指揮官の休日 No.333 ChatGPT
2023/04/14 (Fri) 06:30
XXXX 様
-------------------------------------------------------------------
指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
-------------------------------------------------------------------
危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第341回 弾道ミサイル対処 を掲載いたしました。
Jアラートで列島は騒然としましたが、弾道ミサイル対応がどのように行われているかを簡単に説明しています。
https://aegis-cms.co.jp/2963
No.333 ChatGPT
巷を賑わせているChat GPTですが、これについて思うところを気ままに綴ります。
このところ、当メールマガジンの本旨を離れて辛口のものが多かったので、今回は本来の無責任などうでもいい記事に戻ります。
興味のない方は専門コラムに跳んでください。イージス艦がどのように弾道ミサイルに対処するのかを簡単に説明しています。
そもそもの話ですが、ChatGPTとは何だろうと考えました。Chat Generative Pre-trained Transformerということですから、事前に訓練を積んだ雑談を生み出すための変成器という意味であり、要するにいろいろと事前に情報を与えられて雑談をする道具ということです。
筆者もこの1か月にわたって、これがどういう能力を持っているのかを検証するためにいろいろと使ってみました。
質問に答えて自然な言葉で文章が返ってきます。
確かに文章を作るにあたっては、どういうロジックが用いられているのか知りませんが、よくできたAIだと思います。日本語は論理的な言語ではないのでコンピュータには難しいかと思いますが、かなり自然な文体で綴ってくれます。
とても素晴らしい潜在能力を持っているものと思います。使い手次第で大変役に立つツールであることは間違いありません。
ただ、使い方を誤ると大変なことになります。
この危険性があるため、イタリア政府はその使用を禁止し、開発元のオープンAIに対して個人情報保護などに関する具体的な対策を1か月以内に策定するように求めているほか、米国ではテスラ社長のイーロン・マスク氏やコンピュータ界のレジェンドであるウォズニアック氏などが連名でコントロールを喪失する怖れがあるとして開発の一時中断を要求しています。
たしかに凄まじい潜在能力を持つAIだけに、何らかの指針無しに開発が進むと想定外の事態を惹起するかもしれません。
想定外の事態がどのような事態なのかは、想定外なので何とも申し上げられないのですが、想定できる事態として大変なことになりそうなものは簡単にいくつも指摘できます。
このAIはネット上に展開されている様々な情報を集積しており、それらを簡単に集大成してしまいますので、テロリストには核兵器や猛毒を持つ化学兵器の作り方などは簡単に教えてくれるでしょうし、学生はいろいろな文献を読まずに労なく論文を書き上げることができます。ひょっとすると学者だってそうやって論文を書くかもしれません。
このAIはネット上の情報を怖ろしく大量に集め、瞬時にそれらを統合して文章を作ります。したがって、作られた文章には広くいろいろな知見が集められています。
これは将来的には凄いものに育っていく潜在的可能性を持っていると思われます。
しかし、現時点では正直なところ使い物にはなりません。
これが役に立つのは、自分で文章を作ることができない人でしょう。
ChatGPTが作る文章は、ネット上を広く拾い歩いて作るので、一見もっともらしいものができるのですが、創造性のあるものにはなりませんし、ちょっと専門性の高いものを書かせると、出鱈目な内容になります。
簡単な組織論のコラムを書かせても話になりません。
ただ、ドラッカーを読んだこともないのにドラッカーと言えば「イノベーション」だと思い込んでいる経営コンサルタントが行うセミナーの原稿程度なら本人よりもまともなものを書けるでしょう。
それほど専門性が強くない内容であれば、一応差しさわりのないものができるのですが、実は中身のない空虚なものになります。
西村経済産業相は記者会見でチャットGPTで国会答弁を作成する可能性に言及しましたが、その理由として公務員の負担削減を挙げていました。
国会における答弁資料作成はおそろしく労力を費やす作業です。
国会で質問に立つ国会議員は、前日にその質問の趣旨を通告しなければなりません。
その通告は各省庁に配られ、担当部門で答弁資料が作成されるのですが、通告が早ければいいのですが、夜遅くなって通告してくる議員もいます。
つまり、自分のところで答弁資料を書かなければならないかどうかすら夜遅くにならないと分からないのです。
したがって、国会の開会中は答弁資料作成担当部局では深夜まで待機が続きます。
質問が自分の省庁に関するものである場合には、その通告を受け取ってから答弁資料の作成にかかります。過去の政府の見解と矛盾してはいけないので、それらを参照しながら、揚げ足をとられないように注意深く書かれます。
筆者も海上自衛官であった頃、制服を脱いで防衛省の内部部局に出向して勤務していたことがありましたが、その時や海上幕僚監部防衛課のスタッフだった時に、この国会待機を経験しています。
