指揮官の休日 No.276 昔懐かしい感覚
2022/03/11 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第284回 危機管理論が真価を問われるとき を掲載いたしました。
世界はプーチン大統領が核兵器の使用を決断するかどうかを固唾をのんで見守っています。
危機管理論はこのような事態を回避するために始まったものでした。その危機管理論が真価を問われようとしています。
詳しくはこちらをお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/2645
No.275 昔懐かしい感覚
先日、珍しい久しぶりの経験をしました。
「船酔い」です。
学生時代、外洋レース艇の奴隷クルーとしてヨット乗りの修行をしていた頃、船酔いは日常茶飯事でした。
私は特に船に強い体質ではないらしく、レースに乗るたびに船酔いをしていました。激しく吐き、胃液まで吐くというようなところまでの船酔いも何度か経験しています。
ヨットの外洋レースというのは、端で見ているほど優雅なものではありません。
特に学生クルーなどは奴隷ですから悲惨なものです。
まず、日本近海は穏やかな海であることが少なく、特に外洋レースの全日本などが行われるのは10月から11月くらいにかけての時期で、洋上はそれなりに寒く、また風には恵まれますが、下手をすると低気圧の串団子のような海を走らされるので、揺れ方もすさまじいものになります。
そのような海に出て、学生クルーはセールの交換やウインチを巻いたりしなければなりませんし、私が乗り組んでいたヨットでは食事を作るのも私の役目でした。
ヨットは帆走中は基本的に傾いています。そして波によって傾いたまま大きく揺さぶられるのです。
大時化の艇内で、ジンバルと呼ばれる装置に載せられた小さなコンロを使って料理をするのですが、まな板などをおくスペースのないギャレーで肉を切ったり野菜を刻んだりしなければなりません。このジンバルとは、小さなブランコのようなもので、その上にコンロを載せておくと常に鉛直方向にぶら下がるので、傾いた船の中でも鍋の中身がこぼれないということになってはいますが、傾きには何とかなっても揺れにはどうしようもないので、極めて危険な作業でもあります。
キャビンの中ではそもそもエンジンからオイルの匂いがするし、ビルジからは何の匂いか分からない異様な匂いがしていて、揺れている時に入るとすぐ様船酔いをしてしまいます。
しかし学生クルーはセール交換の指示が出されるとキャビンに入って必要なセールを倉庫から取り出し、交換が終わって降ろされたセールを格納しなければなりません。
そのうえでやらねばならないのが、自分が船酔いをしていてろくに食欲もないのに作らねばならない料理です。
悪戦苦闘して調理を終えると、食べる気力もなくバースに倒れこんでしまいたくなります。
ところがこのバース(寝台)もセールチェンジや波の打ち込みによってビショ濡れになっているのが普通です。
長丁場のレース中には交代で仮眠を取りますが、時化のレースでは仮眠を取るのも簡単ではありません。
バースマットも何もかもビショ濡れです。そもそもストームギアというかなり頑丈な防水のウェアを着ているのですが、波しぶきや雨を浴びていると首筋などから侵入してくる海水などで体中もビショビショになってしまっています。
キャビンに入ると、ブーツを脱いで中に溜まった海水を捨てるだけで、ストームギアは脱ぎません。いつ「オールハンズ・オン・デッキ」が令されるか分からないからですし、脱いで着替えてもすぐビショ濡れになるからです。
そのままキャビンに放り込まれているこれもビショビショのセールを拾い上げてバースマットに引っ張り上げてくるまって奥歯がガタガタするような寒さの中、丸くなって少しずつ体が温まってくるのを待ちながら眠る努力をするのですが、どうしても寒さが去っていかないときには、キャビン内に転がっているウィスキーの瓶を見つけ出して、そのままストレートで流し込み、喉を焼くアルコールで体を温めることになります。
本当はアルコールで毛穴が開くので却って体温を失うのですが、そんなことを言ってはいられないのです。
学生時代の外洋レースの奴隷クルーの生活とはそんなものでした。
なので、船酔いは日常茶飯事でした。
大学を終えて海上自衛隊に入隊して幹部候補生として半年ほどたった10月、初めての護衛艦の乗艦実習がありました。
広島県呉の基地から豊後水道を抜けて四国沖へ出て、横須賀までの航海実習でした。
私は自分が船に強い方ではないのを知っていましたから、この実習が憂鬱でした。
実習が始まる当日、江田島から小さな舟艇に乗せられた私たちは呉に入港中の護衛艦に連れていかれました。
艦内の説明を受け、当直実習をする班が編成され、出港作業を様々な場所で見学をして、戦前に連合艦隊の泊地であった柱島付近まで来た頃に夕食があり、その後午後8時から艦橋と機関室に分けて当直勤務が始まりました。
その日は雨の降る肌寒い日で、風が少し吹いていました。
