指揮官の休日 No.223 ウジェーヌ・ブーダンの風景
2021/03/05 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第231回 コロナ禍を危機にした人々:専門家たちの果たした役割・・・ を掲載いたしました。
コロナ禍において専門家たちがどのような役割を果たしたのかを検証したいと思います。
詳しくはこちらをご覧ください。
https://aegis-cms.co.jp/2301
No.223 ウジェーヌ・ブーダンの風景
若い頃に海上自衛隊の連絡官として米国のペンシルバニア州にある海軍基地で勤務していたことがありました。3歳の息子を伴って家族で基地内の官舎に住んでいました。
その基地にいた日本人は私たちだけでしたが、近くにカーライルという街があり、そこには陸上自衛官が一家族住んでいました。米陸軍大学校があり、陸上自衛隊の1等陸佐が留学して来ていたのです。
その陸上自衛官とは家族ぐるみの付き合いで、時々お互いを訪ねて食事などを一緒にしていました。私は1等海尉から3等海佐になるところで、要するに向こうは陸軍大佐、私は海軍大尉なので、向こうが遥か先輩で、いろいろと話を聞くのが勉強になりました。米陸大への留学生は将来の陸上自衛隊を背負うエリートですから、陸上自衛隊の考え方を学ぶいい機会でした。
その陸上自衛官の紹介で、カーライル在住の日本人の女性を紹介されました。米国人と結婚され、その地で暮らしていらっしゃる方で、元は声楽家だったということでした。ご主人はバーニー・ウイリアムソンさんという私がこういう老後を送りたいと思わせる人物お二人のうちの一人で、かつてこのメールマガジンでもご紹介したことのある方です。(メールマガジン「指揮官の休日」 No.095 カッコいい男たち https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all&m=122 )
プリンストン大学在学中に海軍に入隊し、ヨーロッパ戦線で戦い、ノルマンディ上陸作戦にも参加され、海軍中尉で退役されたそうです。海軍に籍を置いたことを誇りとしておられました。
カーライルの街には代々陸上自衛官が留学生として派遣されていたのですが、海上自衛官の私が現れたことを大変喜ばれて、いろいろな話をしてくださいました。
お宅にお邪魔すると、広いリビングルームの片隅に書見台を置いて、立って本を読んでいるような方で、ある時、とても分厚い本を読んでおられたので、何を読んでいるのかを尋ねたところ、ヨーロッパ近代の政治史に関する本だそうで、ビスマルクの政治のところを読んでいたということでした。余暇に珈琲を飲みながら読む本がそれですからね。私なんぞと比べると教養の幅と深さの桁が二つくらい違います。
ある時、ヨーロッパの海を知っているかと尋ねられ、任官してすぐに遠洋航海に行き、地球を一周してきたことがあり、その折にヨーロッパにも寄ったというと、フランスはどこに行ったかと訊かれました。私たちは地中海に入ってからフランスのツーロンに寄港していました。
バーニーさんはダンケルク撤退作戦は入隊前だったけれどノルマンディ上陸作戦には参加したので、戦後その地を訪れ、その折、ダンケルクにも足を伸ばしたと言って、ダンケルクとノルマンディの海の色の違いを語ってくれました。
彼によると、ダンケルクの海は本当に青いのだそうです。セルリアンブルーではなく、コバルトブルーなんだそうです。
一方のノルマンディの海については、彼は言葉を探して、セルリアンブルーよりも灰色がかったブルーで、それを何とか説明しようとしていました。そのうちにふと私を見つめて、「ウジェーヌ・ブーダンの絵を見たことがありますか?」と訊いてきました。
ウジェーヌ・ブーダンはフランスの印象派の画家です。印象派というと日本ではモネやルノアールが有名ですが、モネの先輩に当たり、モネに絵を教えたこともあるとのことです。
なんと、偶然ですが私はその画家を知っていたのです。
学生時代に銀座を歩いていて、どうしてそこへ行ったのか覚えていないのですが、あるギャラリーでウジェーヌ・ブーダンという画家の個展が開かれていたのを見つけ、たまたまそれが海の景色だったので何気なく入り、一通り見て、そこで売られていたパンフレットを買って帰ったことがありました。
