指揮官の休日 No.147 なぜ我が家に司令長官が君臨しているのか
2019/09/20 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加2をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、NO.155 官僚制 を掲載いたしました。
「官僚制組織」と「官僚的組織」は全く意味が違うのですが、お分かり頂けない場合もあることに気が付きました。ちょっとした解説を行っています。
詳しくは、https://aegis-cms.co.jp/1665 をご覧ください。
No.147 なぜ我が家に司令長官が君臨しているのか
今回は前回お約束したとおり、究極のどうでもいい話です。よほどお暇な方以外はサッサと読み飛ばして、上述の専門コラムの方をお読みください。
このメールマガジンを読んでいただいている方は、時々「我が家の司令長官」という表現が出てくることにお気づきかと思います。
考えてみるとちょっと不思議な分かりにくい表現かもしれませんが、これは執筆者がかつて海上自衛隊に籍を置いていたことによるものです。
したがって私の幹部候補生学校の同期生たちは誰一人この表現が理解できない者はいません
これは海上自衛隊だけではなく、世界中の海軍士官に共通しているのではないかと考え、社会学的な考察及び調査を試みたことがあり、その経緯をメールマガジンでお送りしたことがあります。(メールマガジン「指揮官の休日」 No.008 「司令官の女房は・・・」
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all&m=26 )
家に司令長官が君臨するということが具体的にどういうことなのかが問題となりますが、これは個々に様々な状況があるかと思います。司令長官の個性や行使する権限の大きさなどによって一様ではないはずです。
私個人の事情から申し上げると次の通りです。
朝、私は比較的早く起きます。
ベッドの枕もとの目覚まし時計は午前4時になると起きるよう騒ぎ始めます。
まぁ、この時計の言うがままに4時から起きていることはあまりないのですが、いずれにせよ5時前には起きて最初の珈琲を淹れにキッチンに向かいます。
珈琲を飲みながら一日の予定をチェックしたり、溜まっているメールを読んだり、やり残した仕事を続けたりしているうちに司令長官が起きてきます。
彼女が私の書斎の前を通るとき、ドアは開いていますので、私に声をかけていきます。
「お早う」(ちょっと眠そうな声です。)
そこで私は「お早うございます。」と答えます。(本当ですよ。)
これが司令部で朝のミーティングが始まる時と同じなのです。
海上自衛隊の部隊では、毎朝各部でミーティングが行われます。船では朝8時に総員が後甲板に整列して自衛艦旗が掲揚され、その後、各セクションごとに簡単に指示が出され、各配置に散っていきますが、その前に士官室では7時半ころから幹部だけでミーティングが行われています。(そうです。艦艇部隊は出勤時刻が早いのです。)
自衛艦隊司令部など陸上にある司令部では8時に国旗が掲揚された後、ミーティングが始まります。幕僚が作戦室に勢揃いして司令官の入室を待っています。
司令官の副官が作戦室の入り口から「司令官入られます。」と声を掛けると、幕僚たちは一斉に起立します。
司令官が「おはよう」と言いながら入ってくると、「おはようございます。」と返し、司令官が着席するのに合わせて席につくのです。
ねっ、我が家と一緒でしょ?
我が家では司令長官が顔を洗っている間に私がもう一度珈琲を作りにキッチンへ行きます。
私の2杯目と司令長官のお目覚め用の珈琲です。我が家の司令長官は朝の一杯目にはびっくりするほど大きなカップでミルクをたっぷりと入れた珈琲がお好みなので、ほぼ三杯分の珈琲を淹れることになります。
さて、朝の一連の行事が滞りなく終わって日中になります。
司令長官のお供で買い物に出かけることがあります。
私は買い物に行くのが好きではないのですが(嫌いなのはスーパーだけではなく、洋服であろうと文房具であろうと、とにかくショッピングに行くというのが好きではないので、ほとんどはアマゾンで用を足しています。)、司令長官は車の運転がお好きではありません。
車の運転が好きではないのは私も同様なのですが、何せ司令長官のお言いつけですので従わざるを得ません。
この時、司令長官が乗車されるに際し、助手席のドアを開けるのが私の役目です。
世のご主人たちは「嘘つけッ!」とか「信じられん」と仰るでしょう。
しかし、私の中学・高校のクラスメイト達は意外にニヤッとするかもしれません。
