指揮官の休日 No.343 軍隊に民主主義はない!
2023/06/23 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
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https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第351回 安全保障の議論の経済的側面 その1 を掲載いたしました。
安全保障関連予算が対GDP比2%になるための法律などが成立しました。さしたる根拠のない1%論から脱却したのはいいのですが、この国で行われている2%の議論は、自衛隊をかえって弱体化させるおそれがあります。
興味のある方はこちらからお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/3033
No.343 軍隊に民主主義はない!
とても残念な事件が起きました。
陸上自衛隊で入隊したばかりの新入隊員教育中の自衛官候補生が、射撃訓練中に教官等に向かって発砲し、2名を死亡させ、1名に重傷を負わせた事件です。
事件の詳細や発砲の動機などはまだ分かっていませんが、解明には時間がかかるでしょう。
評論家や情報番組のコメンテーターなどは、スマホで簡単に大量の敵を殺傷することのできるゲームなどが流行っていることによる感覚の麻痺や陸上自衛隊の体質の問題などに言及している人もいますが、筆者はそれら一見社会学的分析により論理必然的に事が生じたとする見方には懐疑的です。
そもそもそれらのコメントをする人々は、自衛隊員が使用する自動小銃を撃ったことがないはずであり、初めての射撃訓練の時にどのような心境になるのかを理解できていません。
筆者は大学院を修了して海上自衛隊に入隊し、広島県の江田島にある幹部候補生学校で候補生として訓練を受けている最中に小銃と拳銃の射撃を初めて経験しました。
筆者はそれほど興奮もしませんでしたが、候補生によっては心臓がパクパクしたという者もいました。そのため、初めての射撃の時には平常心を保つことが難しいのかもしれないと思ったことを覚えています。
候補生学校を卒業して3年後、筆者はある護衛艦のミサイル射撃担当の砲術士として勤務していました。海上自衛官であっても小火器射撃の訓練は必要であり、年次射撃は義務として行わなければなりません。
その船で砲術士は陸戦隊の指揮官であり、したがって小火器射撃訓練の指導官も砲術士が担当していました。乗員の射撃訓練を実際に指導し、隊員の練度を掌握しておくことは陸戦隊指揮官としても必要だということでしょう。
ある日、筆者は全乗員を引率して、横須賀の武山にある陸上自衛隊の射撃訓練場に出かけました。
現地について標的を整備したり、射座の位置を確認したりしてから乗員を集合させ、注意事項を示達しました。その時、気が付いたのですが、射座の真上や真横に弾痕がいくつもあるのです。
射座から正面の標的を狙うのに、なぜ真上や真横に弾痕があるのか不思議でした。その年の前年、山口県の陸上自衛隊の射撃訓練場で自動小銃の連射事件があり、2等陸士という、一番階級の低い入隊したばかりの隊員が銃を乱射して4人に向かって発砲して重傷を負わせ、うち1名が死亡するという事件がありました。
筆者はその事件を覚えていたので、小火器射撃の訓練を実施するにあたり、銃を持つことによって興奮して正気を失う隊員が出るかもしれないと考えていました。
今なら別の手段を使うでしょうが、若かった筆者は、実弾を込めた拳銃を腰のにぶら下げ、訓練場で乗員に申し渡しました。
「いいかお前ら、銃を持ったまま振り向いたりしたタダじゃおかんからな。」
その日の小火器射撃訓練は、その船が就役して以来、最も低い成績でした。
アンケートを取ったところ、「後ろにいた砲術士が怖くて落ち着かなかった。」という所見がいくつかあり、艦長から「砲術士よ、何をしとったんだ?」と訊かれて困ってしまいました。まだ着任して日が浅く、筆者が分隊士として率いていた乗員は筆者の冗談を理解していましたが、真に受けた乗員が多かったようです。
筆者が陸上自衛隊の事件を聞いてうんざりしていることがあります。
それが警察が取り調べに当たっていることであり、裁判の通常の裁判所で行われるであろうことです。
憲法の規定で、特別の裁判所は設置できないからなのですが、まともな国の軍隊であれば、軍隊内で軍人のみが関わる犯罪は軍法会議で裁かれるはずです。また、自衛隊には警務官という自衛官の身分を持った警察官もいます。
軍隊というのは特殊な社会です。だからと言って特別な待遇をせよというつもりもありませんが、一般の常識だけで管理することにも無理があるかと考えています。
海上自衛隊の幹部候補生学校は旧海軍兵学校があった広島県の江田島にあります。旧海軍士官はここで毎年何百発も殴られて鍛えられていました。
筆者たち戦後の海上自衛隊の候補生たちは殴られるということはありませんでしたが、その代わりに腕立て伏せやグランドを走るなどということはうんざりするほどさせられて鍛えられました。
陸上自衛隊では「前支え」という小銃を「捧げ銃」の姿勢で何分も保持するという鍛え方があるそうです。
ところが、令和の自衛隊ではそれらも「体罰」であるとして禁止されてしまっています。
確かに、中学・高校や大学のクラブ、企業の新入社員教育などで体罰が行われるというのは考え物でしょう。
しかし自衛隊というのはそれらの教育期間とは全く異なる性格を持っています。警察・消防・海保も厳しい訓練を行いますが、それらとも性格が異なっています。
軍隊は敵と戦う組織です。
まったく個人的には怨みもなにもない相手と血みどろの戦いをしなければならないのです。相手もこちらには何の怨みもなく、ただ単に国家や国民のために自分の命を投げ出して戦いを挑んできているにすぎません。