防衛省が書くことになる答弁資料は防衛大臣や首相が読むことになるのですが、面倒なのは防衛省が単独で書くことができない場合です。
対米関係が絡む話の場合には外務省、予算が絡む話なら財務省、防衛産業が絡む話だと経産省の合議が必要なのです。
したがって、例えば防衛省が夜10時頃に通告を受け取って1時間で書いたとしても、関係する省庁に合議を取っていると、それらが揃うのが午前2時とかになることは珍しくありません。
特に最初に起案する省庁では、過去の答弁資料などとの矛盾があってはならないので、様々に調査して起案する必要があります。
西村大臣はこの作業が軽減されると考えているのでしょう。
ChatGPTは広くネット上の議論を参照して出来上がりますから、過去の答弁とは矛盾しない内容になるはずです。
しかも答弁資料の文体の癖なども学習しているでしょうから、いかにも役人が書いた文章のように作られるでしょう。
さらに、先に指摘したとおり、一応もっともらしいものではあっても中身のない空虚な文章になるはずです。
これは国会答弁資料としてはとても良いことです。
中身のある文章を書いてしまうと、それが議論の元になりますが、中身のない空虚なものであれば議論にならないからです。
その典型が現首相の答弁や記者会見です。
弊社が専門コラムで度々指摘しているように現首相の言説には中身がありません。何事にも「全力で取り組む」と語り、結局何に全力で取り組むのかが分からず、また、すべてを「検討する」ものの何も行わなかったり、「きどうてきに」行うとしているのが、どう見ても「機動」的ではなく「詭道」的にしか聞こえないのですから、まさにChatGPTに書かせているとしか思えない内容です。
確かに公務員の負担軽減になるでしょう。
国会会期中に全省庁で何人の職員が待機しているのか考えてみると恐ろしい数になります。
筆者が内局にいた頃、防衛省内部部局だけでも100人を超えるスタッフが待機していました。海幕防衛課では、防衛課スタッフは半数近くが待機しており、各課でも数人ずつが専門的な答弁資料作成のために残っていましたから、100人近くが待機していたはずです。陸・空自衛隊も同様でしょうし、統合幕僚監部も何人かが待機しているはずです。
開かれている委員会にもよりますが、予算委員会などの時にはほぼ全省庁で同じことが行われます。
自衛隊の制服組は終電に間に合わなくなるとソファの上や床にマットを敷いて寝袋で寝てしまうのですが、内部部局のスタッフはタクシーで帰宅します。
つまり、国会待機中の省庁では、毎晩何百万円ものタクシー代が消費されていきます。壮大な無駄遣いです。
これは議員の通告を前日とせず、前々日の夜までにしておけば解決する問題です。そうすれば前日の日中に起案と合議が行われ、夕方までに大臣の元に送ることができるからです。
西村大臣はこの答弁資料起案にChatGPTを使えると考えているようです。
確かに答弁資料作成には最適なツールです。過去の答弁なども拾い集めて、それらと矛盾のない資料がたちどころに出来上がり、しかもいろいろ言ってはいても中身のないものができますので、答弁資料としては素晴らしいものとなるでしょう。
ただし、西村大臣は国会を愚弄していることに気付いていません。
国会で質問する国会議員は、大臣や首相に対して政府の方針や担当大臣や首相としての思いを質問しているのであり、コンピュータに訊いているのではありません。もしChatGPTに答弁資料を書かせるということが許されるのであれば、答弁資料作成専門のシンクタンクなどと契約して書かせてもいいということになります。
立憲民主党は国会で首相に質問し、首相の答弁を得たのちにChatGPTが書いた答弁案を披露し、「首相の答弁より誠実でピントが合っているかもしれない」と指摘しましたが、筆者もそう思います。
この件については「AIで野党側の質問ができてしまい、そのうえ、広く国民の声が網羅されている質問ができるのであれば、野党という存在は必要なく、政権だけ選んで、AIがその真偽を行えばよいのではないか」という意見などが出され、立憲民主党は批判の矢面に立たされました。
同党の長妻昭政調会長は「最終的に人の目で確認するのを条件に答弁の素案や土台をつくることは否定しない」と述べて対応していますが、これこそ野党は不要であると自ら証明したようなものです。
筆者は西村大臣の発言は、大臣や首相に向けられた質問をAIに答えさせるなど国会軽視もいいところで許されないと考えますし、それをやってみせた立憲民主党の中谷一馬氏の皮肉は見事だと考えます。その上、野党でありながら答弁資料をAIに作らせることを容認した長妻政調会長の野党首脳たる自覚を疑います。
まぁ、考えてみれば国会における質疑応答などその程度のものかもしれず、議員や大臣がそれに気付いているとすればいいことかもしれないと思っています。
結論として申し上げるなら、少なくとも現在のChatGPTはまともには使い物にはなりません。炎上を覚悟で言うなら「馬鹿」が使う道具です。
しかし、その将来性を見くびってはなりません。将来的には世界史の転換点になる発明でしょう。
私たちはこの将来性豊かな創造物を正しく育てていく必要があります。
凄まじい能力を持つ放蕩息子を正しく世間のお役に立つ人材に育てないととんでもない迷惑をかける悪人になってしまいます。
「待った」は認めてもらえません。早急に倫理を打ち立て、ガイドラインを策定しなければならないでしょう。しかも健全な発育を阻害しない形で行う必要があります。
