指揮官の休日 No.158 12月8日
2019/12/06 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加2をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、第166回 リーダーシップ論は難しい その2 を掲載いたしました。
前回に引き続き、組織論の一分野でありながら不毛な成果しか挙げることのできていないリーダーシップ論の問題を考えています。
詳しくは、https://aegis-cms.co.jp/1818 をご覧ください。
No.158 12月8日
今年も間もなく12月8日がやってきます。
このメールマガジンを読んでいる皆様は私が78年前の太平洋戦争劈頭の真珠湾奇襲攻撃について語ろうとしていると思われたかもしれません。
残念でした!
私たち海上自衛隊の幹部だった者にはこの日は別の意味で特別な一日なのです。
この日、広島県江田島の海上自衛隊幹部候補生学校は弥山登山競技を行います。
弥山とは広島の沖にある宮島の中央にある標高535mの山で、古くから信仰の対象とされてきた山です。
この山は観光地としても有名で、近年外国人旅行者が多数登っているようです。
確かに頂上からは360度のパノラマを楽しむことができて、風情豊かな瀬戸内海を一望することができる世界的にも珍しい景色かもしれません。
物好きな外国人旅行者は歩いて登っているようですが、まともな日本人はこの500mの山にはロープウェイで登ります。結構傾斜がきついのです。
その弥山に走って登るのです。
旧海軍の伝統を重視する海上自衛隊は兵学校の鍛錬行事であった宮島の弥山に走って登る競技を何のためらいもなく幹部候補生の年間の訓練スケジュールに取り入れてしまいました。
競技は分隊対抗で行われます。
幹部候補生学校の分隊とは約20~30人で一組として組織される単位であり、日常の生活や各種の訓練はこの分隊を単位に行われています。若い2等海尉または1等海尉の分隊長が指導するのですが、基本的には分隊員の自主性に任されており、分隊の各係の候補生が自分の担当する事項について責任をもって計画・運営していきます。
私は図書係として秘密文書の管理を担当していましたが、武器係の候補生は毎週水曜日の午後になると各人に貸与されているライフルや拳銃の整備をしろとうるさく言いますし、短艇係の候補生はカッター競技における分隊の成績に責任を持っているので、土曜や日曜に訓練を計画したがります。
そして分隊には弥山係という候補生がいて、彼が弥山登山競技に臨む分隊の訓練計画を立てるのです。
ちなみに幹部候補生学校のあらゆる鍛錬行事の結果として行われる競技すべて分隊対抗で行われます。自分の分隊の名誉のために戦うので、きつくても棄権などできないし、自分が分隊の足を引っ張るわけにはいかないという使命感で頑張らざるをえない仕組みになっているのです。
弥山登山とは文字通り宮島の弥山を分隊単位で駆け登ってその平均時間を競う競技です。25名くらいの分隊員が分隊ごとに1分間の間隔でスタートしていきます。
標高差500m全長5キロ程度を20分程度で駆け抜けることになります。
私は短距離は比較的速い方でしたが長距離はあまり好きではなく、特に候補生のころには膝に故障を抱えていたのでこの競技が嫌いでした。
水泳は得意だったので夏に行われる遠泳や水泳競技は、かなり猛烈な事前訓練が行われるのにもかかわらず苦痛ではありませんでした。遠泳は8マイル(約15キロメートル)を朝から夕方まで泳ぎ続けるのですが退屈だったという印象はありますが、きつかったという記憶はありません。
しかし長い距離を走るのは基本的に嫌いなので、この競技が近づいてくるのが楽しくありませんでした。
10月中旬、広島県の陸上自衛隊原村演習場という山の中での3日間の野外戦闘訓練が終わって一段落した頃、弥山係から12月の弥山登山競技に臨むための訓練計画が発表されます。
まず候補生学校の裏にある古鷹山に登ることから始まります。
古鷹山というのは標高390mほどの山で、海軍兵学校のころから生徒の鍛錬のためによく登らされた山であり、兵学校生徒は休日も島の外への外出が許可されていなかったため昼間は自分の鍛錬のためによく登ったそうです。
斜面にはミカン畑が広がっており、兵学校生徒はそのミカンを取って食べ、穴の開いた通貨であった5銭銅貨をマツの葉で枝に結びつけて代金を払っていたと島の古老に聞いたことがあります。
全長約4キロの登山道があり、これを登って足腰を鍛えるのです。
この山に登るほど時間が取れない日は学校近くにある江田島神社の境内に上がる数百段の階段を駆け上がります。
これを一月ほど続け、いよいよ宮島での訓練が始まります。
外出が許可される日曜日(私たちが候補生のころはまだ土曜日は半日出勤でした、)、フェリーに乗って宮島へ分隊員みんなで移動します。
9時過ぎには島へ到着し、麓にある食事ができる店で短パンTシャツに着替えさせてもらって登山口に向かいます。
入念に準備体操をしてから登り始めます。登山道には観光客もいますので、下の方から奇声を上げて登ってくる一団に驚くのですが、かまっている暇はないので横を走り抜けていきます。
全員が頂上に着くと下山開始。麓まで下りてきて呼吸を整えると再度挑戦です。
そしてまた下りてくると、着替えさせてもらった店へ戻り昼食をとります。瀬戸内海は穴子もよく獲れて美味いので穴子丼ばかり食べていたように覚えています。今でも穴子を見るとこの候補生のころの訓練を思い出します。
そして一服するともう一度駆け上がります。都合3回、弥山の上まで登ることになります。
帰りのフェリーでは疲れ果てて爆睡。