私は艦橋の当直士官実習のファーストバッターとして当直につきました。
もう真っ暗な海でしたが、ヨットでの夜航海は慣れており、あらかじめどこにどのような灯台があるかは調べて手帳に書き込んできていましたから、次々に前方に現れてくる灯台もどの灯台かは分かりましたので、現在位置を海図上で見つけるのもそれほどの苦労ではありませんでした。
この当直実習は候補生が連帯責任を負うことになっていました。つまり、次直が上がってきて交代するまで当直を下りることができないのです。
2時間ごとに交代することになっていたのですが、2時間たっても次直が来てくれず、そのまま当直士官勤務を続けていました。
そして、その次の2時間も誰も現れず、さらに次の2時間も交代してもらえず、ついに翌朝の朝6時近くになってしまいました。
そのころ、艦長が艦橋に上がってきて、私の顔を見るなり、「オッ、林候補生、また当直か?」と声をかけてくれました。
「またではなく、まだ当直です。」と答えると事情を察した艦長はニヤッとして、「もういいから降りて朝飯でも食ってこい。」と言ってくれました。
つまり、私以外の候補生は初めての乗艦実習で船酔いになり、交代に上がってこれなかったのです。私の当直時に豊後水道の半ばくらいまで進んだのですが、次直が極端に船に弱い奴だったので上がってこれず、その次の候補生の頃には太平洋に出ていたのでいよいよ揺れが激しく、それほど弱い奴でなくとも船酔いにやられたようです。
ある候補生の同期が艦長になった時、一緒に飲みに行き、「豊後水道を出る前に船酔いでダウンしたお前が艦長かぁ。乗員には黙っててやるから、この席はお前が払え。」とからかってやったことがありました。
船酔いというのは怖ろしいもので、要はメンタルなものだと思っています。
その証拠に、この実習以後、私は海上自衛隊の船で船酔いを経験していません。
弱いと思っていた自分がただ一人残ったことに自信を持ってしまったようです。
かなりの時化も経験しましたが、むしろ大きな揺れを楽しむ余裕すらありました。
船酔いがメンタルなものであるというのは経験的にも言われています。どれだけ酷い船酔いになっていても岸壁についたらほとんどの人は元に戻りますし、陸が見えたという声を聞いただけで治る人もいるくらいです。
私は結局海上自衛隊に在職中、船酔いになったことがありません。これはとてもありがたいことでした。私は船酔いのつらさを熟知していましたから、その船酔いに苦しみながら艦上で勤務を続けるというのは大変なことであることも理解しています。それを経験しなくて済んだのはありがたいことです。
ところが最近のことです。昨年手に入れたヨットになかなか乗ることができないでいたのが、やっと休日を見つけて、港外に出港させることができました。
一人で出したので、もやいを放す作業、防舷材を取り込む作業などを一人でやらねばならず、久しぶりだったので戸惑うこともあったりしました。やっとハーバーから出て、東京湾内を走り始めたのですが、風も強くなく、そう波があるわけでもない海だったのに、何か変な感覚にとらわれ始めました。
最初は船の舵効きに慣れていないせいだろうと思っていたのですが、実はそうではありませんでした。それが船酔いになりかけていたからだということに帰港の準備を始めた時に分かったのです。
入港前には防舷材やもやい綱の準備などをしなければなりません。この時は機走だけでセールは上げていなかったのでセールをたたむ必要はなかったのですが、それでも準備をしなければならないことはいろいろあります。
これらの作業は本来は波の向きを確認してオートパイロットを使って自動操舵で走らせながら行えばいいのですが、この時は行合船が多く、自動操舵で走らせながらの作業は衝突の危険があると考え、エンジンを停止して行うことにしました。
洋上で停止しているヨットほど始末の悪い乗り物はありません。復元力を確保するために船底に重りをぶら下げているので、エンジンを止めた瞬間にすごい揺れが始まるのです。
横浜沖で止まってグラグラしているヨットの上で、前へ行ったり後ろへ行ったり、あるいはキャビンの中に入ったりして入港準備作業をしている間にだんだん気分が悪くなってきました。
久しぶりの船酔いの感覚を味わいながら、いかにも海に戻ってきたなぁ、という感慨とともに、これしきのことで船酔いになるというのはいかに潮気を失ったかということでもあるよね、と悲喜こもごもの一日でした。
今年の課題は、いかにその潮気を取り戻すかになりそうです。
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専門コラム「指揮官の決断」第284回 危機管理論が真価を問われるとき 掲載のご案内
当コラムではかねがねリスクマネジメントとクライシスマネジメントは別物であると主張してきました。
クライシスマネジメントは、今まさに世界が直面しようとしている事態を避けることを目的として議論が始まったものでした。
第2次世界大戦が終結した後、世界は平和な時代を迎えたのではなく、東西冷戦が始り、世界は第三次世界大戦とそこで使用されるであろう核兵器の脅威に怯えることになりました。
