指揮官の休日 No.200 最も短い命令
2020/09/25 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
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専門コラム「指揮官の決断」は、第208回 全周警戒を を掲載いたしました。
新型コロナウイルスの騒ぎに翻弄されている私たちの社会ですが、しかし片時も忘れてはならない現実もあります。それらの現実から眼を離さず、覚悟をもってあたるために私たちはどうするべきかを考えています。
https://aegis-cms.co.jp/2163
No.200 最も短い命令
皆さまの応援のお蔭を持ちまして、当メールマガジンは200号の配信を行うことができました。
当コラムは弊社ウェブサイトに掲載中の専門コラム「指揮官の決断」の更新をお伝えすることが目的ですが、専門コラムが辛口であることに鑑み、当メールマガジンはお口直しの意味を含めて、心豊かな休日を過ごすティップスや何の役にも立たないどうでもいい内容とすることを本旨としています。気楽にお読みいただければ幸いです。
今回は200号を記念し、初心に帰り、本当にどうでもいい内容について綴っています。ご多忙なまともな社会生活を送っておられる方々はさっさと読み飛ばして専門コラムのページに飛んで頂ければ幸甚に存じます。
1945年4月5日、山口県の岩国沖、柱島泊地に錨泊していた帝国海軍の最後の艦隊である戦艦大和以下の第2艦隊に対し、窮地にある沖縄救援のための出撃が命ぜられました。
この出撃は、後に帰りの燃料を持たない特攻出撃と称されましたが、実は大和は4000トンの重油を積んでおり、沖縄往復くらいはできる燃料を持っていました。
ただ、この艦隊が無事に任務を果たすなどと信じた者は大本営にも海軍省にも軍令部にもおらず、出撃する第2艦隊自身も生きては帰らないと覚悟の出撃でした。
命令では沖縄にたどり着いたら沈まないように海岸にのし上げて、陸上砲台となり残っている弾を撃ち尽くせというものでした。それでも生き残ったら陸戦隊となって敵陣に斬り込めというのであって、生還はするなという命令だったのです。
冷静に考えれば、誰が考えても成功の望みなどあり得るはずのない作戦で、山本七平氏の分析によれば大和に有終の美を飾らせようというだけの「空気」が決めてしまった作戦でした。
このことは意思決定において重要な問題を含みます。当メールマガジンの対象とするものではなく、専門コラム「指揮官の決断」に譲りますが、とにかく、世界最大の戦艦の航空援護のない出撃が命令されたのです。
第2艦隊司令長官の伊藤整一中将は大和をむざむざ沈めるだけの作戦に難色を示したと言われていますが、連合艦隊の草鹿参謀長が「一億総特攻の魁となって頂きたい。」と伝えると、「それならわかった。」と即座に納得したと伝えられています。
第2艦隊は翌日の夕刻、山口県徳山湾を抜錨し沖縄へ向けて航行を始めましたが、その出撃は直後から米海軍の潜水艦によって報告され、米海軍はその迎撃の準備を整えていました。
米海軍側の指揮官は第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将であり、伊藤中将が米国留学中に親交を持っていた軍人でした。
スプルーアンス大将は生粋の船乗りであり、日本海海戦で空前の勝利をあげた日本海軍の東郷平八郎提督を崇拝しており、大和と艦隊決戦で対峙しようと決意していました。
しかし、第2艦隊が豊後水道を出た後も真っすぐ沖縄を目指さず西進を続けたため、日本海側に避退するおそれもあると考え、空母機動部隊指揮官であるマーク・ミッチャー中将にも備えるように命令を出していました。
ミッチャー中将は当然自分の出番だと思っていましたので、索敵機を次々に繰り出し、大和の位置を刻々とプロットし続けました。
そこで大和が日本海側に行こうとしているのでないのかという疑いもあったため、この作戦の指揮官であるスプルーアンス大将に「貴官において攻撃されるや、あるいは当方において攻撃すべきや」と問い合わせの電報を送りました。
スプルーアンス大将は帝国海軍艦隊に艦隊決戦を挑みたいという思いは持っていたものの、取り逃がすことの影響を考え、ここは航空部隊に攻撃させるべきと判断し、即座に “ You take them “ (貴官がやれ。)という命令を出しました。これが第2次大戦中を通じて最も短い命令だとされています。
米海軍の電報などを見ていると、簡潔を持って旨とすべしと教育を受けているかのようにあっさりしていて、素っ気なくも感じることがあります。
