指揮官の休日 No.155 中国原子力潜水艦領海侵犯事件 再録
2019/11/15 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加2をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、No.163 都道府県よ、お前もか を掲載いたしました。
市町村レベルに比べてましだと思っていた都道府県レベルの自治体の危機管理能力に学会させられています。
詳しくは、https://aegis-cms.co.jp/1796 をご覧ください。
No.155 中国原子力潜水艦領海侵犯事件 再録
毎年11月になると懐かしく思い出す事件があります。
2004年11月に生起した中国の「漢」クラス原子力潜水艦の領海侵犯事件です。海上自衛隊に創設以来2回目の「海上における警備行動」が下令され、当該潜水艦を徹底的に追い詰め、直上に占位して発音弾を投下し続けたこの作戦は中国に海上自衛隊の対潜能力の高さを思い知らせたものでした。
この時、自衛艦隊司令部の幕僚だった私は直接作戦指導には参加していませんでしたが、とても面白い経験をすることができました。
かつてその経験を配信したことがありますが、随分前のことで途中からお読みの方々には届いていないため、再配信させていただきます。
これは2017年9月1日に配信したものです。
メールマガジン 中国原子力潜水艦領海侵犯事件
世の中は、北朝鮮が北海道の上空を通過させたミサイルの話題で溢れています。
この10日前後、いわゆる政治評論家という人たちが、いかにその場の思い付きだけでものを言っているのかを思い知らされるテレビ番組ばかりでうんざりしていました。
専門コラムでも指摘していますが(http://aegis-cms.co.jp/670)、29日の早朝に北朝鮮がミサイルを実際に発射するまでは、ミサイルの軌道が測定できないから迎撃はおそらく無理、失敗すれば国民は不安になるし、そもそも迎撃などすれば北朝鮮と戦争になるからそんなことはするべきではないという東大名誉教授や、海上自衛隊がグァムへ飛ぶミサイルを撃ち落としたら集団的自衛権行使の要件から逸脱するという法律の専門家が堂々とテレビに登場していたのですが、評論も地に堕ちたという感がしていました。
政治学専門の東大名誉教授が、弾道ミサイルの軌道の計算を終えるのに必要な時間が発射から数十秒であることを知らないというのには唖然とさせられます。計算自体は一瞬なのですが、打ち上げ後のミサイルの動き方を見極めるのに若干時間がかかるのです。それでもどこを狙って発射されたものかを見極めるのに2分はかかりません。だから3分後にはJアラートが発令されるのです。
この東大名誉教授はJアラートの仕組みを全く理解していないのでしょう。また、多分迎撃は無理というのは、日本が何を根拠に数兆円を投じて弾道ミサイル迎撃態勢を整備してきたのかも理解していないということであり、政治学者としてあまりにも不勉強です。
また、グァムに飛ぶミサイルを迎撃するにはイージス艦は硫黄島より南に展開しなければなりません。本土を防衛するために日本海にいるイージス艦にグァムに向かうミサイルを迎撃できるかどうか、その程度の基礎知識のない評論家が安全保障問題を語るので多くの方々に混乱と不安を与えてしまうのです。
とにかく、マスコミの出鱈目さ加減にうんざりさせられた8月でした。
そこで今回は、最近尖閣諸島でのニュースがあまり出てこない中国のお話です。
2004年11月10日、中国人民解放軍海軍の漢型原子力潜水艦が石垣島と多良間島の間の我が国の領海を潜航したまま通過しました。
浮上して国籍を示す旗を掲げていれば無害航行だったのですが、潜航したままだったので領海侵犯となり、海上自衛隊に対して海上における警備行動が発令されました。
私はこの時、1等海佐で自衛艦隊司令部の監理主任幕僚を勤めていました。
自衛艦隊司令部というのは、旧海軍で言えば連合艦隊司令部であり、私はその総務部長のような配置にいたことになります。
この潜水艦は北海艦隊の青島海軍基地を出港した直後から捕捉されており、その針路から、我が国領海を通るつもりではないかということがあらかじめ分かっていましたので海上自衛隊としても準備を整えており、政府が海上における警備行動を発令するのを淡々と待っていた状態でした。
ただし、自衛艦隊司令部としても若干困ったことがありました。
当日、防衛省が主催するアジア太平洋安全保障セミナーに参加する各国の軍人たちの自衛艦隊司令部研修が計画されていたのです。