私が中学・高校の6年間を過ごした山手学院という学校は、当時としてはとんでもなくユニークな学校で、全寮制であり、英国のパブリックスクールを意識して開校された学校でした。
なぜそのような学校に入ったのかと言えば、父の転勤が多く、小学校を6回転校するということになったので、じっくりと勉強やクラブ活動をするためには全寮制の学校がいいだろうということと、一人っ子だったので団体生活を経験させようと両親が考えたのだと思います。
今は寮もなくなり、それほどユニークな学校というわけでもなくなりましたが、当時としてはとんでもない学校だったはずです。昭和40年代前半に米国への修学旅行などを行っている高校は全国になく、新聞が同行取材したりしていたくらいです。
徹底的なエリート教育を目指しており、例えば、寮生活をしていても掃除は自分たちの居室のみ行えばよく、その他の場所は清掃担当の職員がやってくれました。
洗濯も朝にランドリーバッグに入れて洗濯室に蹴りこんでおけば、夕方にはプレスされて戻ってきます。
食事は大きな食堂で、6人部屋の居室ごとに配膳されており、私たちは自分の部屋の分だけ皿に盛り分ければよかったのです。足りないものなどがある時には、テーブルに置かれている民族衣装を着た人形の鈴を振ると、前の方に整列していたウェートレスがやってきて注文を聞いて帰るという具合です。
つまり、それらのことに時間を使うのではなく、その分、勉強や運動に力を入れよということだったはずです。
その後、海上自衛隊の幹部候補生学校に入って、すべてを極めて制限された時間の中で自分でやらなければならなくなった時は凄まじいショックを受けたものです。
その中学・高校で私が中学3年の時に女子生徒が入学してきました。圧倒的に少数です。
彼女たちは外泊が許可されない土曜日の夕方など、普段着ている寮内服ではなく私服の着用が許可され、メイクして夕食に出てくることがありました。そして、普段の自分たちの居室ごとのテーブルに座るのではなく、男子のテーブルに一人ずつ入ってくるのです。
私たちは入学時に配布された「学院生活の手引き」という冊子で様々なマナーなどの教育を受けていたのですが、その中に、食事の際、テーブルに女性が入ってきたら男性は起立して迎え、彼女の隣の席の者は椅子を引いて彼女を着席させよ、というものがありました。
私たち男子生徒は馬鹿正直にその動作をやっていたのです。
食堂の入り口にその日自分のテーブルにつく女子生徒が現れると男子生徒は立って待ち、隣の席の生徒は椅子を引くのです。
「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、その後も私はテーブルに女性が入ってくると思わず立ち上がってしまうことが度々ありました。
この習性は海上自衛隊に入隊してからもなくならず、海外での演習や出張、あるいは連絡官として駐在の時など、オフィサーズクラブでテーブルについている際に女性が入ってくるとまず私が立ち上がるので、他の列国の士官たちが慌てて立ち上がるということを何回か経験しました。
ある時、オーストラリアの士官から「お前は英国暮らしの経験があるのか?」と尋ねられたことがあるところを見ると、私が身につけていたマナーは欧米では幾分オールドファッションなのかもしれません。
いずれにせよ、この中学・高校時代の経験がもとになって、現在でも我が家の司令長官が乗車される際に私がドアを開けるということが日常的に行われ、気が付いた方から珍しがられています。
ちなみに海上自衛隊では司令官が車両に乗る際、副官ですらドアを開けることはありません。ドアボーイまたはドライバーの仕事です。副官は司令官が後部の席に座ったのを確かめると素早く助手席に滑り込むだけです。
以上が、我が家に司令長官が君臨していることの実態です。
ちなみに、司令官の女房が司令長官であるのは、海軍はほぼ世界共通かと思われますが、陸軍ではそうではないかもしれません。
防衛大学校で一緒に教育を受けた幹部が中核となっている自衛隊ですら、陸・海・空自衛隊の文化は全く別物となっています。
ひょっとすると、海上自衛隊では司令官の女房は司令長官と呼ばれると言われていると言っても陸上自衛官は何のことか理解しないかもしれませんし、あるいは激しく首を縦に振って止まらなくなるかもしれません。
そのうちに調べてみますね。
皆様の後学のため、ちょっと役に立つことを最後に書いておきます。
英語で司令官は”Commander “ と呼ばれます。
司令官以下の小さな部隊の指揮官や艦長は” Commanding Officer “ と言います。
そして問題の司令長官は” Commander in Chief “ と呼ばれます。