日米の共同訓練や環太平洋合同軍事演習などに参加して膨大な量の電報のやり取りをするとよく分かりますが、日本側が出す命令や報告が噛んで含めるように丁寧であるのに比べて、おそろしくドライで短い命令や報告がやり取りされています。
真珠湾攻撃に際して、ハワイの太平洋艦隊が日本から奇襲を受けたことを報告する電報が” Air raid Perl Harbor, this is no drill “(真珠湾空襲、訓練にあらず。)であったことからも分かります。
それでは日本ではどうなのでしょうか。
残念ながら帝国海軍での短い命令がどのようなものであったのかは分かりません。
ただ、海上自衛隊で最も短いと思われる命令を私は受け取ったことがあります。
命令は文書または電報で発令されます。厳密に言えば電話でも口達命令といって命令には違いないのですが命令の根拠があいまいであったり、言った言わないの問題が起きますので、通常は電報又は文書により発令されます。
命令にはいろいろな種類があり、一般命令とか、行動命令などいろいろ目的や性質に応じて出される命令も違います。また、命令を発する権限を誰が持つかも命令によって異なります。
部隊に海外派遣を命ずるのは防衛大臣の権限によるもので、海上幕僚長が出す場合には必ず(防衛大臣の命により)とカッコ書きされています。
私が佐世保の艦艇部隊司令部の幕僚をしていた時、その部隊の旗艦がウラジオストクに派遣され、ロシア海軍の創立記念式典に参加することになりました。
これは日露国交正常化交渉の最初の段階として、信頼醸成措置のために相互に海軍艦艇の訪問を行うということが日露間で合意されたことを受けたものです。
平時の海軍はそのような任務を帯びることがあります。つまり外交の手段として使われるのです。軍艦が訪問するのが友好親善の証となるのですが、これは海軍艦艇にのみに適用される考え方で、陸軍の戦車が相手の国の首都を走り回るというのは外交ではありえません。
この際に私がいた部隊の指揮官に対して出された命令は、多分、海上自衛隊で最も短い命令だったと思います。
部隊に対する命令は電報で出される命令と文書で出される命令がありますが、この時は文書で出されました。海外派遣の命令なので防衛大臣からの命令でした。
命令は『秘』文書として出されましたので、ここでその内容を詳しくお伝えすることはできませんが、第二護衛隊群司令に対し、群旗艦であった護衛艦「くらま」を率いてロシア海軍300周年行事に参加することを命じたもので、驚いたのはその命令がたった2行だったことです。
通常は海外派遣を命ずる場合には行動の基準が示されます。何月何日に佐世保を出港し、何月何日にウラジオストクに入港し、何月何日に現地を出て、いつ佐世保に帰るかという基準が示されるのが普通です。
ところがこの時はそれも示されませんでした。ロシア海軍の調整が遅く、まだ予定が1日または2日ずれる可能性があったのです。ウラジオストクという地名も記載されませんでした。これはロシア海軍の300周年行事がウラジオストクではなく、それより北にある金角湾という所で開催される可能性もあり、その場合はウラジオストクには入港せず金角湾に停泊することになるからです。
細部がまだ決まっていない段階だったのですが、命令が出ないと私たちの司令部としても準備作業に着手できなかったので、早く命令を出してくれと要求した結果出てきた命令が上記の恐ろしく短い命令で、とにかく300周年行事に参加すること、細部は指揮官所定となっていたのです。
ビックリするのは、ウラジオストクに行けということも書いていなかったことです。ロシア海軍はこの300周年行事をサンクトペテルブルクでも行う予定でした。
命令に場所と期日が記載されていないことから、理屈上は私たちの部隊は地球をグルッと回ってヨーロッパに回航し、サンクトペテルブルクへ行くことも可能でした。
部隊に海外派遣を命ずる文書が2行で終わりと言うのは前代未聞の短さであることは間違いありません。
2011年3月11日、東日本大震災の発生を受けて、自衛艦隊司令官が出した命令はひょっとするともっと短かったかもしれません。
当時私は舞鶴地方隊隷下の教育部隊の指揮官でしたので、自衛艦隊司令官の命令は見ていないのですが、その命令は多分、自衛艦隊指揮支援システム上のメールで出され、可動全艦は直ちに出港することが指示されていたはずです。そして、細部は後令するとなっていたはずです。
これは海上自衛隊がよくやるやり方です。現場指揮官がその都度現場の状況に応じて適切に判断できるようにするためには「細部は現場指揮官所定」としてやりますし、まだ細部が決まっていないがとりあえずアクションを起こす必要がある時には「細部は後令する。」と言ってとにかく行動を起こさせるのです。