このセミナーは防衛省が主催し、アジア太平洋地域の様々な国の大尉から中佐くらいまでの中堅士官が参加して、研修や討論を通じて相互理解を深めるものです。
私も、かつて参加したことがありました。
この11月10日、早朝から自衛艦隊司令部は中国潜水艦への対処のための部隊への命令の発出などでバタバタしていましたが、この程度のことで研修の予定を変更してくれなどと泣き言を言うつもりは全くなかったので、朝、防衛省のセミナー担当者から問い合わせがあった時も、予定通りどうぞ、と伝えてありました。
ただ、問題は研修の一団が司令部に到着した後、自衛艦隊司令部で1時間ほど海上自衛隊の現状についてブリーフィングをすることになっており、私の同期の作戦幕僚が担当することになっていましたが、さすがに彼は地下の作戦室に入ったまま出て来れそうにありませんでした。
接遇そのものは監理幕僚部の所掌でしたので、ブリーフィング会場の準備やその後の昼食を横須賀に在泊中の護衛艦の士官室で取ってもらう調整などはしておいたのですが、ブリーフィングそのものは作戦幕僚部の担当でした。
しかし、肝心の作戦幕僚が上って来れないとなるとどうなるのか心配になり、地下の作戦室に下りていくと、彼も私の顔を見てホッとしたような顔をしました。
彼に確認すると、パワーポイントの準備はしてあるが、自分が喋るつもりでいたので原稿を作っていない、というのです。セミナーの公用語は英語ですので、英文の口述原稿さえ作ってあれば彼の部下の幕僚にブリーフィングをさせることもできるが、その準備がないということでした。英文の原稿なしにいきなりブリーフィングができる若い幕僚もいるのですが、皆手が離せないのだそうです。
末端の小さな部隊ならともかく、自衛艦隊司令部のブリーフィングで、セミナー参加者には中佐もいることから、あまり若い幹部にいい加減なブリーフィングをさせるわけにもいかないので、同期のよしみでお前頼む、ということでした。
彼の作戦幕僚部が手一杯なのはよく分かりましたので、すぐに引き受けてブリーフィング会場に上り、彼が準備したパワーポイントがどうなっているのかを確認して、どのように説明するか、セミナー一行が到着する30分前になって考え始めるというウルトラ級の付け焼刃の準備を始めました。
日本語の原稿でもあれば随分助かるのですが、作戦幕僚がどう説明しようとしていたのかを理解するのが大変だったのを覚えています。
予定通り、セミナーご一行が到着、ブリーフィングを行う会議室へ入ってもらったところ、朝ホテルを出てくる前に、「国籍不明の潜水艦」に対する海上における警備行動が発令されたことをニュースで観て、我々の対応に興味津々という雰囲気がありありと出ていました。
会議室に総員が入って準備ができたとの報告を受け、おもむろに会議室に向かった私は、やはり彼らが自衛隊の対応について相当の関心を持っていることをすぐに察知しました。
そこで登壇するなり、「今朝は、どこの国か分からないけどうちの裏庭を潜ったまま横切った奴がいて、若干バタバタしている。ブリーフィングも、本来は専門の幕僚が行う予定だったのだけど、ちょっと忙しそうなので私が代わりに喋ることになった。急なことなので、説明が不足していたら遠慮なく質問してくれ。今裏庭でウロウロしている奴のこと以外なら何でも答える。」と挨拶をしました。
セミナー参加者は総員が軍人なので、それが中国の潜水艦であることを知っており、私の挨拶を聞いてニヤニヤしていました。
私はセミナー参加者の名簿をあらかじめ受け取っていましたので、その中に中国の人民解放軍潜水艦学校の教官をしている海軍大尉がいることを知っていました。
そこで、挨拶に引き継いで間髪をいれず、「潜水艦にはさっきから浮上要求をしているのだが、全然応えるつもりが無いらしい。このままだと撃沈せざるを得ないが、どこの奴かくらいは知っておきたい。監理主任幕僚としては弔電の一つでも送る準備をしなけりゃならん。誰か知らないか?」と続けました。
私が「撃沈」の一言を出したことでロシア海軍、韓国海軍、モンゴル陸軍などの参加者はエッという顔をしましたが、アメリカやカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの海軍士官はそれが全くの冗談だと知っているのでさらにニヤニヤしていました。
中国海軍の大尉はポーカーフェイスを保ったままでしたので、ちょっとからかってやろうと思い、その中国の海軍大尉を名指しして、「大尉、我々は一昨日からその潜水艦の位置をプロットしていて、奴は今日もずっと我々にホールドダウンされているんだけど、ヘマな艦長だな。なんていう奴だ?」といきなり尋ねました。
