指揮官の休日 No.208 時代錯誤に陥った話
2020/11/20 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
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専門コラム「指揮官の決断」は、第216回 そもそも危機管理とは何だろうか を掲載いたしました。
危機管理論の誕生から概念の混乱まで解説してきた当コラムですが、いよいよそれでは危機管理とは何を目指すマネジメントなのかという議論に入ります。
詳しくはこちらをお読み下さい。
https://aegis-cms.co.jp/2209
No.208 時代錯誤に陥った話
1995年3月、海上自衛隊幹部学校の指揮幕僚課程を卒業した私は、長崎県佐世保を母港とする第2護衛隊群司令部の幕僚を命ぜられて着任しました。
第2護衛隊群という部隊は護衛艦8隻から編成され、出航すると8機のヘリコプターを搭載して行動する部隊です。当時、まだ海上自衛隊が1隻しか保有していなかったイージス艦が配備され、その戦力化を急いでいる時だったのですが、東シナ海で有事が勃発したら真っ先に飛び出す部隊として厳しい訓練が行われていました。
横須賀を母港とする第1護衛隊群が東京が近く、いろいろな見学者が後を絶たないため、海上自衛隊では「見せ場の1群、訓練の2群」と呼ばれており、その訓練の厳しさは海上自衛隊中に鳴り響いていました。
指揮幕僚課程を卒業してやる気満々の私にとっては相手に不足のない部隊だったのですが、着任後きっかり2年間の幕僚勤務で17日しか休みを取れなかったというとんでもない部隊で、今思い出してもよく耐えたなと強烈な思い出に満ちた2年間でした。
ただ、この司令部勤務で得た様々の経験などがその後の私の勤務の大きな糧となったことは間違いなく、ありがたい貴重な経験だったと思っています。
この部隊での2年間の勤務中にはいろいろなことがありました。ロシアへ海上自衛隊として初めて訪問したのもこの部隊でしたし、大規模災害初動対処訓練を海上自衛隊として初めて企画して様々の教訓を残したのもこの部隊でした。東日本大震災で出動した様々な部隊の指揮官たちは、この時第2護衛隊群が作った報告書を読んでおり、その教訓が見事に生かされています。
その他にもいろいろな経験をしましたが、多くは訓練や演習に関わり、「秘」に指定されている行動中のことですので、残念ながらご紹介できないことばかりです。
その中でもちょっと異質の経験についてご紹介します。
1996年のことですが、韓国籍のタンカーが火災を起こして漂流するという事故がありました。猛烈な火災を起こしながら漂流を続け、五島列島に近付いてきました。
そのまま放置すると五島列島に衝突して大参事になりかねません。
第2護衛隊群司令に災害派遣命令が出されました。
命令には明確に記述されませんでしたが、上級司令部との調整により命令が何を意味しているのかが分かりました。韓国籍タンカーが五島列島にのし上げるようなら撃沈せよということなのです。
当時の海上自衛隊の艦艇が搭載していた艦載砲は127ミリ砲と76ミリ砲の二種類でした。
76ミリ砲は毎分の発射数が多く、対空射撃などには適していますが、口径が小さくて破壊力がそれほど大きくないので、敵艦との水上での撃ち合いや地上の建造物などの攻撃には向いていません。127ミリ砲は発射速度は76ミリ砲に比べて遅いのですが、破壊力が大きいので水上目標への射撃には向いています。
この時、第2護衛隊群司令はこの127ミリ砲搭載の船を率いて出動するように指示されたのです。
海上保安庁が必死になってこのタンカーの火災を消火しようとしているのですが、これが功を奏さずに五島列島に漂着すると大変なことになるので、その直前には最後の手段として撃沈するようにということだったのです。
第2護衛隊群は直ちに準備に入りました。
当時、第2護衛隊群にこの127ミリ砲を搭載した艦が3隻いました。群旗艦「くらま」、イージス艦「こんごう」そして対空防護を主任務とする長射程対空ミサイル艦「さわかぜ」でした。「こんごう」が別の任務で出航中であったので、同じく佐世保を母港とする第3護衛隊群の「はるな」を臨時に第2護衛隊群司令の指揮下に入れて出動することになりました。
船を沈めるための砲弾は飛行機やミサイルを撃ち落とすための砲弾とは異なります。対空目標を攻撃する砲弾には近接信管が取り付けられ、目標の至近距離で破裂して破片を飛び散らすのですが、水上目標を砲撃するための砲弾は爆発せずに穴を開けるだけであったり、命中してすぐではなく、若干遅れて甲板を貫通して内部に入ってから爆発するように遅延信管が取り付けられています。
