指揮官の休日 No.213 KGBと飲んだよ
2020/12/25 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
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専門コラム「指揮官の決断」は、第221回 第3波襲来? トップとしての覚悟のない者の危機管理は・・・ を掲載いたしました。
弊社では危機管理に臨む指揮官の覚悟についてあらゆる機会においてお伝えしています。
その覚悟のない者がトップになるとどうなるか・・・
https://aegis-cms.co.jp/2235
No.213 KGBと飲んだよ
KGBというのは1954年からソビエト崩壊まで存在したソ連の情報機関かつ秘密警察組織でした。正式名称はソ連国家保安委員会であり、その職員は軍人としての地位が与えられていました。
私はその職員と酒を飲んだことがあります。
だからと言って買収されて秘密を漏らしていたのではありません。
1996年の夏、私は佐世保を母港とする海上自衛隊の第2護衛隊群司令部の幕僚として勤務していました。2年間で17日しか休みのなかった凄まじい勤務でした。
この年の夏、私は第2護衛隊群旗艦「くらま」に乗ってロシアのウラジオストクへ行きました。第2護衛隊群がロシア海軍300周年行事に参加するよう命じられたからです。
ゾッとするほどの準備作業を重ね、やっと出航し、翌日の夕方にはウラジオストク港外に到着し、投錨して最後の準備を整えました。
そして翌日、登舷礼式を行いながら入港し、先に入港していた米海軍第7艦隊旗艦ブルーリッジの隣に係留しました。しばらくすると韓国の小さな駆逐艦も2隻入港し、その隣には中国海軍の巡洋艦ハルピンも入ってきました。そして最後にホストを勤めるロシア海軍太平洋艦隊旗艦アドミラル・パンテレーエフが入港し、役者が全部揃いました。
入港して一通りの歓迎行事が行われ、アドミラル・パンテーレーエフに各国海軍部隊の監理担当者が集められ、入港中の様々な調整が行われました。私は当時司令部監理幕僚という配置にあったのでこのミーティングに参加していましたが、毎朝それぞれの軍艦旗を掲揚する順番や艦上レセプションの日取りなどが決められていきました。
その会合が終わって船に戻り、司令部事務室で仕事をしていたところ、舷門から「面会の方が来ています。」と呼ばれました。
誰だろうと思って舷門へ出ていくと、背の高い男女のカップルが舷門で私を待っていました。
二人ともかなり濃いサングラスをかけていますが、男性はそのまま映画俳優にでもなれそうな「イケメン」ですし、女性のほうも栗毛の美女であることは一目でわかりました。
私が名乗ると、舷門には「くらま」の副直士官や舷門の当直員がいるので、ちょっと離れて話をしたいというそぶりだったので、広い飛行甲板の真ん中に連れて行きました。
そこで彼らは「自分たちはKGBの職員だ。」と名乗ったのです。
私はソ連崩壊とともにKGBという組織は無くなったと思っていたのですが、目の前の二人がそう名乗り、証明書を見せたのです。
「そのKGBが何の用だ?」と訊くと、男性の方が「この船にスパイが7人乗っているということだが本当か?」と聞いてきました。
私はそれが司令部に臨時勤務を発令されて出航前に乗ってきた海幕の情報関係者の7人であることがすぐに分かりました。
しかし、一応誰のことなのかを確認しなければならないので、「スパイというのは乗っていないが何の話だ?」と尋ねると、「日本の新聞にそう書いてある。」との答えです。
彼らが帰ってから分かったのですが、日本の新聞が私たちの出航を伝え、その記事に「スパイが7人乗っている。」と書いていたのです。この記事が報道されていることを海幕が司令部にすぐ知らせてくれていたのですが、その情報が情報幕僚あてで、私には回覧だったので、私の未決ボックスに放り込まれており、出航以来最後の準備に忙殺されていた私が見ていなかったものでした。
私はその場で対応を余儀なくされたので、「スパイは連れてきていない。ただ、ご承知のとおり海上自衛隊ではロシア語を理解する士官は極めてわずかで、そのほとんどは情報関係の職域にいる。今回、通訳できる者が大勢必要だったので海幕にリクエストしてロシア語の通訳できる者を司令部に臨時勤務に発令してもらったら、情報関係の幹部ばかりが来た。私は彼らを通訳として勤務させている。」と答えました。