つまり、警察のように悪意を持ったものと対峙するのでもなく、消防のように火を相手にしているのでもなく、海保のように海という過酷な自然を相手にしているのでもありません。
何の面識も怨みも何もない相手と命を懸けた戦いをしなければならないという、尋常な神経では耐えられるはずのない任務をこなさなければならないのです。
つまり、本当の戦いが始まったならば、正気を捨てて、死に物狂いで任務に当たらなければ、まとも神経では耐えられない事態に追い込まれていくのです。
そのような任務に就く者たちの集団が強力な武器を持っているのですから、一歩誤るととんでもないことになります。最近は差別用語として言われなくなりましたが、文字通り「気違いに刃物」となってしまうということです。
これほど危険な集団はありません。
だからこそ、一般的な常識でこの集団を規律していくことには無理があると考えています。
今回の表題「軍隊に民主主義はない」という言葉は、かつて米国の議会で米海兵隊司令官が発言したもので、その際には議会が総立ちになり、スタンディングオペレーションの拍手を浴びたそうですが、筆者もある時、ある部隊の司令部の会議に隷下部隊の指揮官として出席しているときに、「やかましい、軍隊に民主主義はない!」と司令部幕僚をどなりつけたことがありました。
筆者たちが候補生学校で受けた教育は、ある意味で理不尽なものでした。時間的・精神的に追い込まれていき、その中で問題解決の方法を自ら会得していくことが求められていたと気付いたのは任官して何年か経ってからでした。候補生として訓練を受けている時には「なんて不合理なんだ。」と思うことはありましたが、筆者たちにそのような鍛え方をしてくる学生隊の幹部を恨んだことはありません。彼らが候補生を鍛えることだけを目的にしていることが分かっていたからです。つまり「リンチ」ではなく、目的のある「理不尽さ」であることを候補生たちは理屈ではなく感覚として知っていたのです。
筆者はその後新入隊員を教育する部隊の司令として勤務したことがあります。つい先週まで高校生だったような青年たちに共同生活をさせ、自衛官として必要な最低限の知識・体力・礼儀作法を修得させなければならないのですが、この部隊に着任した際に筆者が教官たちに示した方針は、新入隊員たちが可愛いと思うなら、彼らが戦場に出て、どのような困難に直面しても生きて帰ってくることのできる体力と気力を授けてくれということでした。そのような思いのもとで教育に当たっていけば、どれほど厳しい教育をしても隊員たちは体力的に参ることはあってもメンタルダウンなどはしないはずだと考えていました。
そこでは新入隊員教育の原点を見つめ直すという改革を行い、かなり厳しい訓練を行いましたが、メンタルダウンしたものはなく、脱落者も出さずに全員を修了させて部隊に送り出しました。
旧軍でも海軍兵学校での鉄拳制裁は教官ではなく上級生が下級生に対して行ったものであり、自分たちの後に続く者を鍛えようという情熱で行われたのであって、それを恨んだ記録などを読んだことがありません。彼らは当時のエリートだったので、陰湿ないじめなどとは無縁だったのです。
一方で、軍艦の中で下士官から水兵に対して行われた「甲板整列」というシゴキは、精神棒などというバットのようなものが用いられた「リンチ」であり、それについては様々な文献でいかに酷かったかが語られています。
筆者も「リンチ」を肯定するつもりはありません。しかし、軍隊というのは一般の民主主義の基準では測ることのできない特殊性を持つことは理解される必要があるかと考えています。
もちろん、徴兵制の軍隊では許されないでしょう。自衛隊は完全な志願制であり、どのような困難に遭遇しても任務を達成できる隊員を育てるために、一般の社会では想像ができない訓練も行われることを前提として入隊してくる隊員に対して、そのような目的を持った訓練が行われることは必要です。
法律学における「特別権力関係」であると言い切るつもりはありません。しかし、志願制の軍隊であれば、そのメンバーがいかなる困難も克服できるように厳しい訓練を課すことに違和感を持つ必要はないかと考えます。
アメリカの海兵隊などは、そのような集団であるがゆえに海兵隊員は誇りを持っていますし、世間も敬意を表します。
事に臨んでは尋常な神経では耐えられないような任務を達成する集団が、国家や社会に対しては忠節を誓い、平時にはひたすら修練に努めるというように規律していくのは並大抵のことではありません。
安直な民主主義などは何の役にも立ちません。全く異なる価値観で規律される必要があるかと考えます。
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通常国会が閉会となりました。
先に政府が打ち出した安全保障関連予算の対GDP比2%への増額を裏付けるための予算を確保する法案などが成立していきましたが、筆者に言わせれば、最低の措置です。
このままでは自衛隊は張り子のブタになってしまい、戦うことのできない軍隊に成り下がる虞があります。
まず、防衛増税と言われないよう特別会計の剰余金や国有財産の売却益など税外収入による「防衛力強化資金」を創設するという説明ですが、これは完全に国民を騙し、愚弄するものです。
続きはこちらでお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/3033
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『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
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1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
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No.343 軍隊に民主主義はない!