どちらの砲弾も護衛艦は常時持っていますが、それらをすぐに撃てるように弾薬庫の中での並べ方を変えたりしていました。また、射撃指揮装置の調整も洋上ではできないものもあり、各艦の射撃関係員は張り切っていました。
高速で突っ込んでくるミサイルを迎撃するのに比べると漂流中の巨大船を撃つなどというのはバカバカしいほど簡単に思えるのですが、しかし、やたらと撃てばいいというものでもなく、命中させて穴を開ける場所を考えて精確に撃ち抜かないとタンカーは沈まないのです。甲板上の構造物などに何十発撃ちこんでも燃えるだけで沈みません。原油が入っているタンク部分以外の区画に穴を開けて海水を流入させねばならず、そう簡単な射撃ではありません。
私たち司令部の幕僚は、部隊が佐世保に戻っている時には陸上司令部に移って仕事をしていました。群旗艦の司令部幕僚執務室はやはり手狭ですので多くの資料などを持ち込むことができず、また引いてある電話回線数も少なかったからです。
しかし、災害派遣で出動となったため、船へ移る準備を始めていました。
そこに珍事が起きました。
同じく佐世保を母港とする「ながつき」という船がありました。この船は艦齢が25年を超えており、護衛艦から特務艦に艦種変更されていたのですが、127ミリ砲を搭載していました。特務艦ですので、護衛艦のように実戦に投入されることはなく、様々の雑用に使われ、除籍を待っている状態です。そしてその「ながつき」はその年度を最後に除籍されることが決まっており、最終的な除籍準備に入るところだったのです。そして、その所属は第2護衛隊群のように自衛艦隊隷下ではなく、佐世保地方総監が指揮する佐世保地方隊に所属していました。つまり命令系統が全く違うのです。
私が陸上司令部で船に移る準備をしているところに、その「ながつき」の艦長が飛び込んできました。
幕僚事務室に私しかいなかったので、艦長は私のところにやってきて「ながつきを連れて行って欲しい。」と言うのです。
私はこの「ながつき」とは日常よく付き合っていました。東京からやってくる政府要人などが海上自衛隊部隊の見学を希望する際、佐世保地方総監部から私が調整を受けます。お目当てはイージス艦見学なのですが、「こんごう」もいつも佐世保にいるわけではありませんので対応できないこともあります。また、艦上での昼食などを要請されるとさらに調整が困難なことがあります。
そのような場合、私は「ながつき」に相談をしていました。見学は第一線部隊の護衛艦で引き受けるが、昼食はそちらで準備してくれないかということです。
私は「ながつき」の調理員長をよく知っていました。かつて乗っていた船の調理員だったのです。彼は腕のいい調理員で懐石料理でもフルコースのフレンチでも器用に作ります。
そのような調整をして「ながつき」で昼食を出してもらった際には、必ず事後的に艦長に挨拶に行っていましたので艦長とも顔見知りでした。
ところがいつもは冗談ばかり言っている艦長の顔が真剣なのです。
「連れて行ってくれと言われても、今度は実際に艦砲射撃で船を沈めるんですよ。ながつきは特務艦ですよね?」と言うと、「ながつきは撃てます。訓練も護衛艦の時と同じようにやってきたし、整備もいつでも現役復帰できるようにしっかりやっています。射撃関係員もながつきから他の艦に転出してもすぐにお役に立てるように鍛えてあります。撃てます!ながつきは撃てます!!」と必死なのです。
艦長としては、まもなく除籍される自分の船に最後の花道を飾らせてやりたいという思いなのでしょう。また、射撃を専門とする艦長にとっては、訓練以外で射撃をするということはまず経験したことのない絶好の機会だったのでしょう。艦長の年齢を考えると、訓練であっても実弾を撃つ指揮を執ることなどもう無いのかもしれません。多分、今回が最後の艦長配置で、定年までの数年は陸上勤務でしょう。まして今回は実任務です。
「そうは言っても、今回の災害派遣命令は第2護衛隊群に対して出されているので、地方隊の船にご協力頂くのもいかがなものかと思いますよ。」と申し上げたのですが、とにかく「連れて行って欲しい、何とか群司令にお伝えいただけないか。」の一点張りなのです。
しかたなく、私は隣の首席幕僚の部屋でニヤニヤしながら騒ぎを聞いている首席幕僚とともに群司令の部屋に入って顛末を報告しました。
群司令は即座に却下するかと思いきや「そうか、ながつきは撃てると言っておるか。武士の情けじゃ、連れて行ってやれ。」と言うのです。