人類の叡智が試されています。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
専門コラム「指揮官の決断」第341回 弾道ミサイル対処 掲載のお知らせ
4月13日午前8時前、北朝鮮の発射したミサイルが北海道周辺に落下する怖れがあるとのことでJアラートが発動され、列島は騒然とした空気に包まれました。
この事態を受けて、さすがに当コラムでもこの問題を考えなければならず、予定していたコラムを急遽差し替えて掲載することにいたしました。
当コラムは安全保障や軍事は専門外としてあえて触れてきませんでしたが、誤解されている方があまりにも多いので、少しだけ説明をさせて頂きます。
このコラムが安全保障を専門外とするのは、危機管理論を専門としており、安全保障論を専門としているわけではないという理由なのですが、専門としていないということが何を意味するかと言うと、筆者の得ている情報が絶えずアップデートされているわけではないということです。
現在、そのような情報に触ることのできる環境にいるのでもなく、また積極的にそのような情報の収集に当たっているということでもないからです。
続きはこちらでお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/2963
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
メールマガジンのバックナンバーは弊社Facebookページからもお読みいただけます。
Facebookページ 「指揮官の決断/休日」 https://www.facebook.com/aegis.cm
Facebookページでは、当メールマガジンでは見ることのできない写真もご覧頂くこ
とが出来ます。
是非Facebookページをご訪問ください。
Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
https://twitter.com/CaptainHayashi です。
---------------------------------------------------------------------------------------
弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
https://aegis-cms.co.jp/book1
---------------------------------------------------------------------------------------
Facebookページを公開しています。
メールマガジン及び専門コラムのバックナンバーをお読みいただけます。
Facebookページ「指揮官の決断/休日」
https://www.facebook.com/aegis.cm
----------------------------------------------------------------------------------------
教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
----------------------------------------------------------------------------------------
コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
----------------------------------------------------------------------------------------
図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
----------------------------------------------------------------------------------------
バックナンバーを公開しています。
こちらからご覧ください。https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
メールアドレスの変更はこちらからお手続きください。
http://aetis-cms.co.jp/mailmag
メールマガジンがご不要の場合はこちらから解除をして頂くことができます。
http://q.bmd.jp/bm/p/f/s.php?id=aegismm&mail=uhayashi%40jcom.zaq.ne.jp&no=2
----------------------------------------------------------------------------------------
メールマガジン「指揮官の休日」
発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
email: yhayashi@aegis-cms.co.jp
Web : http://aegis-cms.co.jp
----------------------------------------------------------------------------