すると、不意を突かれてうろたえた彼は思わず「私の知らない艦長です。」と答えたのです。
「なんだ、やっぱりお前のとこの船か」と切り返したところ、アメリカ以下の連中が一斉にゲラゲラと吹き出したので、可哀そうにこの若い中国の海軍大尉は真っ赤になってしまいました。
海上自衛隊の老獪な大佐と中国海軍をこれから背負っていく若い大尉の狡賢さの差が露呈した瞬間でした。
時々、彼が今どこでどのような配置に就いているのかな?と思うことがあります。
我ながら不思議なのですが、ひょっとすると敵と味方に分かれて戦う相手になったかもしれない人民解放軍の若い士官なのに、彼が彼の祖国のために元気で一生懸命に勤務してくれていればいいなと思っています。
若い頃に日本の海軍大佐にからかわれたことを恨みに思っているのか、ほろ苦い思い出として懐かしく思っているのか、訊いてみたい気もします。
私のことを覚えていてくれるかな?などと思ったりすることもあります。
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Twitterでも時々、折に触れて気が付いたことを呟いています。
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当社Webサイトに、専門コラム「指揮官の決断」をアップしております。是非、ご覧ください
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専門コラム「指揮官の決断」掲載のご案内
No.163 都道府県よ、お前もか
当コラムでは、再三にわたり市町村レベルの危機管理能力に疑問を呈してきました。
第83回 地方自治体の責任能力 https://aegis-cms.co.jp/1143
先の石巻市立大川小学校の東日本大震災における避難中の事故については、その市町村レベルの職員の能力に対して過大評価をする最高裁の判断にも疑問を呈しました。
第159回 地方自治体の責任能力 その2 https://aegis-cms.co.jp/1705
何故、市町村レベルの危機管理能力に疑問を呈するのかと言えば、海上自衛隊の部隊勤務を通じて様々な地元自治体との交渉をしてきた経験があるからなのですが、決定的には私の地元市役所の危機管理部門の呆れ果てる実態をこの目で見て、そこの特異な問題かと思っていたら、他の様々な自然災害における市町村の対応を見ているとそうでもなさそうだと気付いたところにあります。「前例の踏襲」「問題の先送り」「責任の回避」という所謂「お役所仕事」です
市町村レベルの自治体職員が皆所謂お役所仕事をしていると申し上げるつもりは毛頭ありません。地元住民のために一生懸命に仕事をしている数多くの職員の方々がおられることは百も承知です。
しかし、残念ながら危機管理部門をはじめとする私がお付き合いしてきたいくつかの部門の職員の責任感の無さ、自覚や覚悟の無さ、そして何より呆れるほどの緊張感の無さが、多くの職員の一生懸命さを覆い隠して余りあるほどのマイナスのイメージを与えてしまっています。
続きはこちらをご覧ください。
https://aegis-cms.co.jp/1796
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『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
https://aegis-cms.co.jp/book1
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
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発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
email: yhayashi@aegis-cms.co.jp
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この10日前後、いわゆる政治評論家という人たちが、いかにその場の思い付きだけでものを言っているのかを思い知らされるテレビ番組ばかりでうんざりしていました。
