
そのような「自衛隊あるある集」のようなサイトは暇潰しに観て頂いていいのですが、気を付けなければならないサイトが二種類あります。
1尉か3佐くらいで退職して「元幹部自衛官」としてYoutuberになっている人のサイトです。この人たちは軍事専門家としての発言をしています。
このメールマガジンをお読みの方々は筆者が軍事や安全保障の専門家ではないとして、それらの話題に踏み込むときに極めて慎重な態度をとっていることにお気付きと存じます。筆者は部隊指揮官も何回か経験し、海幕防衛課や内局での勤務も経験しています。在米連絡官として米海軍との調整もやってきました。
そのような経験を持っていても安全保障について語るのには躊躇を覚えます。率直に申し上げると、1尉や3佐で、この国の防衛政策や世界の安全保障情勢を語るほどの知識・経験があるとは思えません。その階級では部隊指揮官を経験していないでしょうし、陸・海・空の幹部学校で将来の指揮官や上級部隊の幕僚を養成するための指揮幕僚課程での教育を受けていないからです。つまり、元自衛官のサイトではあっても安全保障については素人だということです。彼らは最前線における軍事技術の専門家なのです。
筆者の場合、米海軍への連絡官として駐在勤務をしている時に湾岸戦争が起こり、米軍がどのように戦争を準備し、そして戦争に突入していくのかを内部から見るという機会に恵まれました。
帰国後内局に出向して防衛行政に関わり、幹部学校指揮幕僚課程に入校して教育を受け、第一線部隊司令部の幕僚として部隊指導に関わり、その後海幕防衛課で海上防衛政策に関わって初めて何となく我が国海上防衛について見えてきたなと感じたものでした。
そのような筆者の眼から見ると、元海上自衛隊幹部のサイトにおける論説はお粗末極まりないものです。人気なのは「〇〇××少佐」のサイトなのですが、彼の経歴は公表されていませんが、そのネット上の名前のとおり3等海佐で退職しているのでしょう。とてもではありませんが、2佐や1佐で部隊指揮官を経験しているとは思えません。
別の元海上自衛隊幹部のサイトでは、よせばいいのに、「海上自衛隊体操」を説明する動画があります。自分が号令をかけながら体操をしている様子を撮影しているのですが、「こいつは幹部候補生学校で何を習ったのだろう?」と思うような体操なのでびっくりしました。
元幹部自衛官でもその程度ですから、元「曹」自衛官がウクライナ戦争や陸上自衛隊のヘリの事故をめぐる自衛隊の思惑などについて語っている動画は見るに堪えません。
航空救難員として勤務し、13年間在職して退職した元航空自衛官のチャンネルがありますが、経歴だけ見ると凄い隊員だったようです。
航空救難員の資格を持っているだけも実は凄いのです。墜落した航空機の搭乗員救助のためにヘリコプターからロープで降りていき、本格的救難隊が到着するまで遭難者の救命にあたる専門家ですから、訓練も猛烈なものが行われます。彼はそれだけではなく、陸上自衛隊で空挺レンジャーの訓練を受けて資格を取得し、海上自衛隊で潜水員の資格も取得したということですので、どれ一つとっても簡単ではない訓練を受けてきた人物のようです。
そのような苦しい訓練を受けて資格を取得したにも関わらず13年で何故退職したのか分かりませんが、戦闘服を着てYoutube動画をアップし続けているところを見ると、かつての自分の経歴を誇りとしていることは間違いないように思われます。
彼の動画を観ていると、彼の自衛隊や日本に対する思いは痛いほど伝わってきますし、彼の経歴が本当のものであるなら、凄い人材であることは間違いありません。空挺レンジャーの資格など、筆者には想像もできません。
しかし、彼が陸上自衛隊のヘリコプターの事故にかかる防衛省や陸上自衛隊の思惑やウクライナ戦争を受けた自衛隊の可能行動や台湾有事について解説しているのを観ると、正直なところ、ガッカリです。
彼は最前線では凄まじい働きができる隊員だったはずですが、国防や政治を語るに必要な経験を積んでいません。特に、台湾有事における米国や日本の立ち回り方などについての解説は間違いだらけです。
彼は13年間で様々な経験をしてきて、米軍との共同訓練にも数多く参加してきて米軍の軍人たちといろいろな話を英語でしてきたと述べていますが、その部分だけは信ずることができません。
筆者たち海上自衛隊の幹部であった者は米海軍との共同訓練には何度も参加していますし、留学や筆者のように駐在勤務を経験している者も珍しくなく、作戦会議などで米軍と一緒に議論することもよくありますが、その経験から言っても彼の発言は不自然です。