江田島に戻って下宿で風呂に入り、近くの居酒屋で夕食を取ると週末は終わりです。
さて、本番の12月8日
候補生たちはジャージーの上下に防寒用のコートを羽織り、船に乗り込みます。
この船が上陸用舟艇のような箱形の船首部分がパタンと前に倒れて砂浜に上陸できるようになっている小型船なのですが、キャビンがあるわけではなく、露天のデッキ上で12月の吹き曝しの海上を小一時間かけての移動となります。
ベンチなどもなく、だからといって候補生はしゃがみ込むなどというみっともない真似は許されないので立ったまま目的地までむっつりとして到着を待ちます。
冷え切って宮島に上陸すると、準備体操が行われ、すぐに競技開始です。
第1分隊から1分ごとにスタートしていきます。
スタートした時は分隊は一丸なのですが、約20分走っているうちに速い先頭と私のようなのろい者の間に差が開いていき、私などは1分遅れてスタートした後ろの分隊にも追い越される始末で、付いていくのに必死でした。
それでも何とか頂上まで駆け上がり、岩の上で皮肉な目で眺めている猿とあいさつを交わしたりして何とか達成感を味わっていると、早くも下山命令が出て感慨にふける余裕もあまりないまま下り始めます。
登ってきた道ではまだ競技が続いているので別の登山道を下りていきます。
これは紅葉谷という景色の綺麗な場所に下りていくルートで、それまでの訓練で何回も登ったにも関わらずまったく目に入っていなかった宮島の景色を楽しむことができます。
さすがに日本三景の一つであり、しかも季節は紅葉の真っ最中とあってその美しさは凄いものがあります。
その中を何となく達成感に浸りながら下りていくと麓の桟橋の傍で候補生学校の教官たちがドラム缶に豚汁を作って待っていてくれます。
下山してくる間に冷え切った体に浸み込んでいく豚汁のなんと美味かったことか。
私の中ではますますミシュランの星の数などどうでもよくなっていきます。
帰りもまた上陸用舟艇のような箱舟でデッキに立ったまま江田島へ戻るのですが、さすがに各候補生も多弁になっていて、往路に比べると賑やかであっという間に戻ってきてしまいます。
私たちが候補生のころは12月8日に決まっていた弥山登山競技ですが、最近は諸般の事情でこの時期の適当な日を選んで行われているようです。
幹部候補生学校で暮らしたのは1年間という短い期間でしたが、極めて濃縮された日々だったと思います。肉体的にも精神的にも自分の限界に挑戦し続けた若い日々を想い出にできることに感謝しています。
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Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
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当社Webサイトに、専門コラム「指揮官の決断」をアップしております。是非、ご
覧ください
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専門コラム「指揮官の決断」掲載のご案内
第166回 リーダーシップ論は難しい その2
前回、リーダーシップ論の変遷についてご紹介し、それが学問的には何ら成果を上げられず停滞していることに言及しました。
私は大学院の研究室以来組織学会の会員として学会の動向を見てきましたが、組織論全体としては様々な成果を上げており、特に意思決定論の分野では行動経済学の成果を取り入れて大きく進歩してきたにもかかわらず、リーダーシップ論についてはあちらこちらの矛先を向けているだけで一つの学問体系としての成果は一向に捗々しくありません。
その理由について私はリーダーの在り方と組織の生産性の関係を追及すること自体が過ちではないのかという仮説を提示しました。
私は学者でもプロの研究者でもありませんので自らの仮説を検証して公表するなどということはできませんが、リーダーシップ論が研究対象とする「リーダーシップ」の役割については海上自衛官として30年間常に考えてきました。つまり「良き指揮官」とは何かという命題です。
続きはこちらからお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/1818
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『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
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発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
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この日、広島県江田島の海上自衛隊幹部候補生学校は弥山登山競技を行います。
弥山とは広島の沖にある宮島の中央にある標高535mの山で、古くから信仰の対象とされてきた山です。
この山は観光地としても有名で、近年外国人旅行者が多数登っているようです。
確かに頂上からは360度のパノラマを楽しむことができて、風情豊かな瀬戸内海を一望することができる世界的にも珍しい景色かもしれません。
物好きな外国人旅行者は歩いて登っているようですが、まともな日本人はこの500mの山にはロープウェイで登ります。結構傾斜がきついのです。
その弥山に走って登るのです。
旧海軍の伝統を重視する海上自衛隊は兵学校の鍛錬行事であった宮島の弥山に走って登る競技を何のためらいもなく幹部候補生の年間の訓練スケジュールに取り入れてしまいました。