とても残念な事件が起きました。
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事件の詳細や発砲の動機などはまだ分かっていませんが、解明には時間がかかるでしょう。
評論家や情報番組のコメンテーターなどは、スマホで簡単に大量の敵を殺傷することのできるゲームなどが流行っていることによる感覚の麻痺や陸上自衛隊の体質の問題などに言及している人もいますが、筆者はそれら一見社会学的分析により論理必然的に事が生じたとする見方には懐疑的です。
そもそもそれらのコメントをする人々は、自衛隊員が使用する自動小銃を撃ったことがないはずであり、初めての射撃訓練の時にどのような心境になるのかを理解できていません。
筆者は大学院を修了して海上自衛隊に入隊し、広島県の江田島にある幹部候補生学校で候補生として訓練を受けている最中に小銃と拳銃の射撃を初めて経験しました。
筆者はそれほど興奮もしませんでしたが、候補生によっては心臓がパクパクしたという者もいました。そのため、初めての射撃の時には平常心を保つことが難しいのかもしれないと思ったことを覚えています。
候補生学校を卒業して3年後、筆者はある護衛艦のミサイル射撃担当の砲術士として勤務していました。海上自衛官であっても小火器射撃の訓練は必要であり、年次射撃は義務として行わなければなりません。
その船で砲術士は陸戦隊の指揮官であり、したがって小火器射撃訓練の指導官も砲術士が担当していました。乗員の射撃訓練を実際に指導し、隊員の練度を掌握しておくことは陸戦隊指揮官としても必要だということでしょう。
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筆者はその事件を覚えていたので、小火器射撃の訓練を実施するにあたり、銃を持つことによって興奮して正気を失う隊員が出るかもしれないと考えていました。
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アンケートを取ったところ、「後ろにいた砲術士が怖くて落ち着かなかった。」という所見がいくつかあり、艦長から「砲術士よ、何をしとったんだ?」と訊かれて困ってしまいました。まだ着任して日が浅く、筆者が分隊士として率いていた乗員は筆者の冗談を理解していましたが、真に受けた乗員が多かったようです。
筆者が陸上自衛隊の事件を聞いてうんざりしていることがあります。
それが警察が取り調べに当たっていることであり、裁判の通常の裁判所で行われるであろうことです。
憲法の規定で、特別の裁判所は設置できないからなのですが、まともな国の軍隊であれば、軍隊内で軍人のみが関わる犯罪は軍法会議で裁かれるはずです。また、自衛隊には警務官という自衛官の身分を持った警察官もいます。
軍隊というのは特殊な社会です。だからと言って特別な待遇をせよというつもりもありませんが、一般の常識だけで管理することにも無理があるかと考えています。
海上自衛隊の幹部候補生学校は旧海軍兵学校があった広島県の江田島にあります。旧海軍士官はここで毎年何百発も殴られて鍛えられていました。
筆者たち戦後の海上自衛隊の候補生たちは殴られるということはありませんでしたが、その代わりに腕立て伏せやグランドを走るなどということはうんざりするほどさせられて鍛えられました。
陸上自衛隊では「前支え」という小銃を「捧げ銃」の姿勢で何分も保持するという鍛え方があるそうです。
ところが、令和の自衛隊ではそれらも「体罰」であるとして禁止されてしまっています。
確かに、中学・高校や大学のクラブ、企業の新入社員教育などで体罰が行われるというのは考え物でしょう。
しかし自衛隊というのはそれらの教育期間とは全く異なる性格を持っています。警察・消防・海保も厳しい訓練を行いますが、それらとも性格が異なっています。
軍隊は敵と戦う組織です。
まったく個人的には怨みもなにもない相手と血みどろの戦いをしなければならないのです。相手もこちらには何の怨みもなく、ただ単に国家や国民のために自分の命を投げ出して戦いを挑んできているにすぎません。
つまり、警察のように悪意を持ったものと対峙するのでもなく、消防のように火を相手にしているのでもなく、海保のように海という過酷な自然を相手にしているのでもありません。
何の面識も怨みも何もない相手と命を懸けた戦いをしなければならないという、尋常な神経では耐えられるはずのない任務をこなさなければならないのです。