私は幕僚執務室に戻り、待っている艦長に「群司令了解です。総監部で調整してきます。」と言うと彼は本当に目を潤ませて喜んだのです。彼がどれほど自分の専門術科と船を大切に思っているのかに私も胸を打たれました。
私はすぐに総監部に車を飛ばし、防衛部長に面会を求めて「ながつきを連れて行きたい。」と申し出ると、防衛部長も破顔して喜び、すぐに総監の部屋に通されました。佐世保地方総監もこちらがびっくりするほどよろこんで、「そうか、2群が連れて行ってくれるか。」と目の前で群司令に礼の電話をかけ始める始末です。
当の私は、何か時代劇を観ているような気分になってきました。「武士の情けじゃ」ですからね。
結局、「ながつき」も一緒に出動することになったのですが、結果的にこの災害派遣では1発の実弾も撃つことなく戻ってきました。
問題があったのです。
韓国船の乗員は脱出して救助されていたのですが、船長一人が行方不明でした。
ひょっとして船に残っているかもしれないと私たちは考えました。セウォル号の沈没事故が起こる前の話なので韓国人の船乗り気質などは知らなかったのです。船長だけは脱出せずにブリッジに残っているのではないかと思ったとしても不思議はありません。
群司令は悩みました。ひょっとしてまだ船長が乗っているかもしれない船を、その安否を確認せずに撃沈するのかどうかなのです。群司令は韓国人の乗組員から船長の消息に関する証言が得られないうちは「俺は撃たない。」と決断し、海上保安庁にその確認を要請しました。
ところが、海上保安庁は海上自衛隊が撃沈する意図をもたないと判断し、もっと恐るべきことをやってのけました。
燃え盛っているタンカーの船首に強引に接舷すると何人かの保安官が跳び移り、サッサとロープを巻くと曳航を始めたのです。その鮮やかな早業には呆気にとられました。
この結果、このタンカーは五島列島に衝突せずに済み、部隊は佐世保に戻ってきました。
入港後「ながつき」艦長に会いに行ったのですが、射撃ができずにしょげているかと思いきや、「この船に最後に緊張感のある仕事をさせることができて、とてもすがすがしい思いです。」と喜色満面でした。
自分ではそうも思わないのですが、こう思い出すと、海上自衛官というのは変わった人種が多いかもしれません。
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1995年3月、海上自衛隊幹部学校の指揮幕僚課程を卒業した私は、長崎県佐世保を母港とする第2護衛隊群司令部の幕僚を命ぜられて着任しました。
第2護衛隊群という部隊は護衛艦8隻から編成され、出航すると8機のヘリコプターを搭載して行動する部隊です。当時、まだ海上自衛隊が1隻しか保有していなかったイージス艦が配備され、その戦力化を急いでいる時だったのですが、東シナ海で有事が勃発したら真っ先に飛び出す部隊として厳しい訓練が行われていました。
横須賀を母港とする第1護衛隊群が東京が近く、いろいろな見学者が後を絶たないため、海上自衛隊では「見せ場の1群、訓練の2群」と呼ばれており、その訓練の厳しさは海上自衛隊中に鳴り響いていました。
指揮幕僚課程を卒業してやる気満々の私にとっては相手に不足のない部隊だったのですが、着任後きっかり2年間の幕僚勤務で17日しか休みを取れなかったというとんでもない部隊で、今思い出してもよく耐えたなと強烈な思い出に満ちた2年間でした。
ただ、この司令部勤務で得た様々の経験などがその後の私の勤務の大きな糧となったことは間違いなく、ありがたい貴重な経験だったと思っています。
この部隊での2年間の勤務中にはいろいろなことがありました。ロシアへ海上自衛隊として初めて訪問したのもこの部隊でしたし、大規模災害初動対処訓練を海上自衛隊として初めて企画して様々の教訓を残したのもこの部隊でした。東日本大震災で出動した様々な部隊の指揮官たちは、この時第2護衛隊群が作った報告書を読んでおり、その教訓が見事に生かされています。
その他にもいろいろな経験をしましたが、多くは訓練や演習に関わり、「秘」に指定されている行動中のことですので、残念ながらご紹介できないことばかりです。
その中でもちょっと異質の経験についてご紹介します。
1996年のことですが、韓国籍のタンカーが火災を起こして漂流するという事故がありました。猛烈な火災を起こしながら漂流を続け、五島列島に近付いてきました。
そのまま放置すると五島列島に衝突して大参事になりかねません。
第2護衛隊群司令に災害派遣命令が出されました。
