指揮官の休日 No.114 ダイニング・イン/ダイニング・アウト
2019/02/01 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、No.122 図上演習を経営判断に活用する裏技 を掲載いたしました。
様々な戦略策定などに驚異的な威力を発揮する図上演習をいかに経営判断に活かすことができるかについて述べています。
詳しくは、https://aegis-cms.co.jp/1427 をご覧ください。
No.114 ダイニング・イン/ダイニング・アウト
ダイニング・インやダイニング・アウトと聞いて何のことかお分かりになる方がどのくらいいらっしゃるでしょうか。何かレストランのようなものを思い浮かべた方が多いかと思います。 ダイニング・アウトはテイクアウト専門の料理屋を思い浮かべた方もいらっしゃると思います。
これらは軍隊で行われるフォーマルな食事の会のことであり、普通の夕食会とちょっと違うのが、通常は略装ではない正式の制服を着用するのですが、ダイニング・イン/アウトはドレスコードがフォーマルなので、礼装を着用することです。
海上自衛隊の制服には通常の礼装のほかに特別礼装というものがあります。特別礼装はディナージャケット風の丈の短い階級章のついたジャケットに蝶ネクタイ、カマーバンドを着用します。
ダイニング・アウトは忘年会や新年会のような位置づけで行われ、配偶者同伴で参加します。したがって私は特別礼装を着用し、我が家の司令長官も和服などそれなりにフォーマルな装いとなります。(なぜ我が家に司令長官がいるのかという点についてはバックナンバーをご確認ください。https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all&m=26 比較文化論的な観点からの社会学的分析を行っています。)
一方のダイニング・インは配偶者抜きという米軍では珍しい夕食会です。これはイギリスやアメリカの軍隊において伝統的に行われている正式な行事です。
起源は16世紀ころに英国の大学で行われていた食事会だと言われていますが、いつの間にか軍隊の行事になっていきました。
フォーマルな行事ですので、服装がフォーマルなのは当然なのですが、メニューもフルコースとなっています。任官したばかりの若手に対してマナーを教えるという意味もあるようです。
私は海上自衛隊在職中に2回米海軍で勤務したことがあります。最初は横須賀の米海軍で、二度目はペンシルバニア州の米軍基地での勤務でした。
米軍と一緒にいるとダイニング・アウトはよく招待されるのですが、ダイニング・インの方は年に一回、内輪で行われるのが普通なので参加の機会はありませんでした。
私の二度目の米軍勤務であったペンシルバニアでの駐在勤務の際、ダイニング・インに初めて参加しました。とても面白い行事だと聞いていたので興味津々でした。
ペンシルバニアで私が勤務していた基地は数千人の労働者が働いていましたが、軍人は300人程度、しかも士官は80人程度のこじんまりとした所帯でした。それだけに付き合いが緊密で、いろいろなイベントが行われていました。
ダイニング・インはこの基地のオフィサーズクラブで開かれました。
夜7時、特別礼装に身を包んでオフィサーズクラブに出かけます。オフィサーズクラブは私たち一家が住んでいた官舎から歩いて2~3分のところにありました。
入ってすぐのところにあるサロンでシェリーなどの食前酒が振舞われ、皆が集まるのを待ちます。ボールルームに準備されたテーブルの準備ができると、階級の若い者から順に呼び込まれ指定された席に着きます。周りの士官たちといろいろな話をしているうちに司令官なども入ってきて、いよいよ始まりです。
まず副長が立ち上がって開会の宣言をし、司会者を指定します。この司会者というのがダイニング・インの進行を司るのですが、これが結構大変な役で、ユーモアを交え、機転が利かねばなりません。
ダイニング・インはただの夕食会ではありません。いろいろな趣向が準備された行事です。様々な罰ゲームも準備されています。例えばこの1年間の旧悪暴露が行われ、それが認定されると5ドルの罰金となります。その旧悪を暴露するのもユーモアを持って暴露しなければならず、暴露された者が暴露した者に反撃してその旧悪を暴露できないと罰金なのです。同僚士官の日常の些細なことを面白可笑しく語って、それを旧悪に仕立て上げるというのは、それなりのセンスが必要です。
