指揮官の休日 No.207 船酔い
2020/11/13 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第215回 危機管理概念の混乱はどう始まったのか その2 を掲載いたしました。
この国の危機管理概念の混乱は必ずしもメディアだけの責任ではありません。専門の学者ですら理解していない人が多数います。困ったことに学会の権威者などが誤解していると誰も反論しないのでそれが定着してしまいます。
そのような事情について解説しました。
詳しくはこちらをお読み下さい。
https://aegis-cms.co.jp/2205
No.207 船酔い
先日、ある若手の経営者と話をしていたら、彼は乗り物酔いがきついのだそうです。乗り物の中でスマホを見る時にも下を向くと危ないので、ちょっと上向きで見るということでした。酒にはかなり強く、いくら飲んでも乱れることのない人なのですが、多分、三半規管が鋭敏なのだと思います。
私は学生時代にヨットの外洋レースで奴隷生活を送り、その後海上自衛隊に入って船に乗ったりしていましたので、船酔いについてもかなりの経験を持っています。なので、この若い経営者の辛さは理解できます。二日酔いのきつさは自業自得ですが、乗り物酔いは理不尽ですからね。
学生時代、江の島の外洋レース艇で鍛えられていた頃、私はひどい船酔いに悩まされていました。レースに乗るたびに船酔いで、毎回「二度と乗るもんか」と思いながら、何十回ものレースに乗っていました。
相模湾や伊豆七島で行われるレースは油壷の沖がスタートということが多く、レースの日は朝早く江の島を出て、諸磯にあるシーボニアまで行く必要があります。そこでレース前の艇長会議があり、レースルールや気象の解説が行われるのです。
私たち学生クルーは前日から泊まり込んでいたことがよくありました。
特に私は最下級の奴隷クルーとしてレース中の食事作りをしなければならず、船酔いのなかで調理する気にもなれないので、前日から泊まり込んでシチューなどを煮ていることがありました。
私たちの船が馴染みにしていた寿司屋が片瀬江ノ島にあり、レースの日はそこの大将が稲荷寿司などを作ってくれるので、朝早くそれを受け取り、オーナーやスキッパー以下のクルーが揃うと出港します。
シーボニアへ回航するまでの間にその稲荷寿司などを食べてスタートの準備をします。当日の天気に合わせて使うであろうセールを出しやすい順番に並べ替えておいたりするのです。
ある時、その回航中に稲荷寿司を皿に出して並べ、インスタントの味噌汁を作っていて味噌汁の匂いが艇内に籠って気になっていたことがありました。今考えると、その時すでに船酔いが始まっていたのだと思いますが、そのレースでの船酔いのきつさと言ったら壮絶なものでした。
そのレースはそれほど長丁場のレースではなく、伊豆大島を時計回りに回って帰ってくるだけのレースでしたが、11月で寒く、スタート直後から気分が悪くなりかけ、昼食の準備をする頃には完全に吐き気に悩まされていました。
昼食はパゲットにハムやスモークサーモンを挟んだサンドウィッチを作りましたが、それですら私は食べることができずにいました。
夕食の頃までには何度も吐いてしまっていましたが、夕食は前日に作っておいたビーフシチューを温めて出しました。もちろん自分では食べることができず、吐こうにも吐くものが胃の中に無くなってしまい、胃液しか吐くものがありませんでした。
この時に経験した船酔いが私の経験した船酔いの中で一番ひどかったのですが、ついに視野狭窄の症状まで現れました。薄暗い艇内に入ると真っ暗で何も見えないのです。
その日はかなり大荒れのレースでしたが、それにしても酷い船酔いで、油壷沖のフィニッシュラインを切って、一度油壷に入港し、油壷のハーバー内に建てられている仲の良い船のオーナーが持っている別荘に転がり込み、そこで熱い風呂に入ってやっと生き返りました。社会人クルーは船酔いはしていませんでしたが、寒い中を江の島まで帰るのを止めて艇内での酒盛りをすることになり、江の島回航は翌朝となったので、私はその別荘のリビングルームでそのまま寝込んでしまったようです。
それ以来、私は味噌汁の匂いを嗅ぐと吐き気に襲われるようになり、しばらく味噌汁を食べることができませんでした。
ただ、船酔いというものは多分にメンタルなものではないかと気付き始めたのもこのころです。
そのレースの後、別の船からあるレースにセーリングマスターとして乗ってくれないかと頼まれたことがありました。セーリングマスターとは艇長の次席で、その時の風に合わせて最適のセールを選び、そのトリムを最善に保つのが仕事です。ある程度の実力や経験が評価されたことになります。奴隷とはちょっと違う待遇になります。