命令には明確に記述されませんでしたが、上級司令部との調整により命令が何を意味しているのかが分かりました。韓国籍タンカーが五島列島にのし上げるようなら撃沈せよということなのです。
当時の海上自衛隊の艦艇が搭載していた艦載砲は127ミリ砲と76ミリ砲の二種類でした。
76ミリ砲は毎分の発射数が多く、対空射撃などには適していますが、口径が小さくて破壊力がそれほど大きくないので、敵艦との水上での撃ち合いや地上の建造物などの攻撃には向いていません。127ミリ砲は発射速度は76ミリ砲に比べて遅いのですが、破壊力が大きいので水上目標への射撃には向いています。
この時、第2護衛隊群司令はこの127ミリ砲搭載の船を率いて出動するように指示されたのです。
海上保安庁が必死になってこのタンカーの火災を消火しようとしているのですが、これが功を奏さずに五島列島に漂着すると大変なことになるので、その直前には最後の手段として撃沈するようにということだったのです。
第2護衛隊群は直ちに準備に入りました。
当時、第2護衛隊群にこの127ミリ砲を搭載した艦が3隻いました。群旗艦「くらま」、イージス艦「こんごう」そして対空防護を主任務とする長射程対空ミサイル艦「さわかぜ」でした。「こんごう」が別の任務で出航中であったので、同じく佐世保を母港とする第3護衛隊群の「はるな」を臨時に第2護衛隊群司令の指揮下に入れて出動することになりました。
船を沈めるための砲弾は飛行機やミサイルを撃ち落とすための砲弾とは異なります。対空目標を攻撃する砲弾には近接信管が取り付けられ、目標の至近距離で破裂して破片を飛び散らすのですが、水上目標を砲撃するための砲弾は爆発せずに穴を開けるだけであったり、命中してすぐではなく、若干遅れて甲板を貫通して内部に入ってから爆発するように遅延信管が取り付けられています。
どちらの砲弾も護衛艦は常時持っていますが、それらをすぐに撃てるように弾薬庫の中での並べ方を変えたりしていました。また、射撃指揮装置の調整も洋上ではできないものもあり、各艦の射撃関係員は張り切っていました。
高速で突っ込んでくるミサイルを迎撃するのに比べると漂流中の巨大船を撃つなどというのはバカバカしいほど簡単に思えるのですが、しかし、やたらと撃てばいいというものでもなく、命中させて穴を開ける場所を考えて精確に撃ち抜かないとタンカーは沈まないのです。甲板上の構造物などに何十発撃ちこんでも燃えるだけで沈みません。原油が入っているタンク部分以外の区画に穴を開けて海水を流入させねばならず、そう簡単な射撃ではありません。
私たち司令部の幕僚は、部隊が佐世保に戻っている時には陸上司令部に移って仕事をしていました。群旗艦の司令部幕僚執務室はやはり手狭ですので多くの資料などを持ち込むことができず、また引いてある電話回線数も少なかったからです。
しかし、災害派遣で出動となったため、船へ移る準備を始めていました。
そこに珍事が起きました。
同じく佐世保を母港とする「ながつき」という船がありました。この船は艦齢が25年を超えており、護衛艦から特務艦に艦種変更されていたのですが、127ミリ砲を搭載していました。特務艦ですので、護衛艦のように実戦に投入されることはなく、様々の雑用に使われ、除籍を待っている状態です。そしてその「ながつき」はその年度を最後に除籍されることが決まっており、最終的な除籍準備に入るところだったのです。そして、その所属は第2護衛隊群のように自衛艦隊隷下ではなく、佐世保地方総監が指揮する佐世保地方隊に所属していました。つまり命令系統が全く違うのです。
私が陸上司令部で船に移る準備をしているところに、その「ながつき」の艦長が飛び込んできました。
幕僚事務室に私しかいなかったので、艦長は私のところにやってきて「ながつきを連れて行って欲しい。」と言うのです。
私はこの「ながつき」とは日常よく付き合っていました。東京からやってくる政府要人などが海上自衛隊部隊の見学を希望する際、佐世保地方総監部から私が調整を受けます。お目当てはイージス艦見学なのですが、「こんごう」もいつも佐世保にいるわけではありませんので対応できないこともあります。また、艦上での昼食などを要請されるとさらに調整が困難なことがあります。
そのような場合、私は「ながつき」に相談をしていました。見学は第一線部隊の護衛艦で引き受けるが、昼食はそちらで準備してくれないかということです。
私は「ながつき」の調理員長をよく知っていました。かつて乗っていた船の調理員だったのです。彼は腕のいい調理員で懐石料理でもフルコースのフレンチでも器用に作ります。