-------------------------------------------------------------------
指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
-------------------------------------------------------------------
危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第341回 弾道ミサイル対処 を掲載いたしました。
Jアラートで列島は騒然としましたが、弾道ミサイル対応がどのように行われているかを簡単に説明しています。
https://aegis-cms.co.jp/2963
No.333 ChatGPT
巷を賑わせているChat GPTですが、これについて思うところを気ままに綴ります。
このところ、当メールマガジンの本旨を離れて辛口のものが多かったので、今回は本来の無責任などうでもいい記事に戻ります。
興味のない方は専門コラムに跳んでください。イージス艦がどのように弾道ミサイルに対処するのかを簡単に説明しています。
そもそもの話ですが、ChatGPTとは何だろうと考えました。Chat Generative Pre-trained Transformerということですから、事前に訓練を積んだ雑談を生み出すための変成器という意味であり、要するにいろいろと事前に情報を与えられて雑談をする道具ということです。
筆者もこの1か月にわたって、これがどういう能力を持っているのかを検証するためにいろいろと使ってみました。
質問に答えて自然な言葉で文章が返ってきます。
確かに文章を作るにあたっては、どういうロジックが用いられているのか知りませんが、よくできたAIだと思います。日本語は論理的な言語ではないのでコンピュータには難しいかと思いますが、かなり自然な文体で綴ってくれます。
とても素晴らしい潜在能力を持っているものと思います。使い手次第で大変役に立つツールであることは間違いありません。
ただ、使い方を誤ると大変なことになります。
この危険性があるため、イタリア政府はその使用を禁止し、開発元のオープンAIに対して個人情報保護などに関する具体的な対策を1か月以内に策定するように求めているほか、米国ではテスラ社長のイーロン・マスク氏やコンピュータ界のレジェンドであるウォズニアック氏などが連名でコントロールを喪失する怖れがあるとして開発の一時中断を要求しています。
たしかに凄まじい潜在能力を持つAIだけに、何らかの指針無しに開発が進むと想定外の事態を惹起するかもしれません。
想定外の事態がどのような事態なのかは、想定外なので何とも申し上げられないのですが、想定できる事態として大変なことになりそうなものは簡単にいくつも指摘できます。
このAIはネット上に展開されている様々な情報を集積しており、それらを簡単に集大成してしまいますので、テロリストには核兵器や猛毒を持つ化学兵器の作り方などは簡単に教えてくれるでしょうし、学生はいろいろな文献を読まずに労なく論文を書き上げることができます。ひょっとすると学者だってそうやって論文を書くかもしれません。
このAIはネット上の情報を怖ろしく大量に集め、瞬時にそれらを統合して文章を作ります。したがって、作られた文章には広くいろいろな知見が集められています。
これは将来的には凄いものに育っていく潜在的可能性を持っていると思われます。
しかし、現時点では正直なところ使い物にはなりません。
これが役に立つのは、自分で文章を作ることができない人でしょう。
ChatGPTが作る文章は、ネット上を広く拾い歩いて作るので、一見もっともらしいものができるのですが、創造性のあるものにはなりませんし、ちょっと専門性の高いものを書かせると、出鱈目な内容になります。
簡単な組織論のコラムを書かせても話になりません。
ただ、ドラッカーを読んだこともないのにドラッカーと言えば「イノベーション」だと思い込んでいる経営コンサルタントが行うセミナーの原稿程度なら本人よりもまともなものを書けるでしょう。
それほど専門性が強くない内容であれば、一応差しさわりのないものができるのですが、実は中身のない空虚なものになります。
西村経済産業相は記者会見でチャットGPTで国会答弁を作成する可能性に言及しましたが、その理由として公務員の負担削減を挙げていました。
国会における答弁資料作成はおそろしく労力を費やす作業です。
国会で質問に立つ国会議員は、前日にその質問の趣旨を通告しなければなりません。
その通告は各省庁に配られ、担当部門で答弁資料が作成されるのですが、通告が早ければいいのですが、夜遅くなって通告してくる議員もいます。
つまり、自分のところで答弁資料を書かなければならないかどうかすら夜遅くにならないと分からないのです。
したがって、国会の開会中は答弁資料作成担当部局では深夜まで待機が続きます。
質問が自分の省庁に関するものである場合には、その通告を受け取ってから答弁資料の作成にかかります。過去の政府の見解と矛盾してはいけないので、それらを参照しながら、揚げ足をとられないように注意深く書かれます。
筆者も海上自衛官であった頃、制服を脱いで防衛省の内部部局に出向して勤務していたことがありましたが、その時や海上幕僚監部防衛課のスタッフだった時に、この国会待機を経験しています。