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政治学専門の東大名誉教授が、弾道ミサイルの軌道の計算を終えるのに必要な時間が発射から数十秒であることを知らないというのには唖然とさせられます。計算自体は一瞬なのですが、打ち上げ後のミサイルの動き方を見極めるのに若干時間がかかるのです。それでもどこを狙って発射されたものかを見極めるのに2分はかかりません。だから3分後にはJアラートが発令されるのです。
この東大名誉教授はJアラートの仕組みを全く理解していないのでしょう。また、多分迎撃は無理というのは、日本が何を根拠に数兆円を投じて弾道ミサイル迎撃態勢を整備してきたのかも理解していないということであり、政治学者としてあまりにも不勉強です。
また、グァムに飛ぶミサイルを迎撃するにはイージス艦は硫黄島より南に展開しなければなりません。本土を防衛するために日本海にいるイージス艦にグァムに向かうミサイルを迎撃できるかどうか、その程度の基礎知識のない評論家が安全保障問題を語るので多くの方々に混乱と不安を与えてしまうのです。
とにかく、マスコミの出鱈目さ加減にうんざりさせられた8月でした。
そこで今回は、最近尖閣諸島でのニュースがあまり出てこない中国のお話です。
2004年11月10日、中国人民解放軍海軍の漢型原子力潜水艦が石垣島と多良間島の間の我が国の領海を潜航したまま通過しました。
浮上して国籍を示す旗を掲げていれば無害航行だったのですが、潜航したままだったので領海侵犯となり、海上自衛隊に対して海上における警備行動が発令されました。
私はこの時、1等海佐で自衛艦隊司令部の監理主任幕僚を勤めていました。
自衛艦隊司令部というのは、旧海軍で言えば連合艦隊司令部であり、私はその総務部長のような配置にいたことになります。
この潜水艦は北海艦隊の青島海軍基地を出港した直後から捕捉されており、その針路から、我が国領海を通るつもりではないかということがあらかじめ分かっていましたので海上自衛隊としても準備を整えており、政府が海上における警備行動を発令するのを淡々と待っていた状態でした。
ただし、自衛艦隊司令部としても若干困ったことがありました。
当日、防衛省が主催するアジア太平洋安全保障セミナーに参加する各国の軍人たちの自衛艦隊司令部研修が計画されていたのです。
このセミナーは防衛省が主催し、アジア太平洋地域の様々な国の大尉から中佐くらいまでの中堅士官が参加して、研修や討論を通じて相互理解を深めるものです。
私も、かつて参加したことがありました。
この11月10日、早朝から自衛艦隊司令部は中国潜水艦への対処のための部隊への命令の発出などでバタバタしていましたが、この程度のことで研修の予定を変更してくれなどと泣き言を言うつもりは全くなかったので、朝、防衛省のセミナー担当者から問い合わせがあった時も、予定通りどうぞ、と伝えてありました。
ただ、問題は研修の一団が司令部に到着した後、自衛艦隊司令部で1時間ほど海上自衛隊の現状についてブリーフィングをすることになっており、私の同期の作戦幕僚が担当することになっていましたが、さすがに彼は地下の作戦室に入ったまま出て来れそうにありませんでした。
接遇そのものは監理幕僚部の所掌でしたので、ブリーフィング会場の準備やその後の昼食を横須賀に在泊中の護衛艦の士官室で取ってもらう調整などはしておいたのですが、ブリーフィングそのものは作戦幕僚部の担当でした。
しかし、肝心の作戦幕僚が上って来れないとなるとどうなるのか心配になり、地下の作戦室に下りていくと、彼も私の顔を見てホッとしたような顔をしました。
彼に確認すると、パワーポイントの準備はしてあるが、自分が喋るつもりでいたので原稿を作っていない、というのです。セミナーの公用語は英語ですので、英文の口述原稿さえ作ってあれば彼の部下の幕僚にブリーフィングをさせることもできるが、その準備がないということでした。英文の原稿なしにいきなりブリーフィングができる若い幕僚もいるのですが、皆手が離せないのだそうです。
末端の小さな部隊ならともかく、自衛艦隊司令部のブリーフィングで、セミナー参加者には中佐もいることから、あまり若い幹部にいい加減なブリーフィングをさせるわけにもいかないので、同期のよしみでお前頼む、ということでした。
彼の作戦幕僚部が手一杯なのはよく分かりましたので、すぐに引き受けてブリーフィング会場に上り、彼が準備したパワーポイントがどうなっているのかを確認して、どのように説明するか、セミナー一行が到着する30分前になって考え始めるというウルトラ級の付け焼刃の準備を始めました。