その船でのレースもかなりの時化でしたが、この時はまったく船酔いをしませんでした。その後、スキッパーとして乗るようになると、いくら時化ても、艇内でチャートワークをしたり、船酔いで潰れたクルーの代わりに料理を作ったりしても酔わないのです。
ところが私がクルーとして乗り込んでいる船に戻って奴隷に戻ると船酔いをするのです。
つまり、責任ある立場で乗ると酔わないし、奴隷で乗るとすぐに酔うことが分かったのです。
そこで怖かったのが海上自衛隊入隊後の最初の乗艦実習でした。
10月のある日、雨の降る寒い夕方の出港でした。30人ほどの候補生が練習艦に乗り込み、広島県の呉から豊後水道を抜けて四国沖を航行して横須賀まで行くのです。
出港後、身辺整理をして夕食を食べ、夜8時ころから当直の実習が始まりました。艦橋と機関科の当直士官の実習をするのです。
私は艦橋当直の一番手として艦橋に上がって、練習艦の当直士官の指導を受けながら航海当直勤務を始めました。船は山口県の岩国沖を南に変針して豊後水道に入ろうとしているところでした。
当直中に両側に見えるであろう灯台などについてはすでに調べてあり、目の前に水ノ子島灯台が予定通り見えてきた時はホッとしました。
その日は雨で若干波がありちょっとだけ揺れていましたが、まだ太平洋に出ているわけではなく、船の揺れも左右5度程度だったと思います。
当直は2時間交代とされ、次直が交代に現れたら当直士官としての申し継ぎをして下りることができます。
ところが次直が上がって来ないのです。当直をしている乗員の一人が次直を起こしに行き、船の乗員は次々に交代していきますが、私の交代の候補生が上がってきません。船の乗員は候補生の居住区にも起こしに行ってくれているのですが交代が来ないのです。乗員が再度呼びに行ってくれたのですが、それでも上がってきません。
こういう時、幹部候補生は連帯責任ですので、次直が上がって来ない限り私は降りることができません。
結局、夜が明けて6時頃まで誰も上がって来ないので、私がずっと艦橋当直を続けることになりました。6時頃、艦長が艦橋に上がってきて私を見て「オッ、また当直か?」と声をかけてきたので「またではなく、まだ当直です。」と答えました。
艦長はさすがに笑って、「もういいから、朝飯を食って来い。」と言ってくれたのですが、「食って来い。」というのは「食べたら戻れ」ということなのだと考え、大急ぎで食事を済ませて艦橋に駆け上がると、実習で乗り込んでいた候補生がすべて艦橋のさらに上の露天甲板に整列させられ、「あの程度の揺れで船酔いになるのも問題だが、それは仕方がない。早く慣れるように。しかしながらその程度の船酔いで当直に出て来ないというのは論外である。これから横須賀入港まで、食事とトイレ以外は艦橋から下りてはならん。」と申し渡されていました。
一晩中当直をしていた私と機関科の運転指揮所で私と同じ目に会っていた同期の候補生は無罪放免だったのですが、さすがに遊んでいるわけにもいかず、私は機関科の当直の実習を経験し、機関科にいた同期は艦橋当直の実習などをして横須賀までの時間を過ごしました。
この実習の時、同期が皆船酔いで倒れたのに自分が船酔いをしなかったことが自信になったのでしょう。それ以後、海上自衛隊の船でつらい思いをしたことはありません。台風の中の航海なども経験していますが、幸いなことに船酔いで仕事ができないということはありませんでした。いつも平気で食事をすることができました。
ヨットの揺れと護衛艦の揺れの周期が異なり、護衛艦の揺れがあまり気にならなかったのか、ヨットに比べると揺れの大きさが基本的に全く違うからかよく分かりません。
乗員の前で船酔いで参っているというようなところを見せられないという緊張感があったからかもしれないのですが、艦隊勤務で気持ち悪くならないというのはとてもありがたいことでした。
船酔いを全くしないということではありませんでした。しばらく停泊が続いたり、艦隊勤務を離れていて転勤で戻ってきた時などは、出航するとしばらく頭がポーッとすることがあります。そのような時には計算能力が下がり、また何をするのも面倒になります。それでも翌日には気分爽快で、久しぶりの航海を楽しむようになります。
船酔いはメンタルなものです。どんなに酷い船酔いの人でも港が見えたりすると治ります。しかし、フィジカルにも船酔いの苦痛から逃れる方法もあります。
今回はそれをお伝えします。
船酔いは船と接している面積に反比例してきつくなります。
つまり、立っている時が一番きついのです。足の裏の面積しか船と接していません。逆に寝ている時が一番楽です。
ただ、仕事で船に乗ると寝ていることができないのできついのですが、船客として乗っている時は寝ているに限ります。気持ちが悪くなってから寝るのではなく、船に弱い人は出航したらすぐ横になるべきです。そのうちに三半規管が船の揺れに慣れてきます。それから起き上がると意外に大丈夫です。