防衛省が書くことになる答弁資料は防衛大臣や首相が読むことになるのですが、面倒なのは防衛省が単独で書くことができない場合です。
対米関係が絡む話の場合には外務省、予算が絡む話なら財務省、防衛産業が絡む話だと経産省の合議が必要なのです。
したがって、例えば防衛省が夜10時頃に通告を受け取って1時間で書いたとしても、関係する省庁に合議を取っていると、それらが揃うのが午前2時とかになることは珍しくありません。
特に最初に起案する省庁では、過去の答弁資料などとの矛盾があってはならないので、様々に調査して起案する必要があります。
西村大臣はこの作業が軽減されると考えているのでしょう。
ChatGPTは広くネット上の議論を参照して出来上がりますから、過去の答弁とは矛盾しない内容になるはずです。
しかも答弁資料の文体の癖なども学習しているでしょうから、いかにも役人が書いた文章のように作られるでしょう。
さらに、先に指摘したとおり、一応もっともらしいものではあっても中身のない空虚な文章になるはずです。
これは国会答弁資料としてはとても良いことです。
中身のある文章を書いてしまうと、それが議論の元になりますが、中身のない空虚なものであれば議論にならないからです。
その典型が現首相の答弁や記者会見です。
弊社が専門コラムで度々指摘しているように現首相の言説には中身がありません。何事にも「全力で取り組む」と語り、結局何に全力で取り組むのかが分からず、また、すべてを「検討する」ものの何も行わなかったり、「きどうてきに」行うとしているのが、どう見ても「機動」的ではなく「詭道」的にしか聞こえないのですから、まさにChatGPTに書かせているとしか思えない内容です。
確かに公務員の負担軽減になるでしょう。
国会会期中に全省庁で何人の職員が待機しているのか考えてみると恐ろしい数になります。
筆者が内局にいた頃、防衛省内部部局だけでも100人を超えるスタッフが待機していました。海幕防衛課では、防衛課スタッフは半数近くが待機しており、各課でも数人ずつが専門的な答弁資料作成のために残っていましたから、100人近くが待機していたはずです。陸・空自衛隊も同様でしょうし、統合幕僚監部も何人かが待機しているはずです。
開かれている委員会にもよりますが、予算委員会などの時にはほぼ全省庁で同じことが行われます。
自衛隊の制服組は終電に間に合わなくなるとソファの上や床にマットを敷いて寝袋で寝てしまうのですが、内部部局のスタッフはタクシーで帰宅します。
つまり、国会待機中の省庁では、毎晩何百万円ものタクシー代が消費されていきます。壮大な無駄遣いです。
これは議員の通告を前日とせず、前々日の夜までにしておけば解決する問題です。そうすれば前日の日中に起案と合議が行われ、夕方までに大臣の元に送ることができるからです。
西村大臣はこの答弁資料起案にChatGPTを使えると考えているようです。
確かに答弁資料作成には最適なツールです。過去の答弁なども拾い集めて、それらと矛盾のない資料がたちどころに出来上がり、しかもいろいろ言ってはいても中身のないものができますので、答弁資料としては素晴らしいものとなるでしょう。
ただし、西村大臣は国会を愚弄していることに気付いていません。
国会で質問する国会議員は、大臣や首相に対して政府の方針や担当大臣や首相としての思いを質問しているのであり、コンピュータに訊いているのではありません。もしChatGPTに答弁資料を書かせるということが許されるのであれば、答弁資料作成専門のシンクタンクなどと契約して書かせてもいいということになります。
立憲民主党は国会で首相に質問し、首相の答弁を得たのちにChatGPTが書いた答弁案を披露し、「首相の答弁より誠実でピントが合っているかもしれない」と指摘しましたが、筆者もそう思います。
この件については「AIで野党側の質問ができてしまい、そのうえ、広く国民の声が網羅されている質問ができるのであれば、野党という存在は必要なく、政権だけ選んで、AIがその真偽を行えばよいのではないか」という意見などが出され、立憲民主党は批判の矢面に立たされました。
同党の長妻昭政調会長は「最終的に人の目で確認するのを条件に答弁の素案や土台をつくることは否定しない」と述べて対応していますが、これこそ野党は不要であると自ら証明したようなものです。
筆者は西村大臣の発言は、大臣や首相に向けられた質問をAIに答えさせるなど国会軽視もいいところで許されないと考えますし、それをやってみせた立憲民主党の中谷一馬氏の皮肉は見事だと考えます。その上、野党でありながら答弁資料をAIに作らせることを容認した長妻政調会長の野党首脳たる自覚を疑います。
まぁ、考えてみれば国会における質疑応答などその程度のものかもしれず、議員や大臣がそれに気付いているとすればいいことかもしれないと思っています。
結論として申し上げるなら、少なくとも現在のChatGPTはまともには使い物にはなりません。炎上を覚悟で言うなら「馬鹿」が使う道具です。
しかし、その将来性を見くびってはなりません。将来的には世界史の転換点になる発明でしょう。
私たちはこの将来性豊かな創造物を正しく育てていく必要があります。
凄まじい能力を持つ放蕩息子を正しく世間のお役に立つ人材に育てないととんでもない迷惑をかける悪人になってしまいます。
「待った」は認めてもらえません。早急に倫理を打ち立て、ガイドラインを策定しなければならないでしょう。しかも健全な発育を阻害しない形で行う必要があります。