これは陸・海・空自衛隊の中で海上自衛隊だけが行うやり方です。
陸上自衛隊は部隊が動き始めるとなかなかその行動を変更することができないので、周到に準備ができてから細部も細かく指示します。一方、航空自衛隊はそんなことを言っていたら戦争が終わってしまうので、スピード重視です。
しかし、いくら東日本大震災の発災に際して自衛艦隊司令官が出した命令が短くとも、出航を命じ、三陸沖を目指すこと、細部は後令することなどを記述すれば2行にはなるでしょうから、私たちが佐世保でロシア行の準備をするために受け取った命令が海上自衛隊における最も短い命令の一つであったことに変わりはないと思っています。
我が家の司令長官はさらに簡潔な命令を発することがあります。
右の眉が0.1ミリほど上がることがあり、これは「今テレビを観ているんだから邪魔をするな。」という意思表示です。
また、両方の目の焦点が急に遠方になることがあり、これは「あなたの話はもう結構だからお黙り。」という却下の意思表示です。
これらの意思表示や黙示的な命令については、その意図をしっかりと理解し、大人しく従うのが下級指揮官の責務です。
(注:何故我が家に司令長官がいるのか、詳細はこちらをご覧ください。メールマガジン「指揮官の休日」 No.008 司令官の女房は・・・
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all&m=26 )
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専門コラム「指揮官の決断」第208回 全周警戒を 掲載のご案内
当コラムでは以前に「左警戒、右見張り」という言葉をご紹介しました。
専門コラム「指揮官の決断」第52回 No.052 左警戒、右見張り https://aegis-cms.co.jp/693
これは一方向のみに注目するのではなく、常に全周の警戒を怠ってはならないという教えで、海上
自衛隊では艦橋で当直に就く若年幹部には徹底的に指導されています。若い幹部は航海指揮官補佐と
して見張指揮をしなければならないのですが、戦闘配置で左の見張りが「閃光視認!」などと報告の
声を上げると、艦橋内の双眼鏡が一斉に左を向いてしまいます。そのような時にあえて航海指揮官補
佐は右の見張りに異常の有無を確認するよう指示をしたりしなければならないのです。
それはひょっとすると襲来する敵の陽動かもしれないからです。
https://aegis-cms.co.jp/2157
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お勧めのコラム
このコーナーに時々登場する高橋雅美さんのコラムです。
臨床心理士の資格を持つメンタルヘルス専門のコンサルタントの方ですが、アフターコロナ
における従業員のメンタルの変化について警鐘を鳴らされています。
アフターコロナにおいて社会が大きく変わるであろうことを認識している経営者は多いので
すが、しかし変わるのは社会やクライアントだけではなく、勤務形態が変わってくる従業員の
メンタルにも変化が現れるはずだということで、経営者はその小さな兆候を見逃してはならな
いと説かれています。
勤務形態が変わらなくとも、従業員を取り巻く環境が変わればメンタルにも変化が現れるは
ずなので、その僅かな兆候を見逃してはならないという指摘は傾聴すべきでしょう。
「アクティブメンタル流 伸びる会社の社員と組織の育て方」
第175話: コロナ渦における社員の「心の変化」を未来の経営に活かす視点
https://cocotia.co.jp/column/communication/activemental175
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冷静に考えれば、誰が考えても成功の望みなどあり得るはずのない作戦で、山本七平氏の分析によれば大和に有終の美を飾らせようというだけの「空気」が決めてしまった作戦でした。
このことは意思決定において重要な問題を含みます。当メールマガジンの対象とするものではなく、専門コラム「指揮官の決断」に譲りますが、とにかく、世界最大の戦艦の航空援護のない出撃が命令されたのです。
第2艦隊司令長官の伊藤整一中将は大和をむざむざ沈めるだけの作戦に難色を示したと言われていますが、連合艦隊の草鹿参謀長が「一億総特攻の魁となって頂きたい。」と伝えると、「それならわかった。」と即座に納得したと伝えられています。