そのような調整をして「ながつき」で昼食を出してもらった際には、必ず事後的に艦長に挨拶に行っていましたので艦長とも顔見知りでした。
ところがいつもは冗談ばかり言っている艦長の顔が真剣なのです。
「連れて行ってくれと言われても、今度は実際に艦砲射撃で船を沈めるんですよ。ながつきは特務艦ですよね?」と言うと、「ながつきは撃てます。訓練も護衛艦の時と同じようにやってきたし、整備もいつでも現役復帰できるようにしっかりやっています。射撃関係員もながつきから他の艦に転出してもすぐにお役に立てるように鍛えてあります。撃てます!ながつきは撃てます!!」と必死なのです。
艦長としては、まもなく除籍される自分の船に最後の花道を飾らせてやりたいという思いなのでしょう。また、射撃を専門とする艦長にとっては、訓練以外で射撃をするということはまず経験したことのない絶好の機会だったのでしょう。艦長の年齢を考えると、訓練であっても実弾を撃つ指揮を執ることなどもう無いのかもしれません。多分、今回が最後の艦長配置で、定年までの数年は陸上勤務でしょう。まして今回は実任務です。
「そうは言っても、今回の災害派遣命令は第2護衛隊群に対して出されているので、地方隊の船にご協力頂くのもいかがなものかと思いますよ。」と申し上げたのですが、とにかく「連れて行って欲しい、何とか群司令にお伝えいただけないか。」の一点張りなのです。
しかたなく、私は隣の首席幕僚の部屋でニヤニヤしながら騒ぎを聞いている首席幕僚とともに群司令の部屋に入って顛末を報告しました。
群司令は即座に却下するかと思いきや「そうか、ながつきは撃てると言っておるか。武士の情けじゃ、連れて行ってやれ。」と言うのです。
私は幕僚執務室に戻り、待っている艦長に「群司令了解です。総監部で調整してきます。」と言うと彼は本当に目を潤ませて喜んだのです。彼がどれほど自分の専門術科と船を大切に思っているのかに私も胸を打たれました。
私はすぐに総監部に車を飛ばし、防衛部長に面会を求めて「ながつきを連れて行きたい。」と申し出ると、防衛部長も破顔して喜び、すぐに総監の部屋に通されました。佐世保地方総監もこちらがびっくりするほどよろこんで、「そうか、2群が連れて行ってくれるか。」と目の前で群司令に礼の電話をかけ始める始末です。
当の私は、何か時代劇を観ているような気分になってきました。「武士の情けじゃ」ですからね。
結局、「ながつき」も一緒に出動することになったのですが、結果的にこの災害派遣では1発の実弾も撃つことなく戻ってきました。
問題があったのです。
韓国船の乗員は脱出して救助されていたのですが、船長一人が行方不明でした。
ひょっとして船に残っているかもしれないと私たちは考えました。セウォル号の沈没事故が起こる前の話なので韓国人の船乗り気質などは知らなかったのです。船長だけは脱出せずにブリッジに残っているのではないかと思ったとしても不思議はありません。
群司令は悩みました。ひょっとしてまだ船長が乗っているかもしれない船を、その安否を確認せずに撃沈するのかどうかなのです。群司令は韓国人の乗組員から船長の消息に関する証言が得られないうちは「俺は撃たない。」と決断し、海上保安庁にその確認を要請しました。
ところが、海上保安庁は海上自衛隊が撃沈する意図をもたないと判断し、もっと恐るべきことをやってのけました。
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この結果、このタンカーは五島列島に衝突せずに済み、部隊は佐世保に戻ってきました。
入港後「ながつき」艦長に会いに行ったのですが、射撃ができずにしょげているかと思いきや、「この船に最後に緊張感のある仕事をさせることができて、とてもすがすがしい思いです。」と喜色満面でした。
自分ではそうも思わないのですが、こう思い出すと、海上自衛官というのは変わった人種が多いかもしれません。
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弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
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発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
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