人類の叡智が試されています。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
専門コラム「指揮官の決断」第341回 弾道ミサイル対処 掲載のお知らせ
4月13日午前8時前、北朝鮮の発射したミサイルが北海道周辺に落下する怖れがあるとのことでJアラートが発動され、列島は騒然とした空気に包まれました。
この事態を受けて、さすがに当コラムでもこの問題を考えなければならず、予定していたコラムを急遽差し替えて掲載することにいたしました。
当コラムは安全保障や軍事は専門外としてあえて触れてきませんでしたが、誤解されている方があまりにも多いので、少しだけ説明をさせて頂きます。
このコラムが安全保障を専門外とするのは、危機管理論を専門としており、安全保障論を専門としているわけではないという理由なのですが、専門としていないということが何を意味するかと言うと、筆者の得ている情報が絶えずアップデートされているわけではないということです。
現在、そのような情報に触ることのできる環境にいるのでもなく、また積極的にそのような情報の収集に当たっているということでもないからです。
続きはこちらでお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/2963
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
メールマガジンのバックナンバーは弊社Facebookページからもお読みいただけます。
Facebookページ 「指揮官の決断/休日」 https://www.facebook.com/aegis.cm
Facebookページでは、当メールマガジンでは見ることのできない写真もご覧頂くこ
とが出来ます。
是非Facebookページをご訪問ください。
Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
https://twitter.com/CaptainHayashi です。
---------------------------------------------------------------------------------------
弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
https://aegis-cms.co.jp/book1
---------------------------------------------------------------------------------------
Facebookページを公開しています。
メールマガジン及び専門コラムのバックナンバーをお読みいただけます。
Facebookページ「指揮官の決断/休日」
https://www.facebook.com/aegis.cm
----------------------------------------------------------------------------------------
教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
----------------------------------------------------------------------------------------
コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
----------------------------------------------------------------------------------------
図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
----------------------------------------------------------------------------------------
バックナンバーを公開しています。
こちらからご覧ください。https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
メールアドレスの変更はこちらからお手続きください。
http://aetis-cms.co.jp/mailmag
メールマガジンがご不要の場合はこちらから解除をして頂くことができます。
http://q.bmd.jp/bm/p/f/s.php?id=aegismm&mail=uhayashi%40jcom.zaq.ne.jp&no=2
----------------------------------------------------------------------------------------
メールマガジン「指揮官の休日」
発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
email: yhayashi@aegis-cms.co.jp
Web : http://aegis-cms.co.jp
----------------------------------------------------------------------------