またマナー違反も5ドルの罰金であり、会食中黙っているだけでも罰金の対象となり、周りの士官たちとの会話を楽しまなければなりません。英語は苦手などと言っている場合ではないのです。さらには会食中にいきなり子羊が走り込んできて、最初にクンクンと匂いを嗅がれた者も罰金というように思わぬハプニングが様々に準備されています。その際も、何故その子羊が自分に駆け寄ってきたのかという理由を面白可笑しく説明できなければなりません。
この時は運悪く、走り込んできた子羊が一目散に私のところに走り寄って来てしまい、大変な思いをしました。そんなことが起きるとはまったく知らなかった私は不意打ちにあって困ってしまったのですが、子羊がドアを開けられたらまず目が合ったのが私で、日本人は鯨を食べたりするが、まさか羊までは喰わないだろうと勘違いして助けを求めて走ってきたのではないだろうか?などと述べて拍手喝さいを得て罰金を逃れた覚えがあります。
常に機転を利かせ、かつユーモアを持って対応しなければならず、結構大変な夕食会なのです。軍人にとって必要な、何事にも動ぜず、しかし常にユーモアを忘れないという余裕が試されるのです。
ちなみに集められた罰金は、地元の福祉施設に寄付されます。
その間にも食事が進んでいくのですが、正式なフルコース料理なので、前菜、スープ、魚、肉、ソルベ、ローストビーフ、生野菜、甘味、果物ととても食べきれる量ではない料理が次々に運ばれてきます。これを食べ残しても罰金です。
そして最後の頃、乾杯が行われます。これがシャンパンではなくポートワインでの乾杯なのです。
大きなポートワイン用グラスに少しだけワインが注がれます。そこで次々に乾杯が行われていきます。
参加しているのは米海軍の士官以外にNATO海軍の士官交換プログラムで来ている英国海軍とオーストラリア海軍の士官及び海上自衛隊からの連絡官である私ですので、米海軍、英海軍、豪海軍、海上自衛隊に対して乾杯が行われるのは当然ですが、乾杯の発声が順番に行われるので、例えば私が英国女王に対し乾杯とやると、日本国天皇に乾杯などというのが返ってきます。都合20回くらいの乾杯が行われ、そのたびに本当に杯を乾すのです。
大きなグラスに少しだけ注がれるのですが、しかし20回も乾杯をすると人事不省になりかねません。この乾杯だけでも小一時間かかるセレモニーです。
したがって、7時にオフィサーズクラブに着いて、食事が始まるのが8時頃なのですが、すべてが終わるのは午前1時というとんでもない夕食会です。米軍の士官はすべて基地内の官舎や基地の外のすぐ近くに住んでおり、海上自衛隊のように1時間以上かけて通勤してくる者がいないからいいのですが、しかし、とんでもない行事でした。
しかも、その様子が全てビデオに収められており、酔っぱらってフラフラと歩いたりしようものなら翌年のダイニング・インでいきなり罰金になりますので、シャンとして帰らなければなりません。
このダイニング・インの時は、旦那がフルコースの料理を食べているのを知っているオフィサーズ・ワイブスも黙ってはいません。
私たちがボールルームで会食している時に、隣接したレストランを借り切ってワイブスクラブの夕食会を行っています。ただ、こちらは早々に終わって10時頃には引き上げてしまいます。
ただし、彼女たちはただ引き上げるのではありません。
これはダイニング・イン恒例の裏行事なのだそうですが、先に帰る御夫人方はやはりフルコースを食べている旦那たちが面白くないということで、自分たちの夕食会のメニューはわざと質素なものとして、服装も夕食であるにも関わらずカジュアルとし、帰りがけにとんでもないいたずらをしていきます。
オフィサーズクラブの駐車場に止めている車をトイレットペーパーでグルグル巻きにしてしまうのです。ご丁寧にグルグル巻きにした挙句ビールやシャンパンでびしょ濡れにするので、狙われた車のオーナーはこれをはがすのが大変です。彼女たちの服装がカジュアルなのはこのためです。ドレスアップしたらこんな悪戯はできません。
私は基地内の官舎から歩いてきていたので被害にあわずに済みましたが、酔っぱらっている時に濡れたトイレットペーパーをはがす作業は有難くないですね。
軍人の社交というのはびっくりするほど華やかです。特に私たちが暮らしたペンシルバニアの田舎町は他にすることがないので、オフィサーズクラブを中心とする社交がとても盛んで、いろいろなイベントが行われました。オフィサーズワイブスクラブ主催のチャリティファッションショーなどもあり、奥様方がモデルを勤め、我が家の司令長官もモデルとしてステージを歩いたりしていました。
