指揮官の休日 No.103 奇跡の人
2018/11/16 (Fri) 06:30
XXXX 様
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指揮官の休日
――コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日――
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危機管理に挑む経営者の皆様に贈るメールマガジンです。
当社コラム「指揮官の決断」の更新のお知らせ、当社セミナー情報はもちろん、危機管理の参考となる図書、是非参加をお薦めする他社主催のセミナーなどの情報をお届けして参ります。
あわせて、常時厳しい緊張状態を強いられている経営者の皆様にちょっと一息ついて頂けるような話題を選んでお送りします。「コーヒーで始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」というサブタイトルも、日頃すさまじいストレスにさらされながらも頑張っている経営者の皆様に、たまにはそんな日がありますようにという想いを込めています。
途中からお読みの方は、お時間のあるときに是非バックナンバーをお読みください。
ワンクリックでバックナンバーを読んで頂けます。
https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all
専門コラム「指揮官の決断」は、No.111 『失敗の本質』 再考 その3 人事制度の問題 を掲載いたしました。
名著『失敗の本質』について考えています。今回はその3回目。同著で指摘された日米の人事制度を比較検討します。
詳しくは、https://aegis-cms.co.jp/1347 をご覧ください。
No.111 奇跡の人
「奇跡の人」と聞いてヘレン・ケラーの名を思い出す方は多いかと思いますが、彼女が何をした人なのかをご存知の方は実はあまり多くはないようです。
先日東京を歩いていて、ヘレン・ケラー協会という福祉団体があることを知り、いろいろなことを思い出してしまいました。
ヘレン・ケラーは南軍の軍人を父として名門の家庭に生まれた女性ですが、1歳のときにしょう紅熱に冒され、視力と聴力と発声の能力を失ってしまいました。
発声についてはその後の訓練によって少しできるようになったと言われていますが、いわゆる三重苦の中で一生懸命に勉強をして教育や社会保障、人種差別反対の分野で多大な影響を米国のみならず世界に与えた社会活動家の女性です。
日本を訪れたこともあります。
先にロシアのフィギュアスケート選手であるアリーナ・ザギトワさんに秋田犬が贈られましたが、実はヘレン・ケラー女史にも秋田犬が2頭贈られており、これが太平洋を渡った初の秋田犬となりました。
私たち視覚、聴覚が普通の者には分からない世界を彼女は生きていたのですが、壮絶な努力があったことは間違いありません。
私は中学生の時に学校の図書館にあった彼女の自叙伝と伝記の2冊を読み、凄い人がいるものだとショックを受けた記憶があります。
眼が見えないだけでも大変なのに、ヘレン・ケラーは耳も聴こえないのです。
それも成人してからではなく、ほんの1歳の頃からの障害者なのです。
つまり、眼も見えず、音も聴こえない状態で勉強を続けてきたのです。
どれほどの苦労を乗り越えなければならなかったかを考えると気の遠くなるような思いをします。
私は中学・高校の頃、英語の劣等生でした。(まぁ、正直なところ英語だけではなく、数学と物理以外は何を勉強したのか記憶がありません・・・)
しかし、卒業生は語学ができるという神話が出来上がってしまっていた大学を卒業してしまったため、入隊した海上自衛隊では、他は何もできなくとも英語だけはできるのだろうと思われたようです。
私の入隊当時、すでに米海軍との共同訓練などは日常的に行われており、環太平洋合同軍事演習など多国籍の海軍が集まる演習などへの参加も始まっていました。
しかし、当時の艦長以上の上級・高級幹部は戦前の生まれであり、平均的には現在の海上自衛隊の幹部ほど英語を日常的に使うことには慣れていませんでした。
現在は米海軍との付き合いは日常的にあらゆるレベルで行われていますし、部隊内で飛び交っている電報も英文電報であることが普通になってきました。
米軍艦艇が1隻でも参加する演習であれば、その事前研究会や事後研究会は英語で行われますし、演習中の作戦電報もすべて英語でやり取りされます。
私が佐世保を母港とする当時1隻しかなかったイージス艦を運用する部隊の司令部幕僚として勤務していた際、訓練中に司令部から出る命令や指揮官への報告などは全て英文でした。日常的に英語を扱っていたので、米軍と一緒に演習に参加することになっても違和感なく作業が出来たのです。
現在海上自衛隊の艦艇と航空機が派遣されているソマリア沖・アデン湾での海賊対処行動も多国籍の合同海上部隊により行われています。
第151合同任務部隊(Combined Task Force 151 CTF151)という部隊が編成されており、アメリカ、カナダ、デンマーク、フランス、オランダ、イギリス、オーストラリア、パキスタンなどと共に日本も参加しています。