すると彼は「彼らは情報関係の仕事はしないのか?」と訊いてきました。そこで「馬鹿言え。情報を専門とする海軍士官として他国の軍港に入港したら、それなりの調査をするのは当然だろう。彼らがどんな任務を与えられているのかは承知していないが、何か問題があるか?」と言うと、美人のお姐さんのほうが「もちろんそれは当然ですよ。率直にお答えいただいて助かりました。」とニコニコし、二人で仲良く帰っていきました。
司令部事務室に戻って未決のボックスを見ると確かにその新聞の切り抜きが送られてきていました。
記事は共同通信が配信したもので、私たちの出航を伝え、それがロシアとの友好親善を深める第一歩と紹介し、しかし、海上自衛隊はその航海にスパイを7人乗せていると伝えていました。
これは共同通信の誤報及び悪意ある情報操作です。
まず、海上自衛隊のロシア海軍300周年行事への参加は友好親善のためではありませんでした。防衛省の発表でも「日露の信頼醸成措置の第一歩」と位置付けられており、ロシアは友好親善の対象国ではありませんでした。
ところが、マスコミは何としても私たちから「日露の友好親善」という言葉を引っ張り出すのに必死でした。この言葉を引っ張り出すことに成功すればロシアは仮想敵国ではなくなり、防衛力整備の理由が失われるからです。
私はそのことを感じていましたので出航前に「くらま」艦長によく事情を説明し、乗員が記者に何を訊かれても「友好親善」という言葉を使わないように指導してもらっていました。目的を訊かれたら「信頼醸成措置」と答えるように徹底的に指導を繰り返しました。
また、スパイを乗せているというも誤りです。国際法上、スパイは捕虜となる資格を持たないので、逮捕されると当該国の刑法に服し死刑となることもあります。制服の軍人はしたがってスパイとは扱われず、その行為は当然の情報活動として国際法上認められています。
しかし、この共同通信の配信によって多くのメディアからスパイを乗せたという疑いをかけられたため、現地で監理・渉外担当の幕僚であった私はとんでもない目にあわされたのです。
当然、私の報道に対する態度は厳しくなります。
海上自衛隊として初めて、旧海軍から数えても70年ぶりとなるウラジオストク入港はマスコミはかなりの関心を持っており、現地に多くの特派員を送ってきていました。彼らのために司令部では最大限の取材協力をするという方針でおり、その担当幕僚は私でした。毎日、朝8時過ぎから艦内のヘリコプター搭乗員の待機室で当日のスケジュール等について説明をし、同行を希望する記者の車の手配をしたり、夕方にはその日のトピックスについて説明したりをしていたのですが、スパイを乗せているという報道をしたメディアへの対応とそれ以外のメディアへの対応には雲泥の差がつきました。
タイムズやCNNなど海外メディアを含めスパイ報道をしなかったメディアの記者には群司令へのインタビューも調整し、ブリーフィングが終わった後に別室で珈琲などを飲みながら懇談をしましたが、スパイ扱いをしたメディアにはインタビューも認めず、ブリーフィングでは必要最小限の質問にしか答えませんでした。
そのうち、私からの情報量に差があることに気づいたメディアから抗議がありましたが意に介さず相手にしませんでした。
びっくりしたのは300周年行事を終えて明日はウラジオストク出航という日の夜です。
この日、「くらま」はロシア海軍に招待のお礼として艦上レセプションを開催していました。もちろん、参加している他の海軍艦艇の指揮官等なども招待していましたが、ロシア側からは誰を招待していいのかよくわからなかったため、人数だけ伝えて人選はロシア海軍に任せていました。したがって、ロシア太平洋艦隊司令長官など主要な軍人や知事などの要人については把握していましたが、その他には誰が来るのかよく分かっていませんでした。
私は担当幕僚として出迎えに出ていたのですが、そこに現れたのがKGBの二人でした。
この日は夕方であったこともあり、二人ともサングラスを外していたのですが、背が高い美男美女の二人だったのでやたらに目立ちました。舷門に上がってくると一斉にフラッシュが炊かれ、まず私を訪ねてきたと言ったので司令部はじめ「くらま」乗員も私が映画スターを招待したと思ったようです。
私はしばらく接客に忙しかったのですが、一段落したところで彼らが私を探しているらしいと聞いて出向きました。
すると、いろいろと伺いたいことがあるのだが、と言い出したので、仕方なく彼らを司令部公室に連れていき、そこにレセプションで出されている料理の一部とワインなどを運んでもらい、そこで会食となりました。
彼らが訊きたいことというのは、やはり「スパイ」が何をしていたのかということでした。