第2艦隊は翌日の夕刻、山口県徳山湾を抜錨し沖縄へ向けて航行を始めましたが、その出撃は直後から米海軍の潜水艦によって報告され、米海軍はその迎撃の準備を整えていました。
米海軍側の指揮官は第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将であり、伊藤中将が米国留学中に親交を持っていた軍人でした。
スプルーアンス大将は生粋の船乗りであり、日本海海戦で空前の勝利をあげた日本海軍の東郷平八郎提督を崇拝しており、大和と艦隊決戦で対峙しようと決意していました。
しかし、第2艦隊が豊後水道を出た後も真っすぐ沖縄を目指さず西進を続けたため、日本海側に避退するおそれもあると考え、空母機動部隊指揮官であるマーク・ミッチャー中将にも備えるように命令を出していました。
ミッチャー中将は当然自分の出番だと思っていましたので、索敵機を次々に繰り出し、大和の位置を刻々とプロットし続けました。
そこで大和が日本海側に行こうとしているのでないのかという疑いもあったため、この作戦の指揮官であるスプルーアンス大将に「貴官において攻撃されるや、あるいは当方において攻撃すべきや」と問い合わせの電報を送りました。
スプルーアンス大将は帝国海軍艦隊に艦隊決戦を挑みたいという思いは持っていたものの、取り逃がすことの影響を考え、ここは航空部隊に攻撃させるべきと判断し、即座に “ You take them “ (貴官がやれ。)という命令を出しました。これが第2次大戦中を通じて最も短い命令だとされています。
米海軍の電報などを見ていると、簡潔を持って旨とすべしと教育を受けているかのようにあっさりしていて、素っ気なくも感じることがあります。
日米の共同訓練や環太平洋合同軍事演習などに参加して膨大な量の電報のやり取りをするとよく分かりますが、日本側が出す命令や報告が噛んで含めるように丁寧であるのに比べて、おそろしくドライで短い命令や報告がやり取りされています。
真珠湾攻撃に際して、ハワイの太平洋艦隊が日本から奇襲を受けたことを報告する電報が” Air raid Perl Harbor, this is no drill “(真珠湾空襲、訓練にあらず。)であったことからも分かります。
それでは日本ではどうなのでしょうか。
残念ながら帝国海軍での短い命令がどのようなものであったのかは分かりません。
ただ、海上自衛隊で最も短いと思われる命令を私は受け取ったことがあります。
命令は文書または電報で発令されます。厳密に言えば電話でも口達命令といって命令には違いないのですが命令の根拠があいまいであったり、言った言わないの問題が起きますので、通常は電報又は文書により発令されます。
命令にはいろいろな種類があり、一般命令とか、行動命令などいろいろ目的や性質に応じて出される命令も違います。また、命令を発する権限を誰が持つかも命令によって異なります。
部隊に海外派遣を命ずるのは防衛大臣の権限によるもので、海上幕僚長が出す場合には必ず(防衛大臣の命により)とカッコ書きされています。
私が佐世保の艦艇部隊司令部の幕僚をしていた時、その部隊の旗艦がウラジオストクに派遣され、ロシア海軍の創立記念式典に参加することになりました。
これは日露国交正常化交渉の最初の段階として、信頼醸成措置のために相互に海軍艦艇の訪問を行うということが日露間で合意されたことを受けたものです。
平時の海軍はそのような任務を帯びることがあります。つまり外交の手段として使われるのです。軍艦が訪問するのが友好親善の証となるのですが、これは海軍艦艇にのみに適用される考え方で、陸軍の戦車が相手の国の首都を走り回るというのは外交ではありえません。
この際に私がいた部隊の指揮官に対して出された命令は、多分、海上自衛隊で最も短い命令だったと思います。
部隊に対する命令は電報で出される命令と文書で出される命令がありますが、この時は文書で出されました。海外派遣の命令なので防衛大臣からの命令でした。
命令は『秘』文書として出されましたので、ここでその内容を詳しくお伝えすることはできませんが、第二護衛隊群司令に対し、群旗艦であった護衛艦「くらま」を率いてロシア海軍300周年行事に参加することを命じたもので、驚いたのはその命令がたった2行だったことです。
通常は海外派遣を命ずる場合には行動の基準が示されます。何月何日に佐世保を出港し、何月何日にウラジオストクに入港し、何月何日に現地を出て、いつ佐世保に帰るかという基準が示されるのが普通です。
ところがこの時はそれも示されませんでした。ロシア海軍の調整が遅く、まだ予定が1日または2日ずれる可能性があったのです。ウラジオストクという地名も記載されませんでした。これはロシア海軍の300周年行事がウラジオストクではなく、それより北にある金角湾という所で開催される可能性もあり、その場合はウラジオストクには入港せず金角湾に停泊することになるからです。