また、彼がそのYoutubeで「日米協同訓練」に何度も参加したということも疑わしく思われます。なぜかというと、もし日米の訓練に参加した経験があるなら、「協同」という文字は使わず、「共同」という字を使うはずです。協同訓練は、陸・海・空自衛隊が一緒に行う訓練であり、日米の場合は「共同」という文字が使われます。それを知らないというのは、そもそも参加したことがないということかもしれません。
彼は自衛権発動の要件も知らず、有事に日米がどのように動くのかをまったく理解していません。つまり、米軍と話をしたことがあるかもしれませんが、訓練後に一緒に飲んだという程度かと思っています。
彼は会社で言えば、メーカーの製造ラインにいる凄腕職人であり、その分野においては得難い人材であるはずですが、世界の経済事情や企業経営については何の見識も持っていないというところでしょうか。
これは下士官に対する偏見ではありません。自衛隊が幹部と曹に対して期待していることが全く違うのです。
幹部は将来的に部隊指揮官や上級部隊司令部幕僚として勤務させる必要があるので、ジェネラリストとして育てる必要があるのに対し、曹士隊員はスペシャリストとして育てる必要があるのです。
どこの軍隊でもそうですが、下手な士官よりも下士官の方が優秀です。特に日本の下士官は旧軍でも優秀であったことは世界が認めるところであり、ドイツの士官、日本の下士官、米国の兵隊で軍隊を作ったらと世界最強の軍隊ができたと言われています。
現代でも自衛隊の曹クラスの隊員の優秀さは群を抜いています。
ただ、安全保障など大局に立った議論は彼らの専門ではないということです。
その元航空自衛官は、Youtubeを立ち上げた数年前はそうではなかったのでしょうが、チャンネル登録者が増え、いろいろなコメントを得ているうちに自分を勘違いしたのかもしれません。
とにかく彼のYoutubeをまともに受け止めると防衛問題を誤って理解することになります。
元自衛官が安全保障の専門家とは限らないという典型的な例です。
AkikinnJAPANチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=HifVUtcoCok&t=884s )
上記動画をご覧いただければ、彼が「有事」という概念をまったく理解していないことが分かります。つまり、彼はレスキューが専門で、国際関係の緊張状態からグレーゾーンに入り、ホットな状況に移っていくという構図を理解できていないのかもしれません。
自衛隊を面白可笑しく紹介する元自衛官の動画は、筆者が観ていても面白く、「そうか、彼らはそういう想いで勤務していたのか。」と思うこともありますし、入隊教育も筆者たちの幹部候補生とは異なる教育なので、「へぇ」と思ったりして面白く見ています。
ただ、元自衛官のサイトで、防衛問題や安全保障に関する議論を勉強しようと思うと問題がないとは言えないので、ご注意くださいね。
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専門コラム「指揮官の決断」第371回 イスラエルにおけるテロ事件について 掲載のお知らせ
イスラエルにおいてハマスが越境してテロを行った事件から1ヵ月経ちました。
この間、この問題に関して当コラムでは、政府の対応への批判は行ったものの、この問題を危機管理の専門コラムとしてどうとらえるかという課題に応えてきませんでした。
そのことに関して、何人かの方から、「何も発言はないのか?」というメールを頂いています。
この問題について、テレビの情報番組では様々なコメンテーターが登場して、様々な発言をされているようで、この国にはそんなに中東を語ることのできる人が多かったのかとびっくりしています。
しかし、にわかというか似非というか、出鱈目な解説が多すぎます。
メディアで解説をするということは大変なことです。
筆者は3年前に母校の非常勤講師として半期の講義を受け持ったことがあります。大学生相手の入門的講義でしたが、持てるバックグランドを総動員してやっと14回の講義を終えることができました。大学生相手の講義ですらそうなのですから、誰が観ているか分からないテレビで解説するのには並外れた専門的知見が必要なはずです。