彼らもプロですから、その7人が誰なのかを割り出しており、その行動は逐一監視されていたはずだと思っていました。臨時勤務の情報担当者たちもそれは十分理解しており、上陸してうっかり歩いているとちょっとしたことでも理由をつけられて逮捕される可能性がありましたので、岸壁以外への上陸はせず、必要な場所には私が通訳として同道させたにとどまりました。
群司令の通訳には駐ロシア大使館から防衛駐在官が来てくれていたので私が心配する必要はなかったのです。
したがって、KGBに嘘をついても無駄だと思い、そのままを話しました。「彼らは船にとどまり、船に来たロシア人の方々の通訳をしていた。必要に応じ、私が連れて出てロシア海軍との調整に際して通訳をしてもらった。そのほかは艦内でできる彼らの情報活動をしていたはずだ。」と言うと、「具体的には?」と訊いてきます。
「もちろん、ウラジオストクの港内の状況については海図が公表されていないのでできる限りの調査をしたはずだ。ビット(もやい綱を係止するポスト)の間隔や数などを計測しているのを見たし、船が持っている放射線計を持って歩いているのも見た。マストの上からの写真も何枚も撮ったはずだし、今日来られているゲストの写真もどこかで多数撮っているだろう。もちろんあなた方の写真もすでにカタログされているはずだ。その他にも様々に情報収集をしているはずだが、細部は承知していない。」と答えました。
女性の方がまたニコニコして「あなたはとても率直な人ですね。」と言うので、「そんなの軍隊だったら常識的にどこでもやるだろう。お宅はやらないのか?日本海軍はこの70年間、この港に来たことがないんだぜ。多分、隔年くらいで来ることになるだろう。次に来る連中にできるだけの資料を残すのも私たちの任務だし、来年、君らが横須賀に来たら同じことをするはずだ。もっともこちらはその程度の情報はあらかじめ教えてやるけどね。」と答えると彼らも笑い出し、「訊きたいことは終わり。それにしてもくらまの料理はおいしいですね。」と雑談に変わりました。
共同通信にはとてつもない迷惑をこうむりましたが、でもそのお陰で、映画に出てくるような美男美女のスパイコンビと親しく酒を飲みかわすというめったにできない経験をさせてもらいました。
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お勧めの本
『挑戦者の流儀』 阿久澤 克之 著 Parade Books 株式会社パレード 刊
の中で、弊社代表の林が30人の経営者の一人として紹介されました。
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当コラムは危機管理の専門コラムとして掲載を続けています。最近、いろいろな事情があって、
この「専門」という言葉を使うのを止めようかどうしようかと考えているところではありますが、
いずれにせよ危機管理にテーマを絞ったコラムとして執筆を続けています。
ただ、執筆者自身が言うのも変なのですが、「危機管理」という言葉自体がどうも曖昧であるよ
うにも思っています。
「危機管理」という言葉自体が自己撞着に陥っています。
「管理」できれば「危機」的な事態にはなりません。「管理」できないから「危機」になってし
まうのではないでしょうか。
続きはこちらからお読みください。
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プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
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私はそれが司令部に臨時勤務を発令されて出航前に乗ってきた海幕の情報関係者の7人であることがすぐに分かりました。
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イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
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メールマガジン「指揮官の休日」
発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
email: yhayashi@aegis-cms.co.jp
Web : http://aegis-cms.co.jp
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