このCTF151は参加各国が3か月の持ち回りで指揮官を出しており、海上自衛隊からもこれまでに何人もの指揮官が出ています。
海上自衛官がバーレーンにある司令部で参加各国の幕僚を指導しながら各国の艦艇を指揮しているのです。
このように国際的な活動が日常的になった現在と異なり、昭和の時代の海上自衛隊はまだ英語が話せるということは特別な能力と見做されていたようです。
任官したての初級幹部として船に乗っていると、米海軍やその他の外国海軍との様々な用事の都度、呼び出されました。私の固有の配置に関係なく呼び出されるのです。
米海軍との会議においても通訳をしたり、あるいは会議の司会をすることを求められ、そのための勉強が大変でした。
若い幹部は自分の配置に関する勉強だけでも大変で、上陸して飲み歩いていると少しは勉強しろと上司から指導されることもしばしばなのですが、その上に英語の準備をしなければならなかったのです。
それも卒業した大学に関する神話のためで、その大学の外国語学部や文学部の卒業生は語学が達者なのかもしれないのですが、私は経済学部でしたので、特に語学の勉強をしていたわけでもなく、まして中学・高校の私の英語の成績を知っているものは、よくあの大学に入れたなと感心するくらいの成績でしたので、それは大変な思いをさせられました。
その後私は連絡官として米国への駐在勤務をしたり、海上自衛隊退官後は米国企業のCEOとしてカリフォルニアで勤務することになるのですが、若い頃の私は英語の苦手意識と戦う日々でした。
ある護衛隊群で大きな演習の準備している時、米軍との研究会の日程の調整があり、様々な部会ごとに担当者が決められていくのですが、私はそのいくつかの部会に通訳や司会として参加しなければならないことになっていました。
自分の専門(その時はミサイル射撃を担当する砲術士でした。)である防空戦の要領などを事前研究会で勉強しておかなければならず、その準備をしなければならないのに、対潜戦や電子戦などの部会にも通訳として行かなければならなくなると、その勉強もしておかなれければなりません。専門用語などが分からないと話にならないからです。
さすがにうんざりしているところに、その準備会議上で、普段部下指導が厳しいことで有名なある隊司令が席上で私にこう言ったのです。
「オイ砲術士、司会とか通訳とか忙しいかもしれないが頼むな。俺は英語に関してはヘレン・ケラーだからな。ワッハッハ」
席上ではこの隊司令の冗談に笑い声が起きました。
英語は聴きとることができず、読むこともできず、話すこともできないということなのでしょう。
その護衛隊群は群旗艦と3つの護衛隊で編成されており、3人の隊司令がいました。
その隊司令は私の乗っていた船が所属する隊の司令ではありませんでしたが、その隊にいる私の同期は、初任幹部の勉強不足を理由にほとんど上陸させてもらえないという状態が続いていたことを私は知っていました。
連日の睡眠不足で疲れており、かつ、卒業した大学のお陰で私だけがやたらいろいろな用事を言いつけられるのでイライラしていた私は、その隊司令がヘレン・ケラーの名を出したことにキレてしまいました。
私は立ち上がると言い放ちました。
「それでは司令は、あらゆる努力をしてその困難を克服されるのですね?」
普段、若年幹部の勉強不足に文句を言うのなら、自らも範を示せ、米海軍との連携の強化というのは海上自衛隊創設以来のスローガンだろうが、いまだに日常会話もできないというのは何事だ、ヘレン・ケラーは「奇跡の人」と言われたくらいの努力をしたんだぞ、というのが私の思いでした。
ヘレン・ケラーの名が出なければこのような対応はしなかったと思います。
会議の席が一瞬でシーンとなりました。
その隊司令は顔を真っ赤にするどころか青ざめた顔になって睨んでいます。
向こうは1等海佐、私は2等海尉。つまり大佐に中尉が噛みついたのです。
会社でいうと初任係長が取締役に噛みついたようなものです。
会議室が凍り付いたようになりました。
一瞬おいて群司令が笑い出し、「おい司令、お前の負けだ。これからの海上自衛隊は、隣を走っている米軍の艦長と無線で直接話ができるくらいにならんといかん。お前もカラオケばかり歌ってないで少しは英語の勉強をしろ。英語のカラオケでもいいぞ。」と助け船を出してくれたので救われました。
その群司令は米海軍大学校への留学経験もある英語の堪能な指揮官でした。
一方の隊司令はその演習の終了後、別の部隊の指揮官として転出し、その部隊を最後に退職しましたので、その後お目にかかったことはありません。
ヘレン・ケラーの名を聞くと、いつもこの時のことを思い出します。
若かったとはいえ、軽はずみな発言だったという苦い思い出です。
ちなみにヘレン・ケラーはいろいろな言葉を残していますが、私が、この人からしか出てこないなと思って中学の図書館で暗記したフレーズがありますので、ご紹介いたします。
"The best and most beautiful things in the world cannot be seen or even touched. They must be felt with the heart."