競技は分隊対抗で行われます。
幹部候補生学校の分隊とは約20~30人で一組として組織される単位であり、日常の生活や各種の訓練はこの分隊を単位に行われています。若い2等海尉または1等海尉の分隊長が指導するのですが、基本的には分隊員の自主性に任されており、分隊の各係の候補生が自分の担当する事項について責任をもって計画・運営していきます。
私は図書係として秘密文書の管理を担当していましたが、武器係の候補生は毎週水曜日の午後になると各人に貸与されているライフルや拳銃の整備をしろとうるさく言いますし、短艇係の候補生はカッター競技における分隊の成績に責任を持っているので、土曜や日曜に訓練を計画したがります。
そして分隊には弥山係という候補生がいて、彼が弥山登山競技に臨む分隊の訓練計画を立てるのです。
ちなみに幹部候補生学校のあらゆる鍛錬行事の結果として行われる競技すべて分隊対抗で行われます。自分の分隊の名誉のために戦うので、きつくても棄権などできないし、自分が分隊の足を引っ張るわけにはいかないという使命感で頑張らざるをえない仕組みになっているのです。
弥山登山とは文字通り宮島の弥山を分隊単位で駆け登ってその平均時間を競う競技です。25名くらいの分隊員が分隊ごとに1分間の間隔でスタートしていきます。
標高差500m全長5キロ程度を20分程度で駆け抜けることになります。
私は短距離は比較的速い方でしたが長距離はあまり好きではなく、特に候補生のころには膝に故障を抱えていたのでこの競技が嫌いでした。
水泳は得意だったので夏に行われる遠泳や水泳競技は、かなり猛烈な事前訓練が行われるのにもかかわらず苦痛ではありませんでした。遠泳は8マイル(約15キロメートル)を朝から夕方まで泳ぎ続けるのですが退屈だったという印象はありますが、きつかったという記憶はありません。
しかし長い距離を走るのは基本的に嫌いなので、この競技が近づいてくるのが楽しくありませんでした。
10月中旬、広島県の陸上自衛隊原村演習場という山の中での3日間の野外戦闘訓練が終わって一段落した頃、弥山係から12月の弥山登山競技に臨むための訓練計画が発表されます。
まず候補生学校の裏にある古鷹山に登ることから始まります。
古鷹山というのは標高390mほどの山で、海軍兵学校のころから生徒の鍛錬のためによく登らされた山であり、兵学校生徒は休日も島の外への外出が許可されていなかったため昼間は自分の鍛錬のためによく登ったそうです。
斜面にはミカン畑が広がっており、兵学校生徒はそのミカンを取って食べ、穴の開いた通貨であった5銭銅貨をマツの葉で枝に結びつけて代金を払っていたと島の古老に聞いたことがあります。
全長約4キロの登山道があり、これを登って足腰を鍛えるのです。
この山に登るほど時間が取れない日は学校近くにある江田島神社の境内に上がる数百段の階段を駆け上がります。
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外出が許可される日曜日(私たちが候補生のころはまだ土曜日は半日出勤でした、)、フェリーに乗って宮島へ分隊員みんなで移動します。
9時過ぎには島へ到着し、麓にある食事ができる店で短パンTシャツに着替えさせてもらって登山口に向かいます。
入念に準備体操をしてから登り始めます。登山道には観光客もいますので、下の方から奇声を上げて登ってくる一団に驚くのですが、かまっている暇はないので横を走り抜けていきます。
全員が頂上に着くと下山開始。麓まで下りてきて呼吸を整えると再度挑戦です。
そしてまた下りてくると、着替えさせてもらった店へ戻り昼食をとります。瀬戸内海は穴子もよく獲れて美味いので穴子丼ばかり食べていたように覚えています。今でも穴子を見るとこの候補生のころの訓練を思い出します。
そして一服するともう一度駆け上がります。都合3回、弥山の上まで登ることになります。
帰りのフェリーでは疲れ果てて爆睡。
江田島に戻って下宿で風呂に入り、近くの居酒屋で夕食を取ると週末は終わりです。
さて、本番の12月8日
候補生たちはジャージーの上下に防寒用のコートを羽織り、船に乗り込みます。
この船が上陸用舟艇のような箱形の船首部分がパタンと前に倒れて砂浜に上陸できるようになっている小型船なのですが、キャビンがあるわけではなく、露天のデッキ上で12月の吹き曝しの海上を小一時間かけての移動となります。
ベンチなどもなく、だからといって候補生はしゃがみ込むなどというみっともない真似は許されないので立ったまま目的地までむっつりとして到着を待ちます。
冷え切って宮島に上陸すると、準備体操が行われ、すぐに競技開始です。
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それでも何とか頂上まで駆け上がり、岩の上で皮肉な目で眺めている猿とあいさつを交わしたりして何とか達成感を味わっていると、早くも下山命令が出て感慨にふける余裕もあまりないまま下り始めます。
登ってきた道ではまだ競技が続いているので別の登山道を下りていきます。
これは紅葉谷という景色の綺麗な場所に下りていくルートで、それまでの訓練で何回も登ったにも関わらずまったく目に入っていなかった宮島の景色を楽しむことができます。
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その理由について私はリーダーの在り方と組織の生産性の関係を追及すること自体が過ちではないのかという仮説を提示しました。
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