米国では軍人はエリート階級として独自のソサエティを形成しています。一般の方はなかなか覗き見ることのできない世界ですが、ミリタリー同士の付き合いは楽しく、私たちも若かったので、様々なイベントに積極的に、訳も分からないまま参加して楽しんでいました。2年の任期の間には湾岸戦争があり、勤務は繁忙を極めましたが、しかしソーシャルライフは十分に楽しんでいました。
退官後、今度はビジネスマンとして米国での駐在勤務を経験しましたが、同じ米国でも制服と背広では見える景色が全く異なるのにビックリしました。
日本からの駐在員にも大勢お目にかかりました。私がお付き合いした駐在員がほとんど中西部の何もない工業団地に所在するメーカーの駐在員だったこともあるのでしょうが、多くが単身赴任で、街の中にある日本料理店に毎晩出かけ、週末はゴルフというのが平均的だったように思います。
私は我が家の司令長官と一緒に赴任したのですが、彼女も軍と民間の違いに驚いたかと思います。かつて私たちが経験したような社交生活を覚悟して赴任したのですが、せいぜい会社の従業員を夕食に招いたり、日本からの出張者を招待したりする程度でした。お陰で二人で静かに南カリフォルニアの生活を送ることができた次第です。
米国は大きく、様々な人々が様々な生活をしています。米国暮らしをするにしても、どの年代で行くのか、どのソサエティに属するのかなどによって、その人にとっての米国はまったく異なった絵になります。私たちも2回の駐在勤務を経験していますが、私たちが知っている米国は、そのほんの一画に過ぎないのだとつくづく感じた次第でした。
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No,122 三種の神器
図上演習という言葉はあまり皆様のお耳に馴染みがないかもしれません。
防災の日などに首相が官邸の危機対策室で防災服に身を包んでコンピュータの前で何かの指示を与えたりしているシーンが報道されたりしますが、あれが図上演習です。
最近は自治体の防災訓練を図上演習で行うところが増えているようです。DIG(Disaster Imagination Game)などと称して、参加者に地震などの大規模災害発生時にどのように行動すべきか、何に注意すべきかなどを考えさせるために行われています。
図上演習とは「対応すべき事態に関し、想定を付与することにより事態を疑似体験しながら、情報の収集、分析、意思決定、伝達等の対応を机上で行う実動を伴わない演習」ということができます。
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『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
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No.114 ダイニング・イン/ダイニング・アウト
ダイニング・インやダイニング・アウトと聞いて何のことかお分かりになる方がどのくらいいらっしゃるでしょうか。何かレストランのようなものを思い浮かべた方が多いかと思います。 ダイニング・アウトはテイクアウト専門の料理屋を思い浮かべた方もいらっしゃると思います。
これらは軍隊で行われるフォーマルな食事の会のことであり、普通の夕食会とちょっと違うのが、通常は略装ではない正式の制服を着用するのですが、ダイニング・イン/アウトはドレスコードがフォーマルなので、礼装を着用することです。
海上自衛隊の制服には通常の礼装のほかに特別礼装というものがあります。特別礼装はディナージャケット風の丈の短い階級章のついたジャケットに蝶ネクタイ、カマーバンドを着用します。
ダイニング・アウトは忘年会や新年会のような位置づけで行われ、配偶者同伴で参加します。したがって私は特別礼装を着用し、我が家の司令長官も和服などそれなりにフォーマルな装いとなります。(なぜ我が家に司令長官がいるのかという点についてはバックナンバーをご確認ください。https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all&m=26 比較文化論的な観点からの社会学的分析を行っています。)
一方のダイニング・インは配偶者抜きという米軍では珍しい夕食会です。これはイギリスやアメリカの軍隊において伝統的に行われている正式な行事です。
起源は16世紀ころに英国の大学で行われていた食事会だと言われていますが、いつの間にか軍隊の行事になっていきました。
フォーマルな行事ですので、服装がフォーマルなのは当然なのですが、メニューもフルコースとなっています。任官したばかりの若手に対してマナーを教えるという意味もあるようです。