続きはこちらでお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/3147
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イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
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最近発見したのですが、元自衛官のYoutuberが非常に多いのにびっくりです。
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つまり、入隊して最初の教育を受けて部隊に配属されると3年程度ごとに再任用されて勤務する隊員です。概ね30歳になる前に昇任試験に合格して「曹」の階級(旧軍の下士官)にならない限りは退職して社会に戻っていきます。
一般の会社では非常勤のアルバイト職員のような扱いです。
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古参の「曹」クラスになると若い幹部の教育にも当たることになります。昔、「コンバット」という第2次大戦のヨーロッパ戦線における米陸軍を舞台にしたテレビドラマがあり、サンダース軍曹というベテランの軍曹が主人公でしたが、部隊を本当に支えているのは彼等かもしれません。
そして最後に出てくるのが士官です。自衛隊では「士官」と呼ばず「幹部自衛官」という呼び方をします。
防衛大学校や一般大学から幹部候補生学校を経て、最初から幹部自衛官になる者もいれば、「曹」クラスから選抜されて幹部になる者もいます。
Youtuberで多いのがこの「曹」クラスで退職してYoutubeで動画をアップしている元自衛官です。海上自衛隊出身の元幹部のYoutuberも何人かいます。
彼らのチャンネルにはビックリするほどの登録者がいて、人気の高いYoutuberのようです。
たしかに一般の方々には知りえない様々な裏話などがアップされるので、興味のある方々にとっては面白いかもしれません。
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ただの暇つぶしでご覧になるのであれば問題ないのですが、最近、ちょっと感じていることがありますので、ご覧になるについての注意点を申し上げておきます。
まず、Youtubeで配信している人たちについてですが、普通の隊員たちは定年まで勤務します。筆者は勧奨退職でしたが、1佐までの幹部及び曹の自衛官は定年退職となります。つまり、元自衛官Youtuberは何らかの事情があって途中で退職した人たちだということです。筆者が見た限り、任期制隊員であった元自衛官のYoutuberは見当たりません。
つまり、陸・海・空のそれぞれ「曹」の階級にあったか、あるいは幹部自衛官だった人で、同期のほとんどが定年まで勤務するのにもかかわらず、途中でドロップアウトした人たちです。個別にはいろいろな事情があったはずですが、自衛隊を任期を全うせずに退職した人たちだということです。しかし、自衛隊が懐かしいのか、あるいはその特殊な経歴が売り物になると判断したのかは分かりませんが、自衛隊を題材に、元自衛官であることを売りにしてYoutuberとなったのでしょう。
元「曹」であった元自衛官Youtuberの多くの動画は観ていても面白いです。自衛隊を知らない方々にとっては興味深い内容も少なくないでしょう。
それらを配信しているのは主として元「曹」自衛官たちで、自分たちの経験を面白おかしく語っていますし、これから入隊しようと思っている若い人たちにとっては参考となるものもあるでしょう。
やはり何も知らないとどれだけきつい生活が待っているのか不安になるかもしれませんが、幹部候補生はともかくとして、一般隊員の入隊教育はそれほどきついものでもありません。同期同士の絆が強く結ばれるので、入隊教育が終わって部隊に赴任するときには寂しくて泣きだす隊員もいるくらいです。そんなことも語られる動画サイトもあり、自衛隊という社会を知らない方々にとっては面白いかもしれません。
何せ、自衛隊とか自衛官というのは特殊な社会、特殊な人間と見做されているらしく、筆者もある時、「自衛隊の方でも冗談など言うんですね。」と感心されたことがあってびっくりしたことがあります。