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専門コラム「指揮官の決断」掲載のご案内
No.111 『失敗の本質』再考 その3 人事制度の問題
これまで2回にわたり名著『失敗の本質』を取り上げました。
第1回は意思決定の目的は何かという論点を取り上げ(No.103 『失敗の本質』再考:自らの使命は何なのかを問い続けよhttps://aegis-cms.co.jp/1275 )、第2回では意思決定の行われる環境とはどういうものかという問題を考えました(No.107 『失敗の本質』 再考 その2 意思決定の環境 https://aegis-cms.co.jp/1308 )。
今回は人事制度について考えます。
続きはこちらからお読みください。
https://aegis-cms.co.jp/1347
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『事業大躍進に挑む経営者のための「クライシスマネジメント」』
林 祐 著
セルバ出版
お求めの方は、こちらからどうぞ。
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教育訓練の受託を開始いたしました。
ご要望の多い教育訓練について、専門のスタッフを揃え、新たに教育訓練部門を開設いたしました。
内容について順次ご紹介して参りますが、弊社Webをご覧頂ければ概要をご理解頂けます。
こちらをどうぞ
https://aegis-cms.co.jp
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コンサルティングのご案内 当社では5種類のコンサルティングを行っています。
1 ACMS導入コンサルティング
イージスクライシスマネジメントシステムを導入するためのコンサルティングです。
全6回のコンサルティングで導入できるようパッケージ化されたシステムの導入支援を行います。
当社開催の戦略セミナーをあらかじめ受講し、コンサルティングの内容等にご理解を頂くことが前提
となっております。
2 スポットコンサルティング
何が問題で、どうコンサルティングを受ければいいのかわからない、自社にシステムを導入できるの
かどうかわからない、などのご相談はスポットコンサルティングをご利用ください。
3 プレコンサルティング
当社のコンサルティングの考え方をWeb等で理解されて導入を決めている方、一刻も早く導入をしたい
と考えている方には、このプレコンサルティングをお薦めします。
導入コンサルティングの第1回で行う内容を含んでおり、コンサルティングの概要及び必要な準備作業等
について、関係者全員が揃って受講できるため、理解を共有でき、導入が容易になります。
プレコンサルティングに引き続き導入コンサルティングを契約される際には、プレコンサルティング料金
は全額返金させていただきますので、費用が無駄になりません。
4 テーラード・コンサルティング
危機管理組織はすでに構築しているが指揮所演習について指導してもらいたい、中間管理層に活気がな
いので彼らに強力なリーダーとなってもらいたい、プロトコールに自信を持てるようになりたい、などのご
要望には、個別に対応させて頂きます。
5 指揮所演習コンサルティング
トップと主要スタッフだけで行うことのできるようにコンパクトに設計された図上演習です。
危機管理の先頭に立つスタッフを育てるために最適な手法として注目されています。
お気軽にご相談ください。
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図上演習コンサルティングのご案内
多数のご要望にお応えするため、図上演習に特化したコンサルティングを開始いたしました。
企業や公共放送機関での指導実績豊かなコンサルタントが各企業の実態に合わせた図上演習の運営
要領を確立します。
弊社では、図上演習を独自に企画・運営できるようになることを目標としたコンサルティングを行
っています。
毎回、図上演習の度にコンサルタントを呼ぶのではなく、自社のみで計画できる実力をつけて頂き
ます。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://aegis-cms.co.jp/cpx
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No.111 奇跡の人
「奇跡の人」と聞いてヘレン・ケラーの名を思い出す方は多いかと思いますが、彼女が何をした人なのかをご存知の方は実はあまり多くはないようです。
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ヘレン・ケラーは南軍の軍人を父として名門の家庭に生まれた女性ですが、1歳のときにしょう紅熱に冒され、視力と聴力と発声の能力を失ってしまいました。
発声についてはその後の訓練によって少しできるようになったと言われていますが、いわゆる三重苦の中で一生懸命に勉強をして教育や社会保障、人種差別反対の分野で多大な影響を米国のみならず世界に与えた社会活動家の女性です。
日本を訪れたこともあります。
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私たち視覚、聴覚が普通の者には分からない世界を彼女は生きていたのですが、壮絶な努力があったことは間違いありません。
私は中学生の時に学校の図書館にあった彼女の自叙伝と伝記の2冊を読み、凄い人がいるものだとショックを受けた記憶があります。
