指揮官の休日 No.104 メクラ判事件
2018/11/23 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
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https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、No.112 この国の行方は・・・を掲載いたしました。
閣僚人事を巡ってこの国の行方を憂いています。
詳しくは、https://aegis-cms.co.jp/1351 をご覧ください。
No.112 メクラ判事件
めくら(盲目)という言葉は差別用語で使ってはならないのだそうですが、ここはどうしても使わせて頂かないと話が進みませんのでご了承ください。視覚障害のある方をテーマにしている訳ではありません。
2000年問題が世の中を騒がせている頃、私は青森県にある海上自衛隊の航空基地で小さな補給部隊の指揮官として勤務していました。
その航空基地には20機の哨戒機と3機の救難ヘリコプターを中核として約1500名の隊員が勤務しており、私はそれらの航空機の整備に必要な部品、隊員の日常業務に必要な物品や備品の調達、補給などに責任を持つ部隊の指揮官でした。
その航空補給隊は航空群隷下の整備補給隊という部隊に所属しており、私の直属の上官は整備補給隊司令であり、その上は航空群司令でした。
一方で私はその基地の物品管理官であり、国の物品管理職員の指揮系統にも従っていました。つまり、私の物品管理職員としての責任と権限は財務大臣を長とする国の物品管理機構に属していたのです。
私の責任と権限の二重性が今回ご紹介する事件の源でした。
部隊勤務をしているといろいろな稟議書や合議文書が回覧されてきます。
それが航空補給隊という一つの部隊の日常業務や訓練などに関する稟議や合議を求められている場合にはその立場で判を押すので、大きな問題が無ければ簡単に意見を付す程度で通してしまうのですが、物品管理職員として稟議や合議を求められる場合には、その基地においては私が最終責任者ですので、かなり慎重に読まねばなりません。
物品や備品の管理に関すること、調達の要求に関することなど様々な案件が私の押印を求めて持ち込まれてくるのですが、限られた予算をいかに効率的に使うかという観点から考え出すと、そう簡単に了解を出すことができない案件が多いのです。
ところが私が判を押さないといつまでたっても業務が前に進まないのでイライラすることが多いらしく、整備補給隊の司令部のスタッフや航空群司令部の幕僚たちが、回覧ではなく私のところの直接持ってきて判を押せと要求することがよくあります。
着任してすぐからそのようなことが連日あり、その中で気になったことがありました。
司令部の幕僚が私に「たいした案件ではないのでめくら判でいいですから押してください。」と言うのです。
気を付けて聞いていると、私のところで滞っている案件があるとすぐに幕僚がやってきて「めくら判でいいので・・・」とせがむのです。
ひどい場合には起案文書に付箋で「めくら判で結構です。」などと書いてあるのです。
彼らにしてみれば航空補給隊長が一生懸命に読まねばならないほど大きな問題を抱える案件ではありませんというつもりなのでしょうが、私に言わせればこれほど失礼な物言いはありません。
それまで艦艇部隊しか知らなかった私は初めての航空部隊勤務で、これが飛行機乗りの文化なのかなぁなどと思ったりもしましたが、しかし、どう考えても私の責任と権限に関わる内容を私の方から「めくら判でいいか?」と聞くならともかく、相手から「めくら判を押せ」と言われる筋合いはないと考えました。
そこで私はたまたま私の着任を知って挨拶に来た地元の文房具屋の番頭さんにハンコを作ってもらうことにしました。
仕事で使う印鑑は部隊が契約をして作ってくれるのですが、これは私の個人的な用途だと言って私が自分の財布から出して作ってもらったのが「盲目」という印鑑でした。
1週間ほどしてその印鑑が出来てきました。
それ以来、司令部から稟議や合議を求められて、「めくら判でいいですから」と言われた文書にはその印鑑を使っていました。
もちろん物品管理職員として押印する場合にはその航空群では私が責任者なので正規の印を押すのですが、航空群隷下の整備補給隊の下にある航空補給隊の指揮官として「めくら判」を要求された場合には、情け容赦なくこの「盲目」と彫った印を押していました。
ところが驚いたことにそれに誰も気が付かないのです。
4か月ほどたったある日、航空群司令が気が付いたようです。
群司令部首席幕僚から直ちに司令部へ出頭せよという電話がありました。
首席幕僚の部屋に入るなりすさまじい雷が落ちました。
「貴様はいったい自分の業務を何と心得ておるのか! こんなふざけた文書を見たことがない。出鱈目もいい加減にしろ!」
首席幕僚というのは古手の一等海佐であり、私は昇任したばかりの二等海佐でした。
言うだけ言って息を荒くしている首席幕僚に私は答えました。
「見たことが無いと言われますが、この4か月間に何十通も出してますよ。しかも私は司令部の幕僚からめくら判を押せと言われた文書のみにその印鑑を押しています。
この航空群司令部の幕僚はどういう教育をされているか知りませんが、隷下部隊の指揮官に対し、めくら判でいいですからなどという失礼な要求を平気でします。司令部幕僚の業務を何と心得ているのか私の方こそ伺いたい。
私はこれまで艦艇部隊の勤務しか経験がなく、航空部隊勤務は初めてですが、艦艇部隊の群司令部幕僚として隷下部隊の隊司令や艦長にそのような口の利き方をしたことは一度もありません。それが航空部隊の常識ですか? そもそも群司令部の指揮官会議で、私たち隷下部隊の指揮官よりも司令部幕僚が上座にいるのは何故ですか?艦艇部隊では、幕僚は例え艦長より自分が先任であっても艦長の上座に座るなどということは絶対にありません。指揮官と幕僚は違うというのが艦艇部隊の常識であり、それは海上自衛隊の常識です。
しかも、私は司令部のどの幕僚よりも先任です。その私の上座に私より後任の幕僚がいるのはおかしくないですか?私が首席幕僚なら各幕僚はバックシートに下げますが。
この航空群司令部は幕僚要務というものを理解されているのですか?」
まくし立てていると群司令が顔を出し、「何を騒いでおるのか」という表情をしたので首席幕僚はそのまま黙ってしまい、私には帰れと目顔で指示を出しました。
その後司令部でどのような騒ぎがあったのか承知しておりません。その日の夜遅く、補給隊に残って仕事をしていた私のところに司令部から今から行ってもいいかという電話があり、待っていると4人の幕僚が書類を抱えてやってきました。