この事態をなんとかして避けようとして研究が始ったのが危機管理論であり、それはクライシスマネジメント(Crisis Manegemennt)の和訳でした。
ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は核兵器の使用をちらつかせています。
もしこれが使われるとすれば、最悪のシナリオどころではなく、それは世界の終末を到来させかねない悪夢のシナリオになるはずです。
詳しくはこちらをお読みください。
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Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
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弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
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No.275 昔懐かしい感覚
先日、珍しい久しぶりの経験をしました。
「船酔い」です。
学生時代、外洋レース艇の奴隷クルーとしてヨット乗りの修行をしていた頃、船酔いは日常茶飯事でした。
私は特に船に強い体質ではないらしく、レースに乗るたびに船酔いをしていました。激しく吐き、胃液まで吐くというようなところまでの船酔いも何度か経験しています。
ヨットの外洋レースというのは、端で見ているほど優雅なものではありません。
特に学生クルーなどは奴隷ですから悲惨なものです。
まず、日本近海は穏やかな海であることが少なく、特に外洋レースの全日本などが行われるのは10月から11月くらいにかけての時期で、洋上はそれなりに寒く、また風には恵まれますが、下手をすると低気圧の串団子のような海を走らされるので、揺れ方もすさまじいものになります。
そのような海に出て、学生クルーはセールの交換やウインチを巻いたりしなければなりませんし、私が乗り組んでいたヨットでは食事を作るのも私の役目でした。
ヨットは帆走中は基本的に傾いています。そして波によって傾いたまま大きく揺さぶられるのです。
大時化の艇内で、ジンバルと呼ばれる装置に載せられた小さなコンロを使って料理をするのですが、まな板などをおくスペースのないギャレーで肉を切ったり野菜を刻んだりしなければなりません。このジンバルとは、小さなブランコのようなもので、その上にコンロを載せておくと常に鉛直方向にぶら下がるので、傾いた船の中でも鍋の中身がこぼれないということになってはいますが、傾きには何とかなっても揺れにはどうしようもないので、極めて危険な作業でもあります。
キャビンの中ではそもそもエンジンからオイルの匂いがするし、ビルジからは何の匂いか分からない異様な匂いがしていて、揺れている時に入るとすぐ様船酔いをしてしまいます。
しかし学生クルーはセール交換の指示が出されるとキャビンに入って必要なセールを倉庫から取り出し、交換が終わって降ろされたセールを格納しなければなりません。
そのうえでやらねばならないのが、自分が船酔いをしていてろくに食欲もないのに作らねばならない料理です。
悪戦苦闘して調理を終えると、食べる気力もなくバースに倒れこんでしまいたくなります。
ところがこのバース(寝台)もセールチェンジや波の打ち込みによってビショ濡れになっているのが普通です。
長丁場のレース中には交代で仮眠を取りますが、時化のレースでは仮眠を取るのも簡単ではありません。
バースマットも何もかもビショ濡れです。そもそもストームギアというかなり頑丈な防水のウェアを着ているのですが、波しぶきや雨を浴びていると首筋などから侵入してくる海水などで体中もビショビショになってしまっています。
キャビンに入ると、ブーツを脱いで中に溜まった海水を捨てるだけで、ストームギアは脱ぎません。いつ「オールハンズ・オン・デッキ」が令されるか分からないからですし、脱いで着替えてもすぐビショ濡れになるからです。
そのままキャビンに放り込まれているこれもビショビショのセールを拾い上げてバースマットに引っ張り上げてくるまって奥歯がガタガタするような寒さの中、丸くなって少しずつ体が温まってくるのを待ちながら眠る努力をするのですが、どうしても寒さが去っていかないときには、キャビン内に転がっているウィスキーの瓶を見つけ出して、そのままストレートで流し込み、喉を焼くアルコールで体を温めることになります。
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なので、船酔いは日常茶飯事でした。
大学を終えて海上自衛隊に入隊して幹部候補生として半年ほどたった10月、初めての護衛艦の乗艦実習がありました。
広島県呉の基地から豊後水道を抜けて四国沖へ出て、横須賀までの航海実習でした。