眼が見えないだけでも大変なのに、ヘレン・ケラーは耳も聴こえないのです。
それも成人してからではなく、ほんの1歳の頃からの障害者なのです。
つまり、眼も見えず、音も聴こえない状態で勉強を続けてきたのです。
どれほどの苦労を乗り越えなければならなかったかを考えると気の遠くなるような思いをします。
私は中学・高校の頃、英語の劣等生でした。(まぁ、正直なところ英語だけではなく、数学と物理以外は何を勉強したのか記憶がありません・・・)
しかし、卒業生は語学ができるという神話が出来上がってしまっていた大学を卒業してしまったため、入隊した海上自衛隊では、他は何もできなくとも英語だけはできるのだろうと思われたようです。
私の入隊当時、すでに米海軍との共同訓練などは日常的に行われており、環太平洋合同軍事演習など多国籍の海軍が集まる演習などへの参加も始まっていました。
しかし、当時の艦長以上の上級・高級幹部は戦前の生まれであり、平均的には現在の海上自衛隊の幹部ほど英語を日常的に使うことには慣れていませんでした。
現在は米海軍との付き合いは日常的にあらゆるレベルで行われていますし、部隊内で飛び交っている電報も英文電報であることが普通になってきました。
米軍艦艇が1隻でも参加する演習であれば、その事前研究会や事後研究会は英語で行われますし、演習中の作戦電報もすべて英語でやり取りされます。
私が佐世保を母港とする当時1隻しかなかったイージス艦を運用する部隊の司令部幕僚として勤務していた際、訓練中に司令部から出る命令や指揮官への報告などは全て英文でした。日常的に英語を扱っていたので、米軍と一緒に演習に参加することになっても違和感なく作業が出来たのです。
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第151合同任務部隊(Combined Task Force 151 CTF151)という部隊が編成されており、アメリカ、カナダ、デンマーク、フランス、オランダ、イギリス、オーストラリア、パキスタンなどと共に日本も参加しています。
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海上自衛官がバーレーンにある司令部で参加各国の幕僚を指導しながら各国の艦艇を指揮しているのです。
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任官したての初級幹部として船に乗っていると、米海軍やその他の外国海軍との様々な用事の都度、呼び出されました。私の固有の配置に関係なく呼び出されるのです。
米海軍との会議においても通訳をしたり、あるいは会議の司会をすることを求められ、そのための勉強が大変でした。
若い幹部は自分の配置に関する勉強だけでも大変で、上陸して飲み歩いていると少しは勉強しろと上司から指導されることもしばしばなのですが、その上に英語の準備をしなければならなかったのです。
それも卒業した大学に関する神話のためで、その大学の外国語学部や文学部の卒業生は語学が達者なのかもしれないのですが、私は経済学部でしたので、特に語学の勉強をしていたわけでもなく、まして中学・高校の私の英語の成績を知っているものは、よくあの大学に入れたなと感心するくらいの成績でしたので、それは大変な思いをさせられました。
その後私は連絡官として米国への駐在勤務をしたり、海上自衛隊退官後は米国企業のCEOとしてカリフォルニアで勤務することになるのですが、若い頃の私は英語の苦手意識と戦う日々でした。
ある護衛隊群で大きな演習の準備している時、米軍との研究会の日程の調整があり、様々な部会ごとに担当者が決められていくのですが、私はそのいくつかの部会に通訳や司会として参加しなければならないことになっていました。
自分の専門(その時はミサイル射撃を担当する砲術士でした。)である防空戦の要領などを事前研究会で勉強しておかなければならず、その準備をしなければならないのに、対潜戦や電子戦などの部会にも通訳として行かなければならなくなると、その勉強もしておかなれければなりません。専門用語などが分からないと話にならないからです。
さすがにうんざりしているところに、その準備会議上で、普段部下指導が厳しいことで有名なある隊司令が席上で私にこう言ったのです。
「オイ砲術士、司会とか通訳とか忙しいかもしれないが頼むな。俺は英語に関してはヘレン・ケラーだからな。ワッハッハ」
席上ではこの隊司令の冗談に笑い声が起きました。
英語は聴きとることができず、読むこともできず、話すこともできないということなのでしょう。
その護衛隊群は群旗艦と3つの護衛隊で編成されており、3人の隊司令がいました。
その隊司令は私の乗っていた船が所属する隊の司令ではありませんでしたが、その隊にいる私の同期は、初任幹部の勉強不足を理由にほとんど上陸させてもらえないという状態が続いていたことを私は知っていました。
連日の睡眠不足で疲れており、かつ、卒業した大学のお陰で私だけがやたらいろいろな用事を言いつけられるのでイライラしていた私は、その隊司令がヘレン・ケラーの名を出したことにキレてしまいました。
私は立ち上がると言い放ちました。
「それでは司令は、あらゆる努力をしてその困難を克服されるのですね?」
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向こうは1等海佐、私は2等海尉。つまり大佐に中尉が噛みついたのです。
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