また、釣り船などではなるべく後ろに乗ることです。舳先の縦揺れに比べると何分の一かの揺れで済みます。ただし、小さな釣り船だと後部に排気が流れるのでそれが要注意ですね。
船に酔ってしまったら、サッサと吐いてしまうと楽になります。ただ、胃の中に吐くものが無くなるときついですからジュースなどを飲んでおいたほうがいいでしょう。
最近の酔い止めはよく効くそうです。眠くならないものと強烈な眠気に襲われるものがありますので、その船に乗っている理由に応じて使い分けて海と船を楽しんでいただければと思います。
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お勧めの本
『挑戦者の流儀』 阿久澤 克之 著 Parade Books 株式会社パレード 刊
の中で、弊社代表の林が30人の経営者の一人として紹介されました。
日常の想いなどについてインタビューを受けたものです。
他にも素晴らしい経営者の方々が紹介されています。
アマゾンでお買い求めいただけます。
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メールマガジンのバックナンバーは弊社Facebookページからもお読みいただけます。
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とが出来ます。
是非Facebookページをご訪問ください。
Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
https://twitter.com/CaptainHayashi です。
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ください
専門コラム「指揮官の決断」第215回 危機管理概念の混乱はどう始まったのか その2 掲載のご案内
前回、当コラムでは日本において危機管理概念の混乱がどう始まったのかについてお伝えしました。メディアがリスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いを理解せずに言葉だけを乱発した結果、リスクマネジメントと危機管理の概念が混乱し、今やリスクマネジメント=危機管理 という理解が一般的になってしまいました。
続きはこちらからお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/2205
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弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
https://aegis-cms.co.jp/book1
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メールマガジン及び専門コラムのバックナンバーをお読みいただけます。
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
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発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
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No.207 船酔い
先日、ある若手の経営者と話をしていたら、彼は乗り物酔いがきついのだそうです。乗り物の中でスマホを見る時にも下を向くと危ないので、ちょっと上向きで見るということでした。酒にはかなり強く、いくら飲んでも乱れることのない人なのですが、多分、三半規管が鋭敏なのだと思います。
私は学生時代にヨットの外洋レースで奴隷生活を送り、その後海上自衛隊に入って船に乗ったりしていましたので、船酔いについてもかなりの経験を持っています。なので、この若い経営者の辛さは理解できます。二日酔いのきつさは自業自得ですが、乗り物酔いは理不尽ですからね。
学生時代、江の島の外洋レース艇で鍛えられていた頃、私はひどい船酔いに悩まされていました。レースに乗るたびに船酔いで、毎回「二度と乗るもんか」と思いながら、何十回ものレースに乗っていました。
相模湾や伊豆七島で行われるレースは油壷の沖がスタートということが多く、レースの日は朝早く江の島を出て、諸磯にあるシーボニアまで行く必要があります。そこでレース前の艇長会議があり、レースルールや気象の解説が行われるのです。