私は自分が船に強い方ではないのを知っていましたから、この実習が憂鬱でした。
実習が始まる当日、江田島から小さな舟艇に乗せられた私たちは呉に入港中の護衛艦に連れていかれました。
艦内の説明を受け、当直実習をする班が編成され、出港作業を様々な場所で見学をして、戦前に連合艦隊の泊地であった柱島付近まで来た頃に夕食があり、その後午後8時から艦橋と機関室に分けて当直勤務が始まりました。
その日は雨の降る肌寒い日で、風が少し吹いていました。
私は艦橋の当直士官実習のファーストバッターとして当直につきました。
もう真っ暗な海でしたが、ヨットでの夜航海は慣れており、あらかじめどこにどのような灯台があるかは調べて手帳に書き込んできていましたから、次々に前方に現れてくる灯台もどの灯台かは分かりましたので、現在位置を海図上で見つけるのもそれほどの苦労ではありませんでした。
この当直実習は候補生が連帯責任を負うことになっていました。つまり、次直が上がってきて交代するまで当直を下りることができないのです。
2時間ごとに交代することになっていたのですが、2時間たっても次直が来てくれず、そのまま当直士官勤務を続けていました。
そして、その次の2時間も誰も現れず、さらに次の2時間も交代してもらえず、ついに翌朝の朝6時近くになってしまいました。
そのころ、艦長が艦橋に上がってきて、私の顔を見るなり、「オッ、林候補生、また当直か?」と声をかけてくれました。
「またではなく、まだ当直です。」と答えると事情を察した艦長はニヤッとして、「もういいから降りて朝飯でも食ってこい。」と言ってくれました。
つまり、私以外の候補生は初めての乗艦実習で船酔いになり、交代に上がってこれなかったのです。私の当直時に豊後水道の半ばくらいまで進んだのですが、次直が極端に船に弱い奴だったので上がってこれず、その次の候補生の頃には太平洋に出ていたのでいよいよ揺れが激しく、それほど弱い奴でなくとも船酔いにやられたようです。
ある候補生の同期が艦長になった時、一緒に飲みに行き、「豊後水道を出る前に船酔いでダウンしたお前が艦長かぁ。乗員には黙っててやるから、この席はお前が払え。」とからかってやったことがありました。
船酔いというのは怖ろしいもので、要はメンタルなものだと思っています。
その証拠に、この実習以後、私は海上自衛隊の船で船酔いを経験していません。
弱いと思っていた自分がただ一人残ったことに自信を持ってしまったようです。
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船酔いがメンタルなものであるというのは経験的にも言われています。どれだけ酷い船酔いになっていても岸壁についたらほとんどの人は元に戻りますし、陸が見えたという声を聞いただけで治る人もいるくらいです。
私は結局海上自衛隊に在職中、船酔いになったことがありません。これはとてもありがたいことでした。私は船酔いのつらさを熟知していましたから、その船酔いに苦しみながら艦上で勤務を続けるというのは大変なことであることも理解しています。それを経験しなくて済んだのはありがたいことです。
ところが最近のことです。昨年手に入れたヨットになかなか乗ることができないでいたのが、やっと休日を見つけて、港外に出港させることができました。
一人で出したので、もやいを放す作業、防舷材を取り込む作業などを一人でやらねばならず、久しぶりだったので戸惑うこともあったりしました。やっとハーバーから出て、東京湾内を走り始めたのですが、風も強くなく、そう波があるわけでもない海だったのに、何か変な感覚にとらわれ始めました。
最初は船の舵効きに慣れていないせいだろうと思っていたのですが、実はそうではありませんでした。それが船酔いになりかけていたからだということに帰港の準備を始めた時に分かったのです。
入港前には防舷材やもやい綱の準備などをしなければなりません。この時は機走だけでセールは上げていなかったのでセールをたたむ必要はなかったのですが、それでも準備をしなければならないことはいろいろあります。
これらの作業は本来は波の向きを確認してオートパイロットを使って自動操舵で走らせながら行えばいいのですが、この時は行合船が多く、自動操舵で走らせながらの作業は衝突の危険があると考え、エンジンを停止して行うことにしました。
洋上で停止しているヨットほど始末の悪い乗り物はありません。復元力を確保するために船底に重りをぶら下げているので、エンジンを止めた瞬間にすごい揺れが始まるのです。
横浜沖で止まってグラグラしているヨットの上で、前へ行ったり後ろへ行ったり、あるいはキャビンの中に入ったりして入港準備作業をしている間にだんだん気分が悪くなってきました。
久しぶりの船酔いの感覚を味わいながら、いかにも海に戻ってきたなぁ、という感慨とともに、これしきのことで船酔いになるというのはいかに潮気を失ったかということでもあるよね、と悲喜こもごもの一日でした。
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