そのような「自衛隊あるある集」のようなサイトは暇潰しに観て頂いていいのですが、気を付けなければならないサイトが二種類あります。
1尉か3佐くらいで退職して「元幹部自衛官」としてYoutuberになっている人のサイトです。この人たちは軍事専門家としての発言をしています。
このメールマガジンをお読みの方々は筆者が軍事や安全保障の専門家ではないとして、それらの話題に踏み込むときに極めて慎重な態度をとっていることにお気付きと存じます。筆者は部隊指揮官も何回か経験し、海幕防衛課や内局での勤務も経験しています。在米連絡官として米海軍との調整もやってきました。
そのような経験を持っていても安全保障について語るのには躊躇を覚えます。率直に申し上げると、1尉や3佐で、この国の防衛政策や世界の安全保障情勢を語るほどの知識・経験があるとは思えません。その階級では部隊指揮官を経験していないでしょうし、陸・海・空の幹部学校で将来の指揮官や上級部隊の幕僚を養成するための指揮幕僚課程での教育を受けていないからです。つまり、元自衛官のサイトではあっても安全保障については素人だということです。彼らは最前線における軍事技術の専門家なのです。
筆者の場合、米海軍への連絡官として駐在勤務をしている時に湾岸戦争が起こり、米軍がどのように戦争を準備し、そして戦争に突入していくのかを内部から見るという機会に恵まれました。
帰国後内局に出向して防衛行政に関わり、幹部学校指揮幕僚課程に入校して教育を受け、第一線部隊司令部の幕僚として部隊指導に関わり、その後海幕防衛課で海上防衛政策に関わって初めて何となく我が国海上防衛について見えてきたなと感じたものでした。
そのような筆者の眼から見ると、元海上自衛隊幹部のサイトにおける論説はお粗末極まりないものです。人気なのは「〇〇××少佐」のサイトなのですが、彼の経歴は公表されていませんが、そのネット上の名前のとおり3等海佐で退職しているのでしょう。とてもではありませんが、2佐や1佐で部隊指揮官を経験しているとは思えません。
別の元海上自衛隊幹部のサイトでは、よせばいいのに、「海上自衛隊体操」を説明する動画があります。自分が号令をかけながら体操をしている様子を撮影しているのですが、「こいつは幹部候補生学校で何を習ったのだろう?」と思うような体操なのでびっくりしました。
元幹部自衛官でもその程度ですから、元「曹」自衛官がウクライナ戦争や陸上自衛隊のヘリの事故をめぐる自衛隊の思惑などについて語っている動画は見るに堪えません。
航空救難員として勤務し、13年間在職して退職した元航空自衛官のチャンネルがありますが、経歴だけ見ると凄い隊員だったようです。
航空救難員の資格を持っているだけも実は凄いのです。墜落した航空機の搭乗員救助のためにヘリコプターからロープで降りていき、本格的救難隊が到着するまで遭難者の救命にあたる専門家ですから、訓練も猛烈なものが行われます。彼はそれだけではなく、陸上自衛隊で空挺レンジャーの訓練を受けて資格を取得し、海上自衛隊で潜水員の資格も取得したということですので、どれ一つとっても簡単ではない訓練を受けてきた人物のようです。
そのような苦しい訓練を受けて資格を取得したにも関わらず13年で何故退職したのか分かりませんが、戦闘服を着てYoutube動画をアップし続けているところを見ると、かつての自分の経歴を誇りとしていることは間違いないように思われます。
彼の動画を観ていると、彼の自衛隊や日本に対する思いは痛いほど伝わってきますし、彼の経歴が本当のものであるなら、凄い人材であることは間違いありません。空挺レンジャーの資格など、筆者には想像もできません。
しかし、彼が陸上自衛隊のヘリコプターの事故にかかる防衛省や陸上自衛隊の思惑やウクライナ戦争を受けた自衛隊の可能行動や台湾有事について解説しているのを観ると、正直なところ、ガッカリです。
彼は最前線では凄まじい働きができる隊員だったはずですが、国防や政治を語るに必要な経験を積んでいません。特に、台湾有事における米国や日本の立ち回り方などについての解説は間違いだらけです。
彼は13年間で様々な経験をしてきて、米軍との共同訓練にも数多く参加してきて米軍の軍人たちといろいろな話を英語でしてきたと述べていますが、その部分だけは信ずることができません。
筆者たち海上自衛隊の幹部であった者は米海軍との共同訓練には何度も参加していますし、留学や筆者のように駐在勤務を経験している者も珍しくなく、作戦会議などで米軍と一緒に議論することもよくありますが、その経験から言っても彼の発言は不自然です。