私は海上自衛隊在職中に2回米海軍で勤務したことがあります。最初は横須賀の米海軍で、二度目はペンシルバニア州の米軍基地での勤務でした。
米軍と一緒にいるとダイニング・アウトはよく招待されるのですが、ダイニング・インの方は年に一回、内輪で行われるのが普通なので参加の機会はありませんでした。
私の二度目の米軍勤務であったペンシルバニアでの駐在勤務の際、ダイニング・インに初めて参加しました。とても面白い行事だと聞いていたので興味津々でした。
ペンシルバニアで私が勤務していた基地は数千人の労働者が働いていましたが、軍人は300人程度、しかも士官は80人程度のこじんまりとした所帯でした。それだけに付き合いが緊密で、いろいろなイベントが行われていました。
ダイニング・インはこの基地のオフィサーズクラブで開かれました。
夜7時、特別礼装に身を包んでオフィサーズクラブに出かけます。オフィサーズクラブは私たち一家が住んでいた官舎から歩いて2~3分のところにありました。
入ってすぐのところにあるサロンでシェリーなどの食前酒が振舞われ、皆が集まるのを待ちます。ボールルームに準備されたテーブルの準備ができると、階級の若い者から順に呼び込まれ指定された席に着きます。周りの士官たちといろいろな話をしているうちに司令官なども入ってきて、いよいよ始まりです。
まず副長が立ち上がって開会の宣言をし、司会者を指定します。この司会者というのがダイニング・インの進行を司るのですが、これが結構大変な役で、ユーモアを交え、機転が利かねばなりません。
ダイニング・インはただの夕食会ではありません。いろいろな趣向が準備された行事です。様々な罰ゲームも準備されています。例えばこの1年間の旧悪暴露が行われ、それが認定されると5ドルの罰金となります。その旧悪を暴露するのもユーモアを持って暴露しなければならず、暴露された者が暴露した者に反撃してその旧悪を暴露できないと罰金なのです。同僚士官の日常の些細なことを面白可笑しく語って、それを旧悪に仕立て上げるというのは、それなりのセンスが必要です。
またマナー違反も5ドルの罰金であり、会食中黙っているだけでも罰金の対象となり、周りの士官たちとの会話を楽しまなければなりません。英語は苦手などと言っている場合ではないのです。さらには会食中にいきなり子羊が走り込んできて、最初にクンクンと匂いを嗅がれた者も罰金というように思わぬハプニングが様々に準備されています。その際も、何故その子羊が自分に駆け寄ってきたのかという理由を面白可笑しく説明できなければなりません。
この時は運悪く、走り込んできた子羊が一目散に私のところに走り寄って来てしまい、大変な思いをしました。そんなことが起きるとはまったく知らなかった私は不意打ちにあって困ってしまったのですが、子羊がドアを開けられたらまず目が合ったのが私で、日本人は鯨を食べたりするが、まさか羊までは喰わないだろうと勘違いして助けを求めて走ってきたのではないだろうか?などと述べて拍手喝さいを得て罰金を逃れた覚えがあります。
常に機転を利かせ、かつユーモアを持って対応しなければならず、結構大変な夕食会なのです。軍人にとって必要な、何事にも動ぜず、しかし常にユーモアを忘れないという余裕が試されるのです。
ちなみに集められた罰金は、地元の福祉施設に寄付されます。
その間にも食事が進んでいくのですが、正式なフルコース料理なので、前菜、スープ、魚、肉、ソルベ、ローストビーフ、生野菜、甘味、果物ととても食べきれる量ではない料理が次々に運ばれてきます。これを食べ残しても罰金です。
そして最後の頃、乾杯が行われます。これがシャンパンではなくポートワインでの乾杯なのです。
大きなポートワイン用グラスに少しだけワインが注がれます。そこで次々に乾杯が行われていきます。
参加しているのは米海軍の士官以外にNATO海軍の士官交換プログラムで来ている英国海軍とオーストラリア海軍の士官及び海上自衛隊からの連絡官である私ですので、米海軍、英海軍、豪海軍、海上自衛隊に対して乾杯が行われるのは当然ですが、乾杯の発声が順番に行われるので、例えば私が英国女王に対し乾杯とやると、日本国天皇に乾杯などというのが返ってきます。都合20回くらいの乾杯が行われ、そのたびに本当に杯を乾すのです。
大きなグラスに少しだけ注がれるのですが、しかし20回も乾杯をすると人事不省になりかねません。この乾杯だけでも小一時間かかるセレモニーです。