日本語の原稿でもあれば随分助かるのですが、作戦幕僚がどう説明しようとしていたのかを理解するのが大変だったのを覚えています。
予定通り、セミナーご一行が到着、ブリーフィングを行う会議室へ入ってもらったところ、朝ホテルを出てくる前に、「国籍不明の潜水艦」に対する海上における警備行動が発令されたことをニュースで観て、我々の対応に興味津々という雰囲気がありありと出ていました。
会議室に総員が入って準備ができたとの報告を受け、おもむろに会議室に向かった私は、やはり彼らが自衛隊の対応について相当の関心を持っていることをすぐに察知しました。
そこで登壇するなり、「今朝は、どこの国か分からないけどうちの裏庭を潜ったまま横切った奴がいて、若干バタバタしている。ブリーフィングも、本来は専門の幕僚が行う予定だったのだけど、ちょっと忙しそうなので私が代わりに喋ることになった。急なことなので、説明が不足していたら遠慮なく質問してくれ。今裏庭でウロウロしている奴のこと以外なら何でも答える。」と挨拶をしました。
セミナー参加者は総員が軍人なので、それが中国の潜水艦であることを知っており、私の挨拶を聞いてニヤニヤしていました。
私はセミナー参加者の名簿をあらかじめ受け取っていましたので、その中に中国の人民解放軍潜水艦学校の教官をしている海軍大尉がいることを知っていました。
そこで、挨拶に引き継いで間髪をいれず、「潜水艦にはさっきから浮上要求をしているのだが、全然応えるつもりが無いらしい。このままだと撃沈せざるを得ないが、どこの奴かくらいは知っておきたい。監理主任幕僚としては弔電の一つでも送る準備をしなけりゃならん。誰か知らないか?」と続けました。
私が「撃沈」の一言を出したことでロシア海軍、韓国海軍、モンゴル陸軍などの参加者はエッという顔をしましたが、アメリカやカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの海軍士官はそれが全くの冗談だと知っているのでさらにニヤニヤしていました。
中国海軍の大尉はポーカーフェイスを保ったままでしたので、ちょっとからかってやろうと思い、その中国の海軍大尉を名指しして、「大尉、我々は一昨日からその潜水艦の位置をプロットしていて、奴は今日もずっと我々にホールドダウンされているんだけど、ヘマな艦長だな。なんていう奴だ?」といきなり尋ねました。
すると、不意を突かれてうろたえた彼は思わず「私の知らない艦長です。」と答えたのです。
「なんだ、やっぱりお前のとこの船か」と切り返したところ、アメリカ以下の連中が一斉にゲラゲラと吹き出したので、可哀そうにこの若い中国の海軍大尉は真っ赤になってしまいました。
海上自衛隊の老獪な大佐と中国海軍をこれから背負っていく若い大尉の狡賢さの差が露呈した瞬間でした。
時々、彼が今どこでどのような配置に就いているのかな?と思うことがあります。
我ながら不思議なのですが、ひょっとすると敵と味方に分かれて戦う相手になったかもしれない人民解放軍の若い士官なのに、彼が彼の祖国のために元気で一生懸命に勤務してくれていればいいなと思っています。
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第159回 地方自治体の責任能力 その2 https://aegis-cms.co.jp/1705
何故、市町村レベルの危機管理能力に疑問を呈するのかと言えば、海上自衛隊の部隊勤務を通じて様々な地元自治体との交渉をしてきた経験があるからなのですが、決定的には私の地元市役所の危機管理部門の呆れ果てる実態をこの目で見て、そこの特異な問題かと思っていたら、他の様々な自然災害における市町村の対応を見ているとそうでもなさそうだと気付いたところにあります。「前例の踏襲」「問題の先送り」「責任の回避」という所謂「お役所仕事」です
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
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発行人:株式会社イージスクライシスマネジメント
代表取締役 林 祐
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Web : http://aegis-cms.co.jp
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