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私たちの船が馴染みにしていた寿司屋が片瀬江ノ島にあり、レースの日はそこの大将が稲荷寿司などを作ってくれるので、朝早くそれを受け取り、オーナーやスキッパー以下のクルーが揃うと出港します。
シーボニアへ回航するまでの間にその稲荷寿司などを食べてスタートの準備をします。当日の天気に合わせて使うであろうセールを出しやすい順番に並べ替えておいたりするのです。
ある時、その回航中に稲荷寿司を皿に出して並べ、インスタントの味噌汁を作っていて味噌汁の匂いが艇内に籠って気になっていたことがありました。今考えると、その時すでに船酔いが始まっていたのだと思いますが、そのレースでの船酔いのきつさと言ったら壮絶なものでした。
そのレースはそれほど長丁場のレースではなく、伊豆大島を時計回りに回って帰ってくるだけのレースでしたが、11月で寒く、スタート直後から気分が悪くなりかけ、昼食の準備をする頃には完全に吐き気に悩まされていました。
昼食はパゲットにハムやスモークサーモンを挟んだサンドウィッチを作りましたが、それですら私は食べることができずにいました。
夕食の頃までには何度も吐いてしまっていましたが、夕食は前日に作っておいたビーフシチューを温めて出しました。もちろん自分では食べることができず、吐こうにも吐くものが胃の中に無くなってしまい、胃液しか吐くものがありませんでした。
この時に経験した船酔いが私の経験した船酔いの中で一番ひどかったのですが、ついに視野狭窄の症状まで現れました。薄暗い艇内に入ると真っ暗で何も見えないのです。
その日はかなり大荒れのレースでしたが、それにしても酷い船酔いで、油壷沖のフィニッシュラインを切って、一度油壷に入港し、油壷のハーバー内に建てられている仲の良い船のオーナーが持っている別荘に転がり込み、そこで熱い風呂に入ってやっと生き返りました。社会人クルーは船酔いはしていませんでしたが、寒い中を江の島まで帰るのを止めて艇内での酒盛りをすることになり、江の島回航は翌朝となったので、私はその別荘のリビングルームでそのまま寝込んでしまったようです。
それ以来、私は味噌汁の匂いを嗅ぐと吐き気に襲われるようになり、しばらく味噌汁を食べることができませんでした。
ただ、船酔いというものは多分にメンタルなものではないかと気付き始めたのもこのころです。
そのレースの後、別の船からあるレースにセーリングマスターとして乗ってくれないかと頼まれたことがありました。セーリングマスターとは艇長の次席で、その時の風に合わせて最適のセールを選び、そのトリムを最善に保つのが仕事です。ある程度の実力や経験が評価されたことになります。奴隷とはちょっと違う待遇になります。
その船でのレースもかなりの時化でしたが、この時はまったく船酔いをしませんでした。その後、スキッパーとして乗るようになると、いくら時化ても、艇内でチャートワークをしたり、船酔いで潰れたクルーの代わりに料理を作ったりしても酔わないのです。
ところが私がクルーとして乗り込んでいる船に戻って奴隷に戻ると船酔いをするのです。
つまり、責任ある立場で乗ると酔わないし、奴隷で乗るとすぐに酔うことが分かったのです。
そこで怖かったのが海上自衛隊入隊後の最初の乗艦実習でした。
10月のある日、雨の降る寒い夕方の出港でした。30人ほどの候補生が練習艦に乗り込み、広島県の呉から豊後水道を抜けて四国沖を航行して横須賀まで行くのです。
出港後、身辺整理をして夕食を食べ、夜8時ころから当直の実習が始まりました。艦橋と機関科の当直士官の実習をするのです。
私は艦橋当直の一番手として艦橋に上がって、練習艦の当直士官の指導を受けながら航海当直勤務を始めました。船は山口県の岩国沖を南に変針して豊後水道に入ろうとしているところでした。
当直中に両側に見えるであろう灯台などについてはすでに調べてあり、目の前に水ノ子島灯台が予定通り見えてきた時はホッとしました。
その日は雨で若干波がありちょっとだけ揺れていましたが、まだ太平洋に出ているわけではなく、船の揺れも左右5度程度だったと思います。
当直は2時間交代とされ、次直が交代に現れたら当直士官としての申し継ぎをして下りることができます。
ところが次直が上がって来ないのです。当直をしている乗員の一人が次直を起こしに行き、船の乗員は次々に交代していきますが、私の交代の候補生が上がってきません。船の乗員は候補生の居住区にも起こしに行ってくれているのですが交代が来ないのです。乗員が再度呼びに行ってくれたのですが、それでも上がってきません。
こういう時、幹部候補生は連帯責任ですので、次直が上がって来ない限り私は降りることができません。
結局、夜が明けて6時頃まで誰も上がって来ないので、私がずっと艦橋当直を続けることになりました。6時頃、艦長が艦橋に上がってきて私を見て「オッ、また当直か?」と声をかけてきたので「またではなく、まだ当直です。」と答えました。