報道で「第7艦隊司令官」などと呼ばれることがありますが、第7艦隊には各艦艦長の上に隊司令がおり、その上に空母機動部隊司令官、潜水艦部隊司令官、哨戒部隊司令官など司令官が何人もいて、それらを指揮しているのが第7艦隊司令官ですので、伝統的な呼び方とすれば第7艦隊司令長官とするのが正しいかもしれません。
英語での名称は” Commander in Chief, the U.S.7th Fleet “ です。
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No.155 官僚制
当コラムは危機管理の専門コラムですが、注意深く読んでいただいている方は、当コラムが一定の傾向を持っていることにお気づきかと存じます。
執筆者が海上自衛隊出身であることによって、警察官や消防官出身のコンサルタントが書くコラムとは取り上げる話題がかなり違うことはもちろんです。防災のノウハウなどは私の専門外ですので、あまり触れることはありません。
自然災害などをテーマとしても、あくまでも防災という各論ではなく、危機管理という大きな括りの中で議論を展開しています。
このコラムが組織論、意思決定論に立脚して書かれているというのが大きな特徴となっていることにお気付きの方が多いかと存じます。
これは執筆者が大学で経営学を学び、大学院で組織論を専攻し、その後自衛隊で意思決定の問題を考え続けながら組織学会会員として勉強をしていたことによるものであって、どうしてもその影響から逃れられることができないでいるためです。
続きはこちらからどうぞ。
https://aegis-cms.co.jp/1655
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『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
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今回は前回お約束したとおり、究極のどうでもいい話です。よほどお暇な方以外はサッサと読み飛ばして、上述の専門コラムの方をお読みください。
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考えてみるとちょっと不思議な分かりにくい表現かもしれませんが、これは執筆者がかつて海上自衛隊に籍を置いていたことによるものです。
したがって私の幹部候補生学校の同期生たちは誰一人この表現が理解できない者はいません
これは海上自衛隊だけではなく、世界中の海軍士官に共通しているのではないかと考え、社会学的な考察及び調査を試みたことがあり、その経緯をメールマガジンでお送りしたことがあります。(メールマガジン「指揮官の休日」 No.008 「司令官の女房は・・・」
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私個人の事情から申し上げると次の通りです。
朝、私は比較的早く起きます。
ベッドの枕もとの目覚まし時計は午前4時になると起きるよう騒ぎ始めます。
まぁ、この時計の言うがままに4時から起きていることはあまりないのですが、いずれにせよ5時前には起きて最初の珈琲を淹れにキッチンに向かいます。
珈琲を飲みながら一日の予定をチェックしたり、溜まっているメールを読んだり、やり残した仕事を続けたりしているうちに司令長官が起きてきます。
彼女が私の書斎の前を通るとき、ドアは開いていますので、私に声をかけていきます。
「お早う」(ちょっと眠そうな声です。)
そこで私は「お早うございます。」と答えます。(本当ですよ。)
これが司令部で朝のミーティングが始まる時と同じなのです。
海上自衛隊の部隊では、毎朝各部でミーティングが行われます。船では朝8時に総員が後甲板に整列して自衛艦旗が掲揚され、その後、各セクションごとに簡単に指示が出され、各配置に散っていきますが、その前に士官室では7時半ころから幹部だけでミーティングが行われています。(そうです。艦艇部隊は出勤時刻が早いのです。)
自衛艦隊司令部など陸上にある司令部では8時に国旗が掲揚された後、ミーティングが始まります。幕僚が作戦室に勢揃いして司令官の入室を待っています。
司令官の副官が作戦室の入り口から「司令官入られます。」と声を掛けると、幕僚たちは一斉に起立します。
司令官が「おはよう」と言いながら入ってくると、「おはようございます。」と返し、司令官が着席するのに合わせて席につくのです。
ねっ、我が家と一緒でしょ?