話を聞くと、首席幕僚からこっぴどく怒られて、それまで私が「盲目」という印を押している文書を全部持って行って押し直してもらえということだったそうです。
私はゲラゲラ笑って聞いていたのですが、印鑑を押し直すことは拒否しました。
私はすぐに首席幕僚宛にあらためて押印はしないというメモをしたため幕僚たちを帰らせました。
当然のことながら首席幕僚の怒りは頂点に達しましたが、私がさらに「群司令部から公文書改ざんに手を貸せと強要されたと申し立てるぞ」と伝えさせると、やっとその重大な論点に気が付いたのか、それ以後何も言って来なくなりました。
すでに決済された文書の起案文書に判を押し直すのは公文書の改ざんにあたる行為だからです。
この時の群司令は後に自衛艦隊司令官となり、私はその司令部の監理主任幕僚として直接お仕えすることになりました。
ある日、「おい監理主任、あの時のメクラ判はまだ持ってるか?」と訊かれました。
司令官は覚えていたのです。
そして、「俺もあの判を使いたいよ。」と言うので、「小さな航空補給隊の隊長だから許されるのであって、連合艦隊司令長官が使っちゃダメです。」とお諫めしました。
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No.112 この国の行方は・・・
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御自分で書かれることもありますが、あるシンクタンクのエコノミストのメルマガを転載されることがあり、これが結構読み応えのあり、経済の専門家が見るとこうなるのかという勉強になるので楽しみにしています。
最近配信された記事に面白いものがありました。
桜田義孝大臣(五輪担当)がこのエコノミストの方の地元から選出された政治家なのだそうです。
続きはこちらからお読みください。
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ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
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かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
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当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
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弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
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毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
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2000年問題が世の中を騒がせている頃、私は青森県にある海上自衛隊の航空基地で小さな補給部隊の指揮官として勤務していました。
その航空基地には20機の哨戒機と3機の救難ヘリコプターを中核として約1500名の隊員が勤務しており、私はそれらの航空機の整備に必要な部品、隊員の日常業務に必要な物品や備品の調達、補給などに責任を持つ部隊の指揮官でした。
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一方で私はその基地の物品管理官であり、国の物品管理職員の指揮系統にも従っていました。つまり、私の物品管理職員としての責任と権限は財務大臣を長とする国の物品管理機構に属していたのです。
私の責任と権限の二重性が今回ご紹介する事件の源でした。
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物品や備品の管理に関すること、調達の要求に関することなど様々な案件が私の押印を求めて持ち込まれてくるのですが、限られた予算をいかに効率的に使うかという観点から考え出すと、そう簡単に了解を出すことができない案件が多いのです。
ところが私が判を押さないといつまでたっても業務が前に進まないのでイライラすることが多いらしく、整備補給隊の司令部のスタッフや航空群司令部の幕僚たちが、回覧ではなく私のところの直接持ってきて判を押せと要求することがよくあります。
着任してすぐからそのようなことが連日あり、その中で気になったことがありました。
司令部の幕僚が私に「たいした案件ではないのでめくら判でいいですから押してください。」と言うのです。
気を付けて聞いていると、私のところで滞っている案件があるとすぐに幕僚がやってきて「めくら判でいいので・・・」とせがむのです。
ひどい場合には起案文書に付箋で「めくら判で結構です。」などと書いてあるのです。
彼らにしてみれば航空補給隊長が一生懸命に読まねばならないほど大きな問題を抱える案件ではありませんというつもりなのでしょうが、私に言わせればこれほど失礼な物言いはありません。
それまで艦艇部隊しか知らなかった私は初めての航空部隊勤務で、これが飛行機乗りの文化なのかなぁなどと思ったりもしましたが、しかし、どう考えても私の責任と権限に関わる内容を私の方から「めくら判でいいか?」と聞くならともかく、相手から「めくら判を押せ」と言われる筋合いはないと考えました。
そこで私はたまたま私の着任を知って挨拶に来た地元の文房具屋の番頭さんにハンコを作ってもらうことにしました。
仕事で使う印鑑は部隊が契約をして作ってくれるのですが、これは私の個人的な用途だと言って私が自分の財布から出して作ってもらったのが「盲目」という印鑑でした。
1週間ほどしてその印鑑が出来てきました。
それ以来、司令部から稟議や合議を求められて、「めくら判でいいですから」と言われた文書にはその印鑑を使っていました。
もちろん物品管理職員として押印する場合にはその航空群では私が責任者なので正規の印を押すのですが、航空群隷下の整備補給隊の下にある航空補給隊の指揮官として「めくら判」を要求された場合には、情け容赦なくこの「盲目」と彫った印を押していました。
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4か月ほどたったある日、航空群司令が気が付いたようです。
群司令部首席幕僚から直ちに司令部へ出頭せよという電話がありました。
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