つまり、本当の戦いが始まったならば、正気を捨てて、死に物狂いで任務に当たらなければ、まとも神経では耐えられない事態に追い込まれていくのです。
そのような任務に就く者たちの集団が強力な武器を持っているのですから、一歩誤るととんでもないことになります。最近は差別用語として言われなくなりましたが、文字通り「気違いに刃物」となってしまうということです。
これほど危険な集団はありません。
だからこそ、一般的な常識でこの集団を規律していくことには無理があると考えています。
今回の表題「軍隊に民主主義はない」という言葉は、かつて米国の議会で米海兵隊司令官が発言したもので、その際には議会が総立ちになり、スタンディングオペレーションの拍手を浴びたそうですが、筆者もある時、ある部隊の司令部の会議に隷下部隊の指揮官として出席しているときに、「やかましい、軍隊に民主主義はない!」と司令部幕僚をどなりつけたことがありました。
筆者たちが候補生学校で受けた教育は、ある意味で理不尽なものでした。時間的・精神的に追い込まれていき、その中で問題解決の方法を自ら会得していくことが求められていたと気付いたのは任官して何年か経ってからでした。候補生として訓練を受けている時には「なんて不合理なんだ。」と思うことはありましたが、筆者たちにそのような鍛え方をしてくる学生隊の幹部を恨んだことはありません。彼らが候補生を鍛えることだけを目的にしていることが分かっていたからです。つまり「リンチ」ではなく、目的のある「理不尽さ」であることを候補生たちは理屈ではなく感覚として知っていたのです。
筆者はその後新入隊員を教育する部隊の司令として勤務したことがあります。つい先週まで高校生だったような青年たちに共同生活をさせ、自衛官として必要な最低限の知識・体力・礼儀作法を修得させなければならないのですが、この部隊に着任した際に筆者が教官たちに示した方針は、新入隊員たちが可愛いと思うなら、彼らが戦場に出て、どのような困難に直面しても生きて帰ってくることのできる体力と気力を授けてくれということでした。そのような思いのもとで教育に当たっていけば、どれほど厳しい教育をしても隊員たちは体力的に参ることはあってもメンタルダウンなどはしないはずだと考えていました。
そこでは新入隊員教育の原点を見つめ直すという改革を行い、かなり厳しい訓練を行いましたが、メンタルダウンしたものはなく、脱落者も出さずに全員を修了させて部隊に送り出しました。
旧軍でも海軍兵学校での鉄拳制裁は教官ではなく上級生が下級生に対して行ったものであり、自分たちの後に続く者を鍛えようという情熱で行われたのであって、それを恨んだ記録などを読んだことがありません。彼らは当時のエリートだったので、陰湿ないじめなどとは無縁だったのです。
一方で、軍艦の中で下士官から水兵に対して行われた「甲板整列」というシゴキは、精神棒などというバットのようなものが用いられた「リンチ」であり、それについては様々な文献でいかに酷かったかが語られています。
筆者も「リンチ」を肯定するつもりはありません。しかし、軍隊というのは一般の民主主義の基準では測ることのできない特殊性を持つことは理解される必要があるかと考えています。
もちろん、徴兵制の軍隊では許されないでしょう。自衛隊は完全な志願制であり、どのような困難に遭遇しても任務を達成できる隊員を育てるために、一般の社会では想像ができない訓練も行われることを前提として入隊してくる隊員に対して、そのような目的を持った訓練が行われることは必要です。
法律学における「特別権力関係」であると言い切るつもりはありません。しかし、志願制の軍隊であれば、そのメンバーがいかなる困難も克服できるように厳しい訓練を課すことに違和感を持つ必要はないかと考えます。
アメリカの海兵隊などは、そのような集団であるがゆえに海兵隊員は誇りを持っていますし、世間も敬意を表します。
事に臨んでは尋常な神経では耐えられないような任務を達成する集団が、国家や社会に対しては忠節を誓い、平時にはひたすら修練に努めるというように規律していくのは並大抵のことではありません。
安直な民主主義などは何の役にも立ちません。全く異なる価値観で規律される必要があるかと考えます。
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