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さて、朝の一連の行事が滞りなく終わって日中になります。
司令長官のお供で買い物に出かけることがあります。
私は買い物に行くのが好きではないのですが(嫌いなのはスーパーだけではなく、洋服であろうと文房具であろうと、とにかくショッピングに行くというのが好きではないので、ほとんどはアマゾンで用を足しています。)、司令長官は車の運転がお好きではありません。
車の運転が好きではないのは私も同様なのですが、何せ司令長官のお言いつけですので従わざるを得ません。
この時、司令長官が乗車されるに際し、助手席のドアを開けるのが私の役目です。
世のご主人たちは「嘘つけッ!」とか「信じられん」と仰るでしょう。
しかし、私の中学・高校のクラスメイト達は意外にニヤッとするかもしれません。
私が中学・高校の6年間を過ごした山手学院という学校は、当時としてはとんでもなくユニークな学校で、全寮制であり、英国のパブリックスクールを意識して開校された学校でした。
なぜそのような学校に入ったのかと言えば、父の転勤が多く、小学校を6回転校するということになったので、じっくりと勉強やクラブ活動をするためには全寮制の学校がいいだろうということと、一人っ子だったので団体生活を経験させようと両親が考えたのだと思います。
今は寮もなくなり、それほどユニークな学校というわけでもなくなりましたが、当時としてはとんでもない学校だったはずです。昭和40年代前半に米国への修学旅行などを行っている高校は全国になく、新聞が同行取材したりしていたくらいです。
徹底的なエリート教育を目指しており、例えば、寮生活をしていても掃除は自分たちの居室のみ行えばよく、その他の場所は清掃担当の職員がやってくれました。
洗濯も朝にランドリーバッグに入れて洗濯室に蹴りこんでおけば、夕方にはプレスされて戻ってきます。
食事は大きな食堂で、6人部屋の居室ごとに配膳されており、私たちは自分の部屋の分だけ皿に盛り分ければよかったのです。足りないものなどがある時には、テーブルに置かれている民族衣装を着た人形の鈴を振ると、前の方に整列していたウェートレスがやってきて注文を聞いて帰るという具合です。
つまり、それらのことに時間を使うのではなく、その分、勉強や運動に力を入れよということだったはずです。
その後、海上自衛隊の幹部候補生学校に入って、すべてを極めて制限された時間の中で自分でやらなければならなくなった時は凄まじいショックを受けたものです。
その中学・高校で私が中学3年の時に女子生徒が入学してきました。圧倒的に少数です。
彼女たちは外泊が許可されない土曜日の夕方など、普段着ている寮内服ではなく私服の着用が許可され、メイクして夕食に出てくることがありました。そして、普段の自分たちの居室ごとのテーブルに座るのではなく、男子のテーブルに一人ずつ入ってくるのです。
私たちは入学時に配布された「学院生活の手引き」という冊子で様々なマナーなどの教育を受けていたのですが、その中に、食事の際、テーブルに女性が入ってきたら男性は起立して迎え、彼女の隣の席の者は椅子を引いて彼女を着席させよ、というものがありました。
私たち男子生徒は馬鹿正直にその動作をやっていたのです。
食堂の入り口にその日自分のテーブルにつく女子生徒が現れると男子生徒は立って待ち、隣の席の生徒は椅子を引くのです。
「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、その後も私はテーブルに女性が入ってくると思わず立ち上がってしまうことが度々ありました。
この習性は海上自衛隊に入隊してからもなくならず、海外での演習や出張、あるいは連絡官として駐在の時など、オフィサーズクラブでテーブルについている際に女性が入ってくるとまず私が立ち上がるので、他の列国の士官たちが慌てて立ち上がるということを何回か経験しました。
ある時、オーストラリアの士官から「お前は英国暮らしの経験があるのか?」と尋ねられたことがあるところを見ると、私が身につけていたマナーは欧米では幾分オールドファッションなのかもしれません。
いずれにせよ、この中学・高校時代の経験がもとになって、現在でも我が家の司令長官が乗車される際に私がドアを開けるということが日常的に行われ、気が付いた方から珍しがられています。
ちなみに海上自衛隊では司令官が車両に乗る際、副官ですらドアを開けることはありません。ドアボーイまたはドライバーの仕事です。副官は司令官が後部の席に座ったのを確かめると素早く助手席に滑り込むだけです。
以上が、我が家に司令長官が君臨していることの実態です。
ちなみに、司令官の女房が司令長官であるのは、海軍はほぼ世界共通かと思われますが、陸軍ではそうではないかもしれません。
防衛大学校で一緒に教育を受けた幹部が中核となっている自衛隊ですら、陸・海・空自衛隊の文化は全く別物となっています。
ひょっとすると、海上自衛隊では司令官の女房は司令長官と呼ばれると言われていると言っても陸上自衛官は何のことか理解しないかもしれませんし、あるいは激しく首を縦に振って止まらなくなるかもしれません。
そのうちに調べてみますね。
皆様の後学のため、ちょっと役に立つことを最後に書いておきます。
英語で司令官は”Commander “ と呼ばれます。
司令官以下の小さな部隊の指揮官や艦長は” Commanding Officer “ と言います。
そして問題の司令長官は” Commander in Chief “ と呼ばれます。
報道で「第7艦隊司令官」などと呼ばれることがありますが、第7艦隊には各艦艦長の上に隊司令がおり、その上に空母機動部隊司令官、潜水艦部隊司令官、哨戒部隊司令官など司令官が何人もいて、それらを指揮しているのが第7艦隊司令官ですので、伝統的な呼び方とすれば第7艦隊司令長官とするのが正しいかもしれません。
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