また、彼がそのYoutubeで「日米協同訓練」に何度も参加したということも疑わしく思われます。なぜかというと、もし日米の訓練に参加した経験があるなら、「協同」という文字は使わず、「共同」という字を使うはずです。協同訓練は、陸・海・空自衛隊が一緒に行う訓練であり、日米の場合は「共同」という文字が使われます。それを知らないというのは、そもそも参加したことがないということかもしれません。
彼は自衛権発動の要件も知らず、有事に日米がどのように動くのかをまったく理解していません。つまり、米軍と話をしたことがあるかもしれませんが、訓練後に一緒に飲んだという程度かと思っています。
彼は会社で言えば、メーカーの製造ラインにいる凄腕職人であり、その分野においては得難い人材であるはずですが、世界の経済事情や企業経営については何の見識も持っていないというところでしょうか。
これは下士官に対する偏見ではありません。自衛隊が幹部と曹に対して期待していることが全く違うのです。
幹部は将来的に部隊指揮官や上級部隊司令部幕僚として勤務させる必要があるので、ジェネラリストとして育てる必要があるのに対し、曹士隊員はスペシャリストとして育てる必要があるのです。
どこの軍隊でもそうですが、下手な士官よりも下士官の方が優秀です。特に日本の下士官は旧軍でも優秀であったことは世界が認めるところであり、ドイツの士官、日本の下士官、米国の兵隊で軍隊を作ったらと世界最強の軍隊ができたと言われています。
現代でも自衛隊の曹クラスの隊員の優秀さは群を抜いています。
ただ、安全保障など大局に立った議論は彼らの専門ではないということです。
その元航空自衛官は、Youtubeを立ち上げた数年前はそうではなかったのでしょうが、チャンネル登録者が増え、いろいろなコメントを得ているうちに自分を勘違いしたのかもしれません。
とにかく彼のYoutubeをまともに受け止めると防衛問題を誤って理解することになります。
元自衛官が安全保障の専門家とは限らないという典型的な例です。
AkikinnJAPANチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=HifVUtcoCok&t=884s )
上記動画をご覧いただければ、彼が「有事」という概念をまったく理解していないことが分かります。つまり、彼はレスキューが専門で、国際関係の緊張状態からグレーゾーンに入り、ホットな状況に移っていくという構図を理解できていないのかもしれません。
自衛隊を面白可笑しく紹介する元自衛官の動画は、筆者が観ていても面白く、「そうか、彼らはそういう想いで勤務していたのか。」と思うこともありますし、入隊教育も筆者たちの幹部候補生とは異なる教育なので、「へぇ」と思ったりして面白く見ています。
ただ、元自衛官のサイトで、防衛問題や安全保障に関する議論を勉強しようと思うと問題がないとは言えないので、ご注意くださいね。
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イスラエルにおいてハマスが越境してテロを行った事件から1ヵ月経ちました。
この間、この問題に関して当コラムでは、政府の対応への批判は行ったものの、この問題を危機管理の専門コラムとしてどうとらえるかという課題に応えてきませんでした。
そのことに関して、何人かの方から、「何も発言はないのか?」というメールを頂いています。
この問題について、テレビの情報番組では様々なコメンテーターが登場して、様々な発言をされているようで、この国にはそんなに中東を語ることのできる人が多かったのかとびっくりしています。
しかし、にわかというか似非というか、出鱈目な解説が多すぎます。
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弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
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発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
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