艦長はさすがに笑って、「もういいから、朝飯を食って来い。」と言ってくれたのですが、「食って来い。」というのは「食べたら戻れ」ということなのだと考え、大急ぎで食事を済ませて艦橋に駆け上がると、実習で乗り込んでいた候補生がすべて艦橋のさらに上の露天甲板に整列させられ、「あの程度の揺れで船酔いになるのも問題だが、それは仕方がない。早く慣れるように。しかしながらその程度の船酔いで当直に出て来ないというのは論外である。これから横須賀入港まで、食事とトイレ以外は艦橋から下りてはならん。」と申し渡されていました。
一晩中当直をしていた私と機関科の運転指揮所で私と同じ目に会っていた同期の候補生は無罪放免だったのですが、さすがに遊んでいるわけにもいかず、私は機関科の当直の実習を経験し、機関科にいた同期は艦橋当直の実習などをして横須賀までの時間を過ごしました。
この実習の時、同期が皆船酔いで倒れたのに自分が船酔いをしなかったことが自信になったのでしょう。それ以後、海上自衛隊の船でつらい思いをしたことはありません。台風の中の航海なども経験していますが、幸いなことに船酔いで仕事ができないということはありませんでした。いつも平気で食事をすることができました。
ヨットの揺れと護衛艦の揺れの周期が異なり、護衛艦の揺れがあまり気にならなかったのか、ヨットに比べると揺れの大きさが基本的に全く違うからかよく分かりません。
乗員の前で船酔いで参っているというようなところを見せられないという緊張感があったからかもしれないのですが、艦隊勤務で気持ち悪くならないというのはとてもありがたいことでした。
船酔いを全くしないということではありませんでした。しばらく停泊が続いたり、艦隊勤務を離れていて転勤で戻ってきた時などは、出航するとしばらく頭がポーッとすることがあります。そのような時には計算能力が下がり、また何をするのも面倒になります。それでも翌日には気分爽快で、久しぶりの航海を楽しむようになります。
船酔いはメンタルなものです。どんなに酷い船酔いの人でも港が見えたりすると治ります。しかし、フィジカルにも船酔いの苦痛から逃れる方法もあります。
今回はそれをお伝えします。
船酔いは船と接している面積に反比例してきつくなります。
つまり、立っている時が一番きついのです。足の裏の面積しか船と接していません。逆に寝ている時が一番楽です。
ただ、仕事で船に乗ると寝ていることができないのできついのですが、船客として乗っている時は寝ているに限ります。気持ちが悪くなってから寝るのではなく、船に弱い人は出航したらすぐ横になるべきです。そのうちに三半規管が船の揺れに慣れてきます。それから起き上がると意外に大丈夫です。
また、釣り船などではなるべく後ろに乗ることです。舳先の縦揺れに比べると何分の一かの揺れで済みます。ただし、小さな釣り船だと後部に排気が流れるのでそれが要注意ですね。
船に酔ってしまったら、サッサと吐いてしまうと楽になります。ただ、胃の中に吐くものが無くなるときついですからジュースなどを飲んでおいたほうがいいでしょう。
最近の酔い止めはよく効くそうです。眠くならないものと強烈な眠気に襲われるものがありますので、その船に乗っている理由に応じて使い分けて海と船を楽しんでいただければと思います。
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お勧めの本
『挑戦者の流儀』 阿久澤 克之 著 Parade Books 株式会社パレード 刊
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
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と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
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について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
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4 テーラード・コンサルティング
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いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
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