音楽が好きでコンサートには時々行きましたが、美術館巡りをするような高尚な趣味を持ち合わせていたわけではないのですが、これが本当に偶然ウジェーヌ・ブーダンだったのです。私が一冊だけ持っている画廊のパンフレットだったので、何回も見直し、そこに書かれている略歴などは何度も読んでいました。
そこで、本当に偶然に知っていただけなのですが、「フランスの印象派の画家ですよね。」と答えると、「こいつは芸術分野の話も通じる奴か」と思われたらしく、バーニーさんはニッコリと頷くと、「そう、そのウジェーヌ・ブーダンの海の色なんだよ。」とおっしゃったのです。
たしかに、ウジェーヌ・ブーダンはコバルトブルーのような鮮やかな青ではなく、灰色がかった海の色を描くことが多いかと思います。
私たちは遠洋航海の途上、フランスのツーロンに入港し、パリにも行きましたが、折悪しくルーブル美術館が改装工事中で入館できなかったので、フランスでウジェーヌ・ブーダンの絵を見ることはできませんでした。
この時に久しぶりにウジェーヌ・ブーダンという名前を思い出しました。
この頃、私は月に一度、ワシントンへ会議のために出張していました。
ペンシルバニアの真ん中からワシントンへ車で行くと結構時間がかかります。
そこである時から私は家族連れでワシントンへ行くことにしました。息子はまだ小さくて、日中は基地内のチャイルドケアセンターで他の子供たちと過ごしていたのですが、その日は連れて行くことにしたのです。
会議が開かれるのは金曜日ですので、そのままワシントンD.C.のホテルに泊まり、アレクサンドリアのお気に入りのシーフードのレストランに行ったり、クリスマスの飾りつけを楽しんだりして、翌日ゆっくり帰ってくることもありました。
会議そのものは1時間程度で終わりますので、その間、会議が行われるオフィスの秘書のところで待っていてもらい、会議が終わるとそのままナショナル・モールに出かけ、スミソニアンの博物館や美術館を見学に行くのです。
私のお気に入りは航空宇宙博物館でしたが、息子のお気に入りはダイオウイカの標本が入り口に展示されている自然史博物館のようでした。
バーニーさんとノルマンディの海の色の話をした後、ある時、いつもの博物館ではなく美術館に足を伸ばしたことがありました。そこでウジェーヌ・ブーダンの絵に久しぶりに出くわしたのです。たしかにコバルトブルーとは言えない、セルリアンブルーとも言えない色の海が描かれていましたが、灰色がかったというほどでもありません。
そこで思い出したのが、ウジェーヌ・ブーダンの描く海は北フランスの海岸が多いことです。彼自身が長年住んだのがル・アーブルであり、ノルマンディと同じく北フランスの海辺の町です。
ウジェーヌ・ブーダンが描くそのノルマンディの海が灰色だというのは、多分、上陸作戦の激戦を戦ったバーニーさんの心象風景にあるノルマンディー海岸の海の色なのではないでしょうか。
上陸作戦の支援を行う海軍の艦艇に乗り、海岸線で友軍が激闘を繰り広げ、苦戦をしているのを沖から歯噛みしながら見ていたはずです。その心象風景でその地獄の海岸は明るいブルーであったはずはありません。ウジェーヌ・ブーダンが描くよりも濃い灰色だったのだと思います。
彼は戦後、ノルマンディーで行われる上陸作戦の記念行事に何度も参加したそうです。
私がカリフォルニアの米国法人のCEOとして着任した翌年、私たち夫婦は四半世紀ぶりにペンシルバニアを訪問し、バーニーさんのお宅にも伺いました。バーニーさんは亡くなっていましたが、ご自宅で奥様に看取られながら亡くなる直前、奥様にCDでNavy Hymn(海軍讃美歌)をかけてくれるように頼んで、それを聴きながら旅立ったということでした。最後まで海軍軍人であったことを誇りとされた方でした。
このNavy Hymn(讃美歌)は米海軍の公式行事に参加するとよく歌われています。Eternal Father, Strong to Saveというタイトルの荘厳な曲です。
Youtubeでお聴きになれます。
https://www.youtube.com/watch?v=2dlXmuYuAYc
なお、このYoutube動画の画面はかなり刺激的ですので、ご視聴にはご注意ください。
私などはいろいろな光景を思い出してしまう映像です。音楽は動画の途中から始まります。演奏は米海軍軍楽隊です。
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つまり、論理的一貫性があるか事実によって検証されているかというチェックです。