細部がまだ決まっていない段階だったのですが、命令が出ないと私たちの司令部としても準備作業に着手できなかったので、早く命令を出してくれと要求した結果出てきた命令が上記の恐ろしく短い命令で、とにかく300周年行事に参加すること、細部は指揮官所定となっていたのです。
ビックリするのは、ウラジオストクに行けということも書いていなかったことです。ロシア海軍はこの300周年行事をサンクトペテルブルクでも行う予定でした。
命令に場所と期日が記載されていないことから、理屈上は私たちの部隊は地球をグルッと回ってヨーロッパに回航し、サンクトペテルブルクへ行くことも可能でした。
部隊に海外派遣を命ずる文書が2行で終わりと言うのは前代未聞の短さであることは間違いありません。
2011年3月11日、東日本大震災の発生を受けて、自衛艦隊司令官が出した命令はひょっとするともっと短かったかもしれません。
当時私は舞鶴地方隊隷下の教育部隊の指揮官でしたので、自衛艦隊司令官の命令は見ていないのですが、その命令は多分、自衛艦隊指揮支援システム上のメールで出され、可動全艦は直ちに出港することが指示されていたはずです。そして、細部は後令するとなっていたはずです。
これは海上自衛隊がよくやるやり方です。現場指揮官がその都度現場の状況に応じて適切に判断できるようにするためには「細部は現場指揮官所定」としてやりますし、まだ細部が決まっていないがとりあえずアクションを起こす必要がある時には「細部は後令する。」と言ってとにかく行動を起こさせるのです。
これは陸・海・空自衛隊の中で海上自衛隊だけが行うやり方です。
陸上自衛隊は部隊が動き始めるとなかなかその行動を変更することができないので、周到に準備ができてから細部も細かく指示します。一方、航空自衛隊はそんなことを言っていたら戦争が終わってしまうので、スピード重視です。
しかし、いくら東日本大震災の発災に際して自衛艦隊司令官が出した命令が短くとも、出航を命じ、三陸沖を目指すこと、細部は後令することなどを記述すれば2行にはなるでしょうから、私たちが佐世保でロシア行の準備をするために受け取った命令が海上自衛隊における最も短い命令の一つであったことに変わりはないと思っています。
我が家の司令長官はさらに簡潔な命令を発することがあります。
右の眉が0.1ミリほど上がることがあり、これは「今テレビを観ているんだから邪魔をするな。」という意思表示です。
また、両方の目の焦点が急に遠方になることがあり、これは「あなたの話はもう結構だからお黙り。」という却下の意思表示です。
これらの意思表示や黙示的な命令については、その意図をしっかりと理解し、大人しく従うのが下級指揮官の責務です。
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自衛隊では艦橋で当直に就く若年幹部には徹底的に指導されています。若い幹部は航海指揮官補佐と
して見張指揮をしなければならないのですが、戦闘配置で左の見張りが「閃光視認!」などと報告の
声を上げると、艦橋内の双眼鏡が一斉に左を向いてしまいます。そのような時にあえて航海指揮官補
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このコーナーに時々登場する高橋雅美さんのコラムです。
臨床心理士の資格を持つメンタルヘルス専門のコンサルタントの方ですが、アフターコロナ
における従業員のメンタルの変化について警鐘を鳴らされています。
アフターコロナにおいて社会が大きく変わるであろうことを認識している経営者は多いので
すが、しかし変わるのは社会やクライアントだけではなく、勤務形態が変わってくる従業員の
メンタルにも変化が現れるはずだということで、経営者はその小さな兆候を見逃してはならな
いと説かれています。
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弊社出版物のご紹介
『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
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発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
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