したがって、7時にオフィサーズクラブに着いて、食事が始まるのが8時頃なのですが、すべてが終わるのは午前1時というとんでもない夕食会です。米軍の士官はすべて基地内の官舎や基地の外のすぐ近くに住んでおり、海上自衛隊のように1時間以上かけて通勤してくる者がいないからいいのですが、しかし、とんでもない行事でした。
しかも、その様子が全てビデオに収められており、酔っぱらってフラフラと歩いたりしようものなら翌年のダイニング・インでいきなり罰金になりますので、シャンとして帰らなければなりません。
このダイニング・インの時は、旦那がフルコースの料理を食べているのを知っているオフィサーズ・ワイブスも黙ってはいません。
私たちがボールルームで会食している時に、隣接したレストランを借り切ってワイブスクラブの夕食会を行っています。ただ、こちらは早々に終わって10時頃には引き上げてしまいます。
ただし、彼女たちはただ引き上げるのではありません。
これはダイニング・イン恒例の裏行事なのだそうですが、先に帰る御夫人方はやはりフルコースを食べている旦那たちが面白くないということで、自分たちの夕食会のメニューはわざと質素なものとして、服装も夕食であるにも関わらずカジュアルとし、帰りがけにとんでもないいたずらをしていきます。
オフィサーズクラブの駐車場に止めている車をトイレットペーパーでグルグル巻きにしてしまうのです。ご丁寧にグルグル巻きにした挙句ビールやシャンパンでびしょ濡れにするので、狙われた車のオーナーはこれをはがすのが大変です。彼女たちの服装がカジュアルなのはこのためです。ドレスアップしたらこんな悪戯はできません。
私は基地内の官舎から歩いてきていたので被害にあわずに済みましたが、酔っぱらっている時に濡れたトイレットペーパーをはがす作業は有難くないですね。
軍人の社交というのはびっくりするほど華やかです。特に私たちが暮らしたペンシルバニアの田舎町は他にすることがないので、オフィサーズクラブを中心とする社交がとても盛んで、いろいろなイベントが行われました。オフィサーズワイブスクラブ主催のチャリティファッションショーなどもあり、奥様方がモデルを勤め、我が家の司令長官もモデルとしてステージを歩いたりしていました。
米国では軍人はエリート階級として独自のソサエティを形成しています。一般の方はなかなか覗き見ることのできない世界ですが、ミリタリー同士の付き合いは楽しく、私たちも若かったので、様々なイベントに積極的に、訳も分からないまま参加して楽しんでいました。2年の任期の間には湾岸戦争があり、勤務は繁忙を極めましたが、しかしソーシャルライフは十分に楽しんでいました。
退官後、今度はビジネスマンとして米国での駐在勤務を経験しましたが、同じ米国でも制服と背広では見える景色が全く異なるのにビックリしました。
日本からの駐在員にも大勢お目にかかりました。私がお付き合いした駐在員がほとんど中西部の何もない工業団地に所在するメーカーの駐在員だったこともあるのでしょうが、多くが単身赴任で、街の中にある日本料理店に毎晩出かけ、週末はゴルフというのが平均的だったように思います。
私は我が家の司令長官と一緒に赴任したのですが、彼女も軍と民間の違いに驚いたかと思います。かつて私たちが経験したような社交生活を覚悟して赴任したのですが、せいぜい会社の従業員を夕食に招いたり、日本からの出張者を招待したりする程度でした。お陰で二人で静かに南カリフォルニアの生活を送ることができた次第です。
米国は大きく、様々な人々が様々な生活をしています。米国暮らしをするにしても、どの年代で行くのか、どのソサエティに属するのかなどによって、その人にとっての米国はまったく異なった絵になります。私たちも2回の駐在勤務を経験していますが、私たちが知っている米国は、そのほんの一画に過ぎないのだとつくづく感じた次第でした。
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No,122 三種の神器
図上演習という言葉はあまり皆様のお耳に馴染みがないかもしれません。
防災の日などに首相が官邸の危機対策室で防災服に身を包んでコンピュータの前で何かの指示を与えたりしているシーンが報道されたりしますが、あれが図上演習です。
最近は自治体の防災訓練を図上演習で行うところが増えているようです。DIG(Disaster Imagination Game)などと称して、参加者に地震などの大規模災害発生時にどのように行動すべきか、何に注意すべきかなどを考えさせるために行われています。
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