筆者は感染症を専門的に学んだことはありません。したがって、この1年間のコロナ騒ぎも感染症学の観点からではなく、危機管理の観点から眺めてきました。
それも感染症に関する基礎知識を持たないので、単に統計学的なデータから読み解ける事実からのみ眺めていました。
そこで、昨年の2月に横浜に入港したゴールデンプリンセス号に始まるこの国でのコロナウイルス騒動がここまで長引き、経済的にも人心にも大きな被害をもたらせた原因は何だったのかを総括してみたいと思います。
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是非Facebookページをご訪問ください。
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ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
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2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
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若い頃に海上自衛隊の連絡官として米国のペンシルバニア州にある海軍基地で勤務していたことがありました。3歳の息子を伴って家族で基地内の官舎に住んでいました。
その基地にいた日本人は私たちだけでしたが、近くにカーライルという街があり、そこには陸上自衛官が一家族住んでいました。米陸軍大学校があり、陸上自衛隊の1等陸佐が留学して来ていたのです。
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バーニーさんはダンケルク撤退作戦は入隊前だったけれどノルマンディ上陸作戦には参加したので、戦後その地を訪れ、その折、ダンケルクにも足を伸ばしたと言って、ダンケルクとノルマンディの海の色の違いを語ってくれました。
彼によると、ダンケルクの海は本当に青いのだそうです。セルリアンブルーではなく、コバルトブルーなんだそうです。
一方のノルマンディの海については、彼は言葉を探して、セルリアンブルーよりも灰色がかったブルーで、それを何とか説明しようとしていました。そのうちにふと私を見つめて、「ウジェーヌ・ブーダンの絵を見たことがありますか?」と訊いてきました。
ウジェーヌ・ブーダンはフランスの印象派の画家です。印象派というと日本ではモネやルノアールが有名ですが、モネの先輩に当たり、モネに絵を教えたこともあるとのことです。
なんと、偶然ですが私はその画家を知っていたのです。
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会議が開かれるのは金曜日ですので、そのままワシントンD.C.のホテルに泊まり、アレクサンドリアのお気に入りのシーフードのレストランに行ったり、クリスマスの飾りつけを楽しんだりして、翌日ゆっくり帰ってくることもありました。
会議そのものは1時間程度で終わりますので、その間、会議が行われるオフィスの秘書のところで待っていてもらい、会議が終わるとそのままナショナル・モールに出かけ、スミソニアンの博物館や美術館を見学に行くのです。
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バーニーさんとノルマンディの海の色の話をした後、ある時、いつもの博物館ではなく美術館に足を伸ばしたことがありました。そこでウジェーヌ・ブーダンの絵に久しぶりに出くわしたのです。たしかにコバルトブルーとは言えない、セルリアンブルーとも言えない色の海が描かれていましたが、灰色がかったというほどでもありません。
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ウジェーヌ・ブーダンが描くそのノルマンディの海が灰色だというのは、多分、上陸作戦の激戦を戦ったバーニーさんの心象風景にあるノルマンディー海岸の海